以前スイス・チューリッヒの郊外のアウブルック木質バイオマス発電所の視察に訪れたことがある。

季節は6月。結構、巨大な規模の施設である。ところが訪れたチップヤードは空っぽだった。バイオマス発電所なのに燃料倉庫が空っぽ? まずこの点に驚いた。

その後巨大なボイラーなどを見学した後に解説を聞いたのだが、不思議なことに話は街づくり計画であった。隣接した地区にニュータウンをつくり、そこの地域暖房を一手に引き受けていることを語るのだ。

そしてゴミ処理の話になる。ここは本来ゴミ焼却所の一部であり、そこに木質チップボイラーが加えられたという。……ようやく理解できたのは、この発電所の主要な燃料はゴミであることだ。木質チップは、ゴミでは足りない分を補うために投入される。熱需要の多い季節は9月~5月であり、訪れた時期はチップを使わない。だからヤードは空っぽだったのだ。

発電所と街づくり計画の説明を受ける
発電所と街づくり計画の説明を受ける

肝心の(肝心、と思っているのは我々日本からの視察者だけかもしれない)発電は、その付け足しに近かった。1万世帯分の電力を生産する(ざっと年間38ギガワット時)とのことだが、燃料(ゴミ、木質チップ)のエネルギーのほとんどは熱として利用されている。おかげでエネルギー効率は90%に達するという。

日本でも建設が進む木質バイオマス発電所。その多くが発電量が5000kw級以上の事業に集中している。だが、このクラスの発電施設だと年間10万立方メートル(約6万トン)の木材が必要になるとされる。これでは原料調達が非常に難しい。

年間10万立方メートルの木材とはどれくらいか。

たとえば福井県の年間木材生産量は、ほぼ同じ10万立方メートル。奈良県で15万立方メートル、佐賀県で12万立方メートル。埼玉県だと8万立方メートルだから、全量を燃料に回しても足りない計算になる。

もちろん、それらの数字は現在生産している木材であり、すでに製材や合板、製紙用チップなどに使われているわけだから、新たに木質バイオマス発電を始めるには、それらに上乗せして生産しなければならない。福井県なら20万立方メートルに、奈良県なら25万立方メートルへと生産量を引き揚げなくてはならない。それが極めて厳しいことは、誰だってわかるだろう。

しかも、毎年である。一般に言われる未利用材は、たいてい収集困難な場所にある。最初の数年間で近隣の運び出しやすい分は底をつくのではないか。

しかも集荷距離は、大雑把に半径50キロ圏内とされる。それ以上となると、輸送費がかさんで採算が合わなくなるからだ。しかし、直径100キロの円を描くと一つの県内だけで納まる自治体は少ない。

だから計画を断念する自治体も多い。全国の聞き取り調査でも、バイオマス発電のニーズは500kwまでがもっとも多い。

ならば、500~1000kwレベルの小規模バイオマス発電に切り換えたらどうか。そして燃料も、国産未利用材にこだわらずゴミ焼却と兼ねる発想はないか。家庭用ゴミだけではなく、公園・街路樹など剪定木や農業系の木質廃棄物(果樹の選定木や雑木など)が見込める場所は少なくない。

そして発電だけでは採算が合わないから、熱利用をもっと真剣に考えてほしい。

日本の場合は地域暖房が普及していないから、インフラも一から作らないといけない。現実的なのは、暖房や温水利用の多い医療・福祉施設や、ハウス栽培などの農業施設などだろう。それらと組み合わせると、地域に雇用も生まれるし、農業の6次産業化も進めやすい。

実は、農水省が作成した資料に「小規模な木質バイオマス発電の推進について」という資料がある。そこで「小規模な木質バイオマス発電に対する機運の高まり」を指摘している。実際は「機運の高まり」というより、林野庁の願望だろうが。

大規模なバイオマス発電施設を建設し稼働させたら、もはや止められない。毎日数百トンの燃料が必要とされる。それでは、日本の森を破壊するだけだ。数年後に燃料不足で破綻するか、あるいは赤字を垂れ流しつつ製材も可能な良質の木材を燃料にしてしまうか。港に建設された施設なら海外から木質燃料を輸入することもできるが、内陸部だとにっちもさっちも行かなくなる。

今からでも計画の規模を見直し、複合的な燃料調達を可能にすることを期待する。