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「イスラム国」に引き裂かれたヤズディ教徒(2)拉致女性は「強制結婚」の名でレイプ(写真7枚)

玉本英子アジアプレス・映像ジャーナリスト
襲撃の2年前、シンジャルのヤズディ教徒の少女。(2012年7月・撮影:玉本英子)

◆戦闘員どうしで転売も

過激派組織「イスラム国」(IS)によるシンジャル襲撃が起きたのは2014年8月。標的となったのは町や村だけでなく、そこに暮らしてきたヤズディ教徒そのものだった。ISはヤズディ教を「悪魔崇拝」と決めつけ、イスラムへの改宗を強要した。受け入れない者は容赦なく銃殺。ヤズディ教を「殲滅対象」としたのだ。

女性と子どもは複数のバスに乗せられ、別の町へと連行された。事前に大型バスが準備されていたことから、襲撃段階から拉致して移送する計画になっていたと推測される。シンジャルから連れ出された女性や子どもたちはどうなったのか。

2014年8月、ISはシンジャルを襲撃、住民を次々と殺害し、女性や子どもを拉致した。ISは殺戮の様子を「アッラーの審判」などとして宣伝映像で公開した。(2015年・IS映像)
2014年8月、ISはシンジャルを襲撃、住民を次々と殺害し、女性や子どもを拉致した。ISは殺戮の様子を「アッラーの審判」などとして宣伝映像で公開した。(2015年・IS映像)
制圧直後の2104年8月末、ISは映像を公開。「改宗に応じた住民を同胞として迎えている」と宣伝する一方、シンジャル山に逃げ込んだ者については我々が知ったことではないと話した。(2014年・IS映像)
制圧直後の2104年8月末、ISは映像を公開。「改宗に応じた住民を同胞として迎えている」と宣伝する一方、シンジャル山に逃げ込んだ者については我々が知ったことではないと話した。(2014年・IS映像)
虐殺現場にあった人骨。焼けた服も散らばっていた。村の端から密かに目撃した住民によると、生きたまま焼き殺された人もいたという。(2016年・シンジャル近郊ハルダン村・撮影:玉本英子)
虐殺現場にあった人骨。焼けた服も散らばっていた。村の端から密かに目撃した住民によると、生きたまま焼き殺された人もいたという。(2016年・シンジャル近郊ハルダン村・撮影:玉本英子)

◆女性は「強制結婚」の名で繰り返しレイプ

のちに命懸けでISのもとから脱出できた女性たちの証言から、拉致の実態と過酷さが明らかになった。

ISが町を攻撃し、主婦(19)は夫と生後8か月の乳児とともに逃げたが、隣町で他の住民たちと一緒に捕まってしまう。夫を含む男性50人ほどが並ばされ、その場で銃殺された。

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モスルに移送された彼女は、結婚式場として使われていたような大きなホールに詰め込まれた。そこにはすでにたくさんの拉致女性が収容されていて、監禁部屋にいた同郷の女性2人は自ら命を絶った。一人は首を吊り、一人は手首を切ったという。

イスラムでは姦淫は認められない。だが、ISは一方的に「婚姻関係」を結ぶという形をとることで、強制性交を都合よく「合法」にした。また、第二夫人、第三夫人とされた。戦闘員どうしでの転売も繰り返された。若さや美貌によって取引額が決まり、数百ドルで転売を繰り返された中学生のヤズディ少女もいた。

彼女は子どもの命を考え、50代の男性との強制結婚を受け入れる。

シンジャルから連行されたのは大都市モスル。結婚式場のような大きなホールに詰め込まれた。戦闘員らしき男たちが「品定め」にやってきたという。(イラク北部・シャリア・2015年9月:撮影:玉本英子)
シンジャルから連行されたのは大都市モスル。結婚式場のような大きなホールに詰め込まれた。戦闘員らしき男たちが「品定め」にやってきたという。(イラク北部・シャリア・2015年9月:撮影:玉本英子)

連れて行かれた家には戦闘員らしき男たちもいた。2週間後、子どもを抱えて勝手口から脱出。夜道を数時間さまようなか、地元のイスラム教徒の男性と出会い、匿ってもらう。「ISはイスラムなんかでない」と彼女に同情した住民は知人のクルド人を手配し、他人の身分証を使ってISの検問を抜け、安全なクルディスタン地域に逃れることができた。

IS戦闘員とみられる男たちがネット上にアップした携帯動画。サウジアラビアやシリアなどの方言で「ヤズディ女性を買うんだ」と、したり顔で話す。(2014年)
IS戦闘員とみられる男たちがネット上にアップした携帯動画。サウジアラビアやシリアなどの方言で「ヤズディ女性を買うんだ」と、したり顔で話す。(2014年)

◆襲撃の2年前に村の結婚式で出会ったミルザ夫婦

ISのもとから命がけで脱出してきた女性たちの証言、シンジャル山で救出を待つ住民、クルド自治区での避難民キャンプでの過酷な生活など、町や村を回って取材を続けた。

そのなかで、気になっていたのが、シンジャル襲撃の2年前に村で出会ったミルザ夫婦だった。彼の村、シヴァシェヒドルもISに制圧されていた。

襲撃の2年前、結婚式で出会ったミルザ夫妻。妻のイヴァンは父親を殺された。家も故郷も失い、小さな避難テントで、絶望に暮れていた。(イラク北部・ザホーの避難民キャンプ・2014年9月:撮影:玉本英子)
襲撃の2年前、結婚式で出会ったミルザ夫妻。妻のイヴァンは父親を殺された。家も故郷も失い、小さな避難テントで、絶望に暮れていた。(イラク北部・ザホーの避難民キャンプ・2014年9月:撮影:玉本英子)

親戚を探し出し、話を聞くと、ミルザ夫婦は無事で、トルコ国境近くのザホーのキャンプに避難していることがわかった。シンジャル襲撃から1か月後、ミルザと会うために、私はザホーのキャンプへと向かった。

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(玉本英子・アジアプレス 第2回了・つづく・全5回)

アジアプレス・映像ジャーナリスト

東京生まれ。デザイン事務所勤務をへて94年よりアジアプレス所属。中東地域を中心に取材。アフガニスタンではタリバン政権下で公開銃殺刑を受けた女性を追い、04年ドキュメンタリー映画「ザルミーナ・公開処刑されたアフガニスタン女性」監督。イラク・シリア取材では、NEWS23(TBS)、報道ステーション(テレビ朝日)、報道特集(TBS)、テレメンタリー(朝日放送)などで報告。「戦火に苦しむ女性や子どもの視点に立った一貫した姿勢」が評価され、第54回ギャラクシー賞報道活動部門優秀賞。「ヤズディ教徒をはじめとするイラク・シリア報告」で第26回坂田記念ジャーナリズム賞特別賞。各地で平和を伝える講演会を続ける。

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