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新時代の中国EVメーカー「NIO(蔚来汽車)」。「ライフスタイル」の提供とデジタル活用の戦略紹介

滝沢頼子インド/中国ITジャーナリスト、UXデザイナ/コンサルタント
(写真:ロイター/アフロ)

提供するのは「高級会員制サービス」

NIOの車「NIO es8」(出典:NIO公式サイト)
NIOの車「NIO es8」(出典:NIO公式サイト)

「中国のテスラ」と言われている、新進気鋭の電気自動車(EV)メーカー「NIO(蔚来汽車)」。「アフターデジタル」の著者のビービット藤井氏によると、NIOは「テスラは顧客へキーを渡すまでが仕事だけれど、NIOはキーを渡してからが仕事だ」と言っているという。

これはどういうことだろうか。

車メーカーでありながら、「高級会員制サービス」という側面を持っているのがNIOの特徴だ。いわば「NIOの会員チケットが600万円(実際のところ車代だがその比喩)、それを買ったら車がお土産として付いてくる」という考え方のようだ。

参考:『アフターデジタル』主著者 藤井保文と考えるこれからの10年|オフライン消滅後の世界を占う中国最新事例

アプリで高頻度で接点を取りつつ、コミュニティ・帰属意識を醸成

この「高級会員制サービス」を成り立たせるためのハブとなっているNIOのアプリについて詳しく見ていこう。

NIOのカーオーナーが投稿している写真(NIOのアプリより)
NIOのカーオーナーが投稿している写真(NIOのアプリより)

まずはNIOユーザ同士のSNS機能がある。ここではNIOのカーオーナーたちが日常の写真や、NIOで行った場所の写真、「NIO House」で仕事をしている写真などをアップしている。「NIOってカッコ良い」というロイヤリティ意識や帰属意識を醸成する意図もあるだろう。

また毎日アプリにチェックインするとポイントがたまる。チェックインは一日1回しかできないので、ポイントを貯めるには頻繁にアプリを開く必要がある。

アプリを開けば、ポイントを貯めるためのチェックインだけではなく、SNSやイベント情報など他の情報も目に入る可能性もある。高頻度で接点を取ってエンゲージメントを高めていく、うまい仕組みだ。

たまったポイントは、アプリ内のECサイト(ショッピングサイト)でおしゃれな日用品やNIOグッズを買ったり、「NIO HOUSE」のカフェで飲み物を買うのにも使える。

NIOのショッピングサイト。おしゃれな日用品やNIOグッズを購入できる。水色の文字が必要なポイント数。ポイントではなくお金でも購入は可能。(NIOアプリより)
NIOのショッピングサイト。おしゃれな日用品やNIOグッズを購入できる。水色の文字が必要なポイント数。ポイントではなくお金でも購入は可能。(NIOアプリより)

ちなみに取り扱われているNIOグッズは皆なかなかおしゃれである。扱われているラインナップも、パーカー、Tシャツ、カーディガンなどの洋服に始まり、カバンや筆記用具、コーヒーカップにグラスなど、多種多様だ。

店舗でもいくつか販売されており、筆者も何度か店舗を訪れているうちに思わずスマホケースを購入してしまった。

筆者はNIOの車を持っているわけではないが、おしゃれなNIOグッズを持ち、身に着けることがステータスとなり、ロイヤリティ醸成につながることを身をもって感じている。

「ライフ」を楽しむための徹底したアフターサービス。もちろん全てアプリから。

またNIOの特徴の一つには、手厚いアフターサービスがある。

日本の車メーカーもアフターサービスを行なっている。しかし一般的には、修理可能部分が一部のものに限られたり、走行距離や使用年数の上限が決まっていることが多い。

そのため、結局適用されるのかされないのか、どこまで適用されるかよくわからなくなってしまうことになりがちだ。

NIOはこのアフターサービスが徹底している。

年14,800元(23万円相当)を支払うと、点検・修理・メンテナンスサービスや、洗車サービス、空港での駐車サービス、運転代行サービス、など数多くの充実したアフターサービスを受けることができる。

また点検等で車を引き渡すことが必要な場合は、スタッフが自宅まで車を取りに来てくれ、終了したら家まで戻してくれる。

購入後の保障関連のサブスクリプションサービスは「NIO Service」と称されている(出典:NIO公式サイト)
購入後の保障関連のサブスクリプションサービスは「NIO Service」と称されている(出典:NIO公式サイト)

運転代行サービスや点検時に自宅まで車を取りに来てくれるサービスは、一般的に言われている「アフターサービス」という域を超えているようにも思える。

上記のような手厚いサービスを年14,800元(23万円相当)を支払いさえすれば全て使えるため、適用範囲やお金のことを考えず、困ったらNIOに頼ることができる。

これらのサービスも、もちろんアプリから予約ができる。電話での面倒なやりとりなどは一切不要だ。

またこれだけにとどまらない。

電気自動車(EV)で面倒なのが車の充電だが、NIOでは年10800元(17万円相当)もしくは月980元(1.5万円相当)を支払うと、スタッフが家まで車を取りに来て充電をして戻してくれるというサービスを受けられる。加えて、一定量までは充電スタンドでの充電が無料になる。

充電関連のサブスクリプションサービスは「NIO Power」と称されている(出典:NIO公式サイト)
充電関連のサブスクリプションサービスは「NIO Power」と称されている(出典:NIO公式サイト)

充電はスポットを見つけたり、充電の間待機したりする必要があるため、忙しいユーザにとっては面倒に感じられることも多い。それをスタッフが代わりに行なってくれるというのは大きなメリットと感じられるだろう。

またメンテナンスなどは、本来であれば運転してディーラーに行き、メンテナンスが終わるまでその場で待機し、また家まで車を運転して帰る必要があるため、丸一日潰れるような大仕事だ。

これが全てNIO側で実施してもらえるとなると、今まで人によっては「無駄」に感じられていた時間を他のことに使うことができる。

日本の点検やメンテナンスは「安全に快適に移動できる」を実現する、言わば「普通の」メンテナンスだ。一方、NIOのサービスはそれを前提とし「メンテナンスを気にさせず生活を楽しんでもらおう」という一歩先の思想の下、作られているように見受けられる。

オンラインとオフラインが溶け合う専用ラウンジ 〜サードプレイス、親子の遊び場、そしてコミュニティ作りの場

NIOがすごいのはアフターサービスだけではない。

NIOは各地にショールームと併設された「NIO HOUSE」というラウンジを持っている。

ここは専用のカードキーを持つNIOのカーオーナーしか入れない。

「NIO House」内のキッズスペース(筆者撮影)
「NIO House」内のキッズスペース(筆者撮影)

中には、コワーキンスペース、カフェ、ミニ図書館、キッズスペースなどがあり、自由に使うことができる。またキッズスペースでは親子向けイベントも頻繁に行われている。

イベントのお知らせはアプリからチェックできる。

また先述の通り、アプリで貯めたポイントはここのカフェで使うこともできる。

どこかに出かけてちょっと休憩にここに寄っても良いし、子どもとの時間を過ごすために親子イベントに来ても良い。

「NIO House」内のコワーキングスペース(筆者撮影)
「NIO House」内のコワーキングスペース(筆者撮影)

内装はシンプルかつ高級感があり、NIOオーナーしか入れないということもあって特別感がある。筆者も何度か見学に行ったことがあるが、カフェで使われるコップ一つとっても洗練されており、とても気持ちの良い場所であった。

そしてここに来れば「NIOを所有している人」、つまり、自分とある程度近い生活レベルやライフスタイルの人と出会うことができる。またNIOのアプリのSNS機能を使って、NIOユーザと繋がることもできる。オンライン・オフライン共にNIOコミュニティを作る仕掛けがあるのだ。

従来のメーカーの域を超え、オンラインを活用し「ライフスタイル」を提供する取り組み。存続がかかる今後の動向に注目

NIOはもはや従来の「メーカー」の域を超えたサービス提供を行なっていると言える。

NIOは「車」を提供しているのではない。また「移動」だけを提供しているわけでもない。NIOの車を入り口とした「会員制サービス」で快適なライフスタイルを提供し、顧客ロイヤリティを高めているのだ。

また顧客ロイヤリティを高めるための「高頻度での接点確保」および「ストレスのない良いユーザ体験の提供」を実現するため、アプリがハブとなっていると言えるだろう。

ただ、とても目新しい取り組みではあるものの、NIOの業績は厳しい。2019年通期の売上高は前年比58%増の78億2500万元(約1200億円)だったが、純損失も109億2200万元(約1680億円)と、前年より22.4%増加している。

参考:テスラを追う中国EVメーカー「NIO」が決算発表 通年損失1600億円超 黒字への道険しく

新型コロナウイルスの影響もあり、今年はさらに苦難の年となる可能性が高い。

NIOは車メーカーの新時代のモデルケースとなれるか。今後の動向に注目だ。

インド/中国ITジャーナリスト、UXデザイナ/コンサルタント

株式会社hoppin 代表取締役 CEO。東京大学卒業後、株式会社ビービットにてUXコンサルタント。上海オフィスの立ち上げも経験。その後、上海のデジタルマーケティングの会社、東京にてスタートアップを経て、中国/インドのビジネス視察ツアー、中国/インド市場リサーチや講演/勉強会、UXコンサルティングなどを実施する株式会社hoppinを創業。2022年からはインドのバンガロール在住。

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