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ダンスや絵の授業も自宅から、新型コロナ流行下での中国のオンライン教育とは

滝沢頼子インド/中国ITジャーナリスト、UXデザイナ/コンサルタント
(写真:アフロ)

中国では新型コロナウイルスの感染拡大により春節(旧正月)の休暇が延長、休暇終了後も多くの学校が継続して休校した。生徒、学生たちは学校が休みの間、日々の授業を受けることができなくなってしまった。

この状況を受けて民間企業が一斉にオンライン教育の提供を始めている。

加えて、小中学校など公的な教育機関もオンライン教育を実施し始めた。今回は、新型コロナウイルス感染拡大下で進む中国のオンライン教育の状況を紹介する。

民間企業が率先して無料学習コンテンツを配信

春節の休暇が延長されると、まずは民間企業が次々に無料の学習コンテンツを配信し始めた。

「ビリビリは勉強をやめない」と銘打って教育コンテンツを集めたWebページ(ビリビリより)
「ビリビリは勉強をやめない」と銘打って教育コンテンツを集めたWebページ(ビリビリより)

動画配信サービス「ビリビリ動画」を提供するビリビリ(bilibili)は2020年2月7日、教育機関と提携して学習動画を無料公開していると中国のSNS、微博(Weibo)の公式アカウントで明らかにした。

動画は9年間の義務教育の範囲をカバーしている。加えて、清華大学や北京大学などの有名大学と提携し、教授の特別授業の配信なども実施しているという。「ビリビリは勉強をやめない」と銘打ったWebページが新設され、コンテンツがまとめられている。

その他にも、テンセント動画、愛奇芸(iQiyi)など様々な動画サイトが教育コンテンツの配信を開始している。

動画サイトだけではない。ショート動画アプリも無料学習コンテンツの配信を実施した。

例えば、ショート動画大手の快手(Kuaishou)は、新東方(New Oriental)、VIPKIDなど中国で著名な教育系企業40社あまりと提携。同社のアプリのサイドバーに「停課不停学(休校でも学びは止めない)」という専用コーナーを設置。小中高生向けコンテンツ、就学前教育、職業教育など豊富な学習コンテンツの無料提供を実施している。

快手アプリの学習コンテンツページ(小学3年生向けのコンテンツを表示)
快手アプリの学習コンテンツページ(小学3年生向けのコンテンツを表示)

日本では「TikTok」として知られる「抖音(Douyin)」も同様に学習コンテンツを提供している。2020年2月5日には清華大学と北京大学が抖音で授業を生配信。中国メディアの報道によると、第1回の視聴者数は19万人を超えたという。

教育系企業も授業の無料提供を開始、新型コロナ後の顧客獲得見据えか

自社でコンテンツを持つ教育系企業も、こぞって授業の無料提供を開始した。

オンライン教育プラットフォーム「有道精品課」を提供する大手ITグループ網易 (NetEase)は2020年1月24日、武漢市の小中学生に対し、冬休み講座を同日から無料で提供すると発表した。

また、オンライン教育企業の好未来(TAL)は2020年1月26日、武漢がある湖北省の教育・訓練企業に対し、同時中継プラットフォームと技術的サポートを無償で提供すると発表。本来小学生1200元(約18万円)/科目、中学生1500元(約23万円)/科目のオンライン授業を無料にした。

その翌日の1月27日には、大手教育企業の「新東方(New Oriental)」が2000万元(約3億1400万円)を湖北省赤十字会に寄付するとともに、小中学生向けのオンラインコースの全ての春季補講クラスのライブ授業を無料開放することなどを発表している。

教育系企業にとっては、これを機会に自社の名前を知ってもらったり、アプリを使ってもらったりすることで、自社のアピールにもなるという側面も大きいだろう。

公的教育機関もオンライン授業を開始

民間企業に続いて、自治体や公的な教育機関も続々とオンライン授業を開始した。

上海市は、2週間延長された小中高生の春節休み中に、教育委員会が電子版テキストを各学年向けに発行し、子供たちの勉強をサポート。その後、上海市教育委員会が開発したオンライン教育システム「上海微校」の運営を開始した。

このシステムは子どもの身分証番号と連動しており、オンラインで授業を受けたり、出された課題を提出できたりするものだ。

上海市が提供する「上海微校」のWebサイト
上海市が提供する「上海微校」のWebサイト

また2020年3月2日には、上海市の全ての公立小中高校のオンライン授業の時間割が公開された。

月曜日から金曜日まで、午前から午後まで授業があり、1つの授業の時間は20分だ。

授業は、前述の上海微校に加え、テレビや民間の動画サイトなど様々なプラットフォームで視聴できる。

上海市は上記のように市全体で統一的な時間割を提供しているが、オンライン授業の実施方法は地域や学校によって異なるようだ。

広東省のある私立小学校に子どもを通わせる筆者の知人からは、「同じ学校なのに科目によってプラットフォームが異なり、面倒」「先生のWeChatから直接授業の動画が送られてくるので (普段使いのアカウントと分けるために)アカウントを新設した」といった声が聞かれた。対応する親側の負担もあるようだ。

Dingtalkアプリでは、オンライン授業の実施はもちろん、クラスのグループに今日復習すべきことを送ることや宿題管理もできる(Dingtalkのサイトより)
Dingtalkアプリでは、オンライン授業の実施はもちろん、クラスのグループに今日復習すべきことを送ることや宿題管理もできる(Dingtalkのサイトより)

また学校と親との連絡方法は、「WeChat」もしくは「Dingtalk」などのコミュニケーションアプリを使うことが多いようだ。

特に「Dingtalk」については、オンライン授業開始に伴い学校からインストールを求められたという話を筆者の友人からはよく聞く。

絵画やダンスもオンラインで、トラブルがあっても臨機応変に

学校の勉強にとどまらず、習い事も各企業が様々に工夫をしながらオンラインで授業を実施しているようだ。

中国に住む筆者の知人によると、子どもが普段は教室に通っている英語や絵画の習い事もDingtalk上での授業で代替されたという。

オンラインで行われる絵の習い事の様子。先生が説明しながら絵を描いている (筆者友人撮影)
オンラインで行われる絵の習い事の様子。先生が説明しながら絵を描いている (筆者友人撮影)

また習い事のダンスは、ショート動画配信サイト「抖音(tiktok)」の生配信で授業を実施した。課題の提出も同軸動画配信サイトを使ったという。

ここまで見てきたように、今回の新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、中国ではオンライン教育の利用がかなり広く行われたと言えそうだ。

ただ、もともとリアルの教室でやっていたことをオンラインでやるというのは生徒にとってはもちろん、先生にとっても初めてのこと。全てがうまくいくというわけではないようだ。

筆者の別の知人によると、オンラインに振り替えられた塾の授業でアプリを使った資料配布がうまくいかず、結局個人のWeChatに送付されたという。

またオンラインでの授業に必要なアプリのインストールやサイトへのログインなどは親の手助けを必要とするが、親のサポートを十分に得られなかったり、通信環境や機器がそろっていなかったりと、全ての生徒に快適な体験を提供することは難しい。

それでも「準備が完璧ではないからやらない」「困る人がいる可能性があるからやらない」ではなく、素早く決定し、できる範囲で市民や企業が努力していくことは、このような危機的状況では大切なことだと筆者は感じる。

日本と同じく中国においても、新型コロナウイルス流行下の一斉休校は多くの親たちや学校関係者にとって苦境だ。

それでも中国では、これを機会として「オンライン教育」という領域でできることをより模索する結果に繋がった。得られたものは少なくないはずだ。

インド/中国ITジャーナリスト、UXデザイナ/コンサルタント

株式会社hoppin 代表取締役 CEO。東京大学卒業後、株式会社ビービットにてUXコンサルタント。上海オフィスの立ち上げも経験。その後、上海のデジタルマーケティングの会社、東京にてスタートアップを経て、中国/インドのビジネス視察ツアー、中国/インド市場リサーチや講演/勉強会、UXコンサルティングなどを実施する株式会社hoppinを創業。2022年からはインドのバンガロール在住。

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