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中国で広がるホテル向けの給仕サービスロボット

滝沢頼子インド/中国ITジャーナリスト、UXデザイナ/コンサルタント
(写真:アフロ)

中国でホテル向けの給仕サービスロボットが徐々に増えている。開発したのは、2014年創業の云迹科技(yunji technology)だ。中国国内にとどまらず、日本や韓国、シンガポールなどでもサービスを提供している。

給仕サービスロボット(筆者撮影)
給仕サービスロボット(筆者撮影)

主な用途はデリバリーされた商品の運搬

成都で宿泊したホテルで、ロボットがエレベーターに乗り客室まで荷物を運んでいた。ホテル向けの給仕サービスロボットのようだ。

ホテルのスタッフに聞くと、主にホテルにデリバリーされた出前の食べ物を客室に運ぶために使われているとのこと。

フロント前でロボットを操作するホテルマン(筆者撮影)
フロント前でロボットを操作するホテルマン(筆者撮影)

筆者が泊まったホテルにおける使い方はこうだ。

まず、出前の配達人がホテルのフロントに荷物を届ける。ホテルスタッフは荷物を受け取り、注文したユーザーの部屋に電話をしロボットが届ける旨を伝える。

本体を操作しロボット本体の中に荷物を入れると、ロボットはエレベーターに乗る。この時、自動的に行先階ボタンが押される。

ロボットが部屋の前に到着すると、部屋に到着した旨の自動音声電話がかかってくるので、取りに行く、という形だ。

云迹科技(yunji technology)公式YouTubeチャンネルより

受取人、配達人の「ラスト10メートル」問題を解決

中国のデリバリーは安くて早くてとても便利である。しかし、ある程度セキュリティがしっかりしている建物だと、部屋の前まで行くということはできない。受取人が、配達人が入れるエリア(基本的には1階のエントランスエリア)まで降りてくる必要がある。

デリバリーは、安さと手軽さから、日本とは感覚が異なり毎日のように使う人もいるようなサービスである。特別に収入が高いわけでなくても、毎日、時には一日2,3回もデリバリーを使うことがある位だ。

そのため、毎回下まで降りないといけないとなると、なかなか面倒に感じてしまう。

またデリバリーの配達人としては、一階まで取りに来る人を待つという時間コストがなくなる。彼らは配達の時間制限やノルマに追われながら配達しているため、「降りてくる人を待つ」という自分でコントロール不可能な時間コストの負荷は大きいはずだ。

このロボットは、配達の「ラストワンマイル」ならぬ「ラスト10メートル」を解消する、痒い所に手が届く解決策だと言えるだろう。

運営企業は2014年創業の云迹科技(yunji technology)、競合出現も一歩先を行く

このロボットを開発しているのは、云迹科技(yunji technology)という2014年に創業された企業だ。2016年1月には本ロボットの第一弾、2017年6月には第二弾を開発し、2019年2月にはBラウンドの資金調達を完了している。

また、既に500以上のホテルで130万人以上にサービスを提供しており、2018年11月には、ホテル・病院・政府機関などでの合計走行距離が合計15万kmを超えたと発表している。

中国では100以上の都市で使われているが、国内にとどまらず、既に日本、韓国、シンガポール、タイ、サウジアラビアや北アメリカ市場で使われているという。

しかし競合も多く存在する。

アリババ・グループのAlibaba AI Labsは2018年9月、ホテル向けの給仕サービスロボットを「スペース・エッグ」(Space Egg)を発表した。

アリババ公式サイトより
アリババ公式サイトより

アリババ運営の近未来型のホテル「Fly Zoo Hotel」(中国名/菲住布渇)で活用されている。

参考記事:杭州のアリババ本社近くにハイテクを活用した未来ホテル「FlyZooHotel」が12月にオープン!

また、2018年に最大級の電気機器の展示会であるCES(Consumer Electronics Show)にて、韓国のLGが「CLOi」(クロイー)というブランドの、ホテル向けの給仕サービスロボットを出品している。

LG公式サイトより
LG公式サイトより

このように、ホテル給仕サービスロボット領域にはアリババやLGのような大企業も参入し始めている。しかし、現在は云迹科技(yunji technology)が開発時期・導入件数の面で先を行っている状況だ。

加えて、2019年1月には中国最大のオンライン旅行会社「携程」(Ctrip)が云迹科技(yunji technology)に戦略投資を行っている。これで更に勢いを増すことになるだろうか。

日本でのロボット活用はこれから

日本において、サービス業でのロボット活用と言えばエイチ・アイ・エス グループが展開する「変なホテル」が有名だ。

変なホテル 舞浜 東京ベイ(booking.comより)
変なホテル 舞浜 東京ベイ(booking.comより)

しかし、まだ「ロボット活用による効率化/省力化」というより「物珍しいロボットが沢山いること」自体を呼びものにしている印象だ。

部屋までモノを運ぶというような、人が行う付加価値が低いサービスについてはより無人化が進んでいくと思われる。

それにより、単純作業ではなく人が行った方が良い付加価値が高いサービスに資源を集中することができ、現状と同じかそれより低いコストで、顧客の満足度向上にも寄与できるだろう。

中国では一般的になりつつあるロボット活用の流れはいつ日本に来るだろうか。

今後の動向も注目していきたい。

インド/中国ITジャーナリスト、UXデザイナ/コンサルタント

株式会社hoppin 代表取締役 CEO。東京大学卒業後、株式会社ビービットにてUXコンサルタント。上海オフィスの立ち上げも経験。その後、上海のデジタルマーケティングの会社、東京にてスタートアップを経て、中国/インドのビジネス視察ツアー、中国/インド市場リサーチや講演/勉強会、UXコンサルティングなどを実施する株式会社hoppinを創業。2022年からはインドのバンガロール在住。

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