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あの“ファーストキャビン”が破産「ウチをカプセルホテルと呼ばないで下さい」評論家との確執と業界の暗部

瀧澤信秋ホテル評論家
カプセルホテルのイメージを超えたファーストキャビンも拡大路線だった(筆者撮影)

衝撃的なニュースが飛び込んできた。

(株)ファーストキャビン(TSR企業コード:298123460、法人番号:1010001101241、千代田区紀尾井町3-6、2006(平成18)年7月7日、資本金11億9500万円、岸田登社長)と関連4社は4月24日、東京地裁に破産を申請した。同日中には破産開始決定を受ける見通し。ファーストキャビンの負債総額は11億3082万円(2019年3月期決算時点)。

出典:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200424-00010001-biz_shoko-bus_all

 

あのファーストキャビンが破産を申請したという。

飛行機がコンセプトのキャビン

ビジネスクラスのキャビン(筆者撮影)
ビジネスクラスのキャビン(筆者撮影)

ファーストキャビンといえば、従来とは異なるスタイルのカプセルホテルとして一世を風靡、人気を博したブランドだ。伝統的なカプセルホテルは上下2段で寝る体勢での利用だったが、ファーストキャビンは直立できるスペースを確保したことが斬新であった。一般的なタイプでキャビンは「ファーストクラス」「ビジネスクラス」の2クラスがあり、その名の通り“飛行機”がコンセプト。

キャビン内はいずれも上下空間を確保する。ビジネスクラスは専有面積2.2平方mで100センチm幅のベッドに26インチ液晶テレビを完備、ファーストクラスは4.4平方mで120センチm幅のベッドに32インチのテレビを備えている。「カプセルホテルでもなく、ビジネスホテルでもない、新しいスタイルのホテル(ファーストキャビン公式サイトより)」を標榜、全国展開が進んでいた。

他店の大きくプライベート空間を確保したスタイル(筆者撮影)
他店の大きくプライベート空間を確保したスタイル(筆者撮影)

他のカプセルホテルブランドでも細長いユニットを交互に組み合わせることにより、直立できる空間はもとより、専用のデスクなど配置するスタイルの施設が増えているが、寝る際は身体を屈めてユニットを出入りすることになる。ファーストキャビンは寝室という意味合いでの一定空間を確保した点で異色であった。

激増した簡易宿所にカプセル“タイプ”の施設も増加

女性が利用できる施設も増えた(筆者撮影)
女性が利用できる施設も増えた(筆者撮影)

そもそも、カプセルホテルは旅館業法上では簡易宿所に区分される(ホステル(ゲストハウス)や一部民泊も簡易宿所)。カプセルユニットはあくまでもベッド(家具)であり客室ではない。ユニットが設置された部屋そのものが客室ということになる。一般のホテルと比較して法令上の条件としてのハードルは低く、短期間での開業や低廉なイニシャルコストも特徴で、訪日外国人旅行者の激増にもマッチした業態であった。

一般ホテルの増加について具体的な数字を見ると、2014年から2018年の5年間で約600軒の増加とされる(観光庁統計)。一方、増加数でいえば簡易宿所は一般ホテルの比ではなく約7000軒も増えたとされる(観光庁統計)。簡易宿所の軒数としたが、カプセルホテルの軒数については統計がなくそもそも定義が難しい。ホステルでも木枠でカプセルタイプの囲いを作ったような形状もあるし、どこからどこまでがカプセルホテルなのかという話になる。

とはいえ、“カプセルホテル”というワードはキャッチャーでありメディア受けもいいことから、形状が似ていることでカプセルホテルを標榜、“カプセルホテル”ブームに乗って躍進する施設が増加した。参考までに法令では「カプセル型ベッド」とされ、出入りする部分を除き、就寝する空間の大部分が合成樹脂、金属その他の材料で覆われた箱型の寝台と定義されている(その他出火防止、延焼拡大防止、避難の安全確保等を図るために様々な規定が定められている)。筆者は“専用のユニットを利用した施設”をカプセルホテルと定義しているが、そうした施設の軒数は全国で約300軒とみている。

ウチはカプセルホテルではありません

個人的な話となり恐縮であるが、実はファーストキャビンはホテル評論家として複雑な思いのあるブランドだ。筆者の評論カテゴリーは、デラックスホテルからビジネスホテル、旅館、民泊から公共の宿まで宿泊施設全般がその対象。もちろんカプセルホテルも含まれる。2014年は365日で372軒の異なるホテルへチェックインするミッションを敢行したが、東京都のカプセルホテル全軒(女性専用施設は除く)へチェックインする機会にもなった。当時あったファーストキャビンへも全軒出向いた。

カプセルホテルというワードはキャッチャーであることを前述したが、ホテル活況下でメディアからはカプセルホテルをテーマにしたオファーが相次いだ。ファーストキャビンについても“新しいタイプの斬新なカプセルホテル”として積極的にメディアから情報発信していたが、ある時ファーストキャビンから「当ブランドはカプセルホテルではなくコンパクトホテル」と訂正の要請があった。

なんとなくモヤモヤした気分と共に残念ながらそれを境にファーストキャビンの情報発信をすることがパッタリとなくなってしまった。メディアからはカプセルホテルについてのオファーゆえに紹介できなくなったわけであるが、その後開業や内覧会の案内も届かなくなった。確かに企業としてブランディング作りは肝要である。ファーストキャビンのイメージ戦略は理にかなっているとも思われるが、“コンパクトホテル”というワードは定着しなかった。

最近、ファーストキャビンが改めてカプセルホテルとして紹介されているのを見かけたが、とにもかくにも実を伴った一貫性あるブランディングの重要性を感じた出来事であった。そもそも、カプセルホテルというワードの持つチープさは、ある種の割切感と共に利用者から支持されるリーズナブルさとマッチする。やはり一般ホテルとカプセルホテルの境界線は厳として存する。これらについては進化型カプセルホテルのポジショニングと共に次で考察する。

安いビジネスホテルと旧いカプセルホテルの狭間で

低廉さが魅力の旧態型施設も固定のファンに支えられている(筆者撮影)
低廉さが魅力の旧態型施設も固定のファンに支えられている(筆者撮影)

筆者は昨年9月にカプセルホテル業界の現状をレポートする記事を発表、大きな反響をいただいた(ブーム終焉?カプセルホテル事業者の悲鳴!活況から一転「予約が入らない」2019年9月29日Yahoo!ニュース(個人))。その中で当時活況を呈していた(とされる)ホテル業界にあって、水面下で広がるカプセルホテル事業者の不安と嘆きの声を取材し紹介した。

カプセルホテルをはじめとした簡易宿所の躍進は、LCC(格安航空会社)や高速バスといった低廉・簡便な移動手段が増え、旅が多様化したことに呼応する。格安に移動することは格安に宿泊できる施設の必要性を高める。かような状況下で女性が利用できるカプセルホテルなど進化型施設が増加してきた。ラウンジや大浴場といったパブリックスペースが充実している施設も多く、清潔で快適に過ごせることが従来のカプセルホテルのイメージを覆した。

ファーストキャビンもそのようなタイプの施設に区分できるが、他のカプセルホテルはプライベートスペースを割り切りパブリックスペースに注力するのが大勢という中で、コンパクトホテルを名乗っていた通りよりホテルライクなプライベートスペースの確保を重視、パブリックスペースにもそれなりに力を入れてはいるが、高い料金設定もあいまってビジネスホテルの境界線をより曖昧にした。

他方、ホテルの建設・開業ラッシュが続く中で一般ホテルの競争は激化していったが、増加したタイプのホテルは主にビジネスホテル。収益力の高さに加えてカプセルホテルどほどではないが開業へのハードルは低く、異業種からの参入障壁という点でもホテル事業をスタートするのにはマッチしていた。

1万円、2万円とビジネスホテルの料金が高騰する中で、5000円程度でそれなりに快適滞在できるところに進化型カプセルホテルのポジショニングがあった。しかしここ1~2年でビジネスホテルの競争は激化し料金が大幅に下落、ビジネスホテルのボトム料金と進化型カプセルホテルの料金帯の競合が際立ってきた。

実は2018年の中頃には多くの業界関係者がこのことに気付き相当の危機感を抱いていた。ホテル不足の救世主として注目されて続けてきたカプセルホテル。その華やかな舞台裏で暗部ともいえる実情が渦巻いていたのだ。料金でもビジネスホテルとの境界線がより曖昧になっていったことは、コンパクトホテルを目指したファーストキャビンにとってある種の皮肉であった。

* * *

新型コロナウイルスを原因としたホテル廃業や倒産というニュースが巷間を賑わしているが、コロナショック→倒産という図式は決して正確ではない。たった2ヶ月ほどで廃業・倒産という衝撃的なニュースの裏には、ホテル活況という明るい話題の影で既に供給過剰に陥っていた実情やインバウンドありきで運営されていた体力のない施設が多かったことを物語る。

宿泊業に参入しようとする時に、カプセルホテルをはじめとした簡易宿所は開業しやすいカテゴリーであることを前述した。一方、ゲスト同士の距離が近い業態だけに、経験を踏まえた特有のノウハウや考え抜かれたコンセプト形成が必要であり、それは一朝一夕に出来上がるものではない。他方で進化型・旧態型共にカプセルホテルには一定のマーケットがあり、“安かろう悪かろうというビジネスホテルよりも進化系カプセルホテル”というリピーターに支えられている側面もある。

利用者目線はシビア。コロナ禍と緊急事態宣言という現況でカプセルホテル利用について云々できる状況ではないが、コロナ終息を視野に入れても、地に足の着けて価値創造の運営を貫いてきた施設とバブルよろしく浮き足だった施設の間では確実に淘汰が進んでいくことだろう。一見華やかに見えたその内情は如何に。コロナショックは様々なことを露わにしていく。

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

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忌憚なきホテル批評で知られる筆者が、日々のホテル取材で出合ったリアルな現場から発信する辛口コラム。時にとっておきのホテル情報も織り交ぜながらホテルを斬っていく。

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