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「遺骨」を引き継ぐ権利はだれにある?

竹内豊行政書士
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

相続争いと聞くと、遺産をめぐる争いを想像しますが、遺骨をめぐる争いもあります。そこで、今回は、民法と判例で「遺骨はだれに帰属するか」を見てみます。相続の争いは遺産だけではないのです。「争族」防止の参考にしてください。

遺産は相続人が引き継ぐ

相続は、死亡によって開始します(民法882条)。そして、相続人は、相続開始の時から、被相続人(死亡した人)の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。だれが相続人になるかは民法で決められています(民法886条等)。

遺骨は遺産か?

では、民法で遺骨はどの相続人が引き継ぐ権利があるか規定しているでしょうか。

そもそも、遺骨は、被相続人(亡くなった方)が生前所有していた財産ではありません。したがって、遺産ではありません。

また、民法は系譜、祭具、墳墓等の祖先の祭祀のための財産である祭祀財産の承継を定めていますが、遺骨は祭祀財産ということもできないはずです。

民法は遺骨の引継ぎを規定していない

このような事情もあって、民法では、遺骨をだれに引き継がせるかを規定していません。そのため、遺体・遺骨をめぐって争いが起きることがあります。

そこで、裁判では遺骨をめぐる紛争にどのような判断を下しているかを見ることにしましょう。

遺骨をめぐる裁判例

では、遺骨をめぐる裁判例をご紹介します。

裁判例1

宗教家であった被相続人(亡くなった人)の信者団体が遺骨を守っているのに対して、祭祀主宰者(祖先の祭祀を主宰すべき者)である相続人(養子)が菩提寺に埋葬するために、信者団体に遺骨の引き渡しを求めた事案で、最高裁は、「遺骨は祭祀主宰者に帰属する」とした原審を正当とした(最高裁平成元年7月18日)。

裁判例2

祭祀承継者に被相続人の遺骨を引き取らせ供養させるのが相当であるとして現に遺骨を保管している同居者に対し、その引渡しが命じられた事例(福岡家裁昭和50年7月30日)

裁判例3

被相続人の遺骨の所有権は、祭祀財産に準じて、被相続人の祭祀を主宰すべき者が取得する(大阪家裁昭和52年8月29日)

裁判例4

被相続人夫婦の長女が長男及び次女を相手方として祭祀主宰者の指定を求めた事案において、被相続人の遺骨について祭祀財産に準じて扱うのが相当であるとし、民法897条2項を準用して、長男を祭祀財産に指定した(東京家裁平成21年3月30日)

以上の判例を見ると、いずれも祭祀承継者が遺骨を保有し、これを管理することを認めています。また、かならずしも相続人が承継するとは限っていないことも分かります(裁判例2)。

前述のとおり遺骨の帰属は民法で規定されていません。そのため、いったん争いになると当事者間で解決することは難しくなります。

もし、争いになってしまったらお亡くなりになった方を一番に考えて、双方歩み寄るのが一番の解決方法かも知れません。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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