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どこを探しても見つからない「親の遺言書」を探し出す奥の手~「公正証書遺言」編

竹内豊行政書士
いざというときに役立つ「親の遺言書」を探し出す手段をご紹介します。(写真:アフロ)

以前、「親の遺言書を見つけるにはどうしたらよいか」というご相談を受けました。相談者の話は次のようなものでした。

半年前に父親が亡くなったが、亡父は4~5年前に相談者(長男)に「お前たち家族が俺が死んでもこの家に住み続けることができるように遺言書を残しておいたからな」と確かに言われた記憶がある。しかし、遺品整理をしても遺言書は出てこない。先日貸金庫も調べてみたけど見つからない。実は、相続人である母親は亡父と折り合いが悪く永く別居している。妹とも疎遠で何を言い出してくるかわからない。長男家族は亡父所有の家に同居しているのでもし相続でもめたらこの家を出て行かなければならなくなるおそれがある。

このように切実な内容でした。

「遺言検索システム」を活用する

そこで、相談者に遺言検索システムをご紹介することにしました。遺言検索システムとは、公正証書遺言を作成した全国の公証人からの報告に基づき、日本公証人連合会がこれをコンピューターに入力して記録するというものです。したがって、このシステムを利用すれば、亡父が公正証書遺言を残したか、それとも残さなかったのかが分かるのです。ただし、この記録は、1989(平成元)年(ただし、都内の公証役場で作成した場合は、1981(昭和56)年)以降にされた遺言のみに行われており、それ以前の分は記録されていません。したがって記録されていない期間については、個々の公証役場に当たってみるしかありません。

遺言書が見つかった

遺言検索システムは、全国どこの公証役場でも利用できます。そこで、相談者は自宅最寄りのA公証役場に予約を入れて遺言検索システムで亡親の遺言の有無を照会したところ、亡父の職場だった近くのB公証役場で作成していたことが判明しました。そして、公正証書遺言の正本または謄本は、作成したB公証役場から発行してもらえました。

遺言の内容は、亡父が生前長男に言っていたように、自宅の土地・建物は長男に相続させて、その他の遺産は法定相続分のとおり母親、長男、妹の3人で分け合うという内容でした。なお、遺言執行者には長男が指定されていました。長男からの報告では、遺言書の内容のとおりに遺産を分け合ったところ、母も妹も遺言の内容のとおり異議はなかったということでした。

なお、遺言検索システムを利用するには、検索の対象者(この場合、長男の父)が、死亡したことが分かる戸籍謄本と、自分が相続人であることが分かる戸籍謄本と身分証明証が必要です。したがって、調査対象者が死亡していることが条件になります。

遺言書を残したら「残した」と伝えること

せっかく遺言書を残しても、相談者の亡父のように、きちんと遺言を残したことを遺言で指定した遺言執行者など信頼が置ける人に伝えておくか、遺言書を渡しておくかしないと、遺言書が無きものとして相続人の間の協議で遺産が分けられてしまうおそれがあります。公正証書遺言を残したら死後に自動的に遺言執行者に遺言書が渡るとお考えの方がいますがそのようなことはありません。遺言書は残した後が肝心です。十分注意してください。

さて、今回は遺言検索システムを利用して公正証書遺言が見つかりましたが、自分で書いて残す自筆証書遺言の場合はどうやって探せばよいのでしょうか。以前は、心当たりある所を探すしかありませんでしたが、2020(令和2)年7月10日に施行された遺言書保管法によって自筆証書遺言も公正証書遺言のように検索が可能になりました。

なお、自分で書いて残す自筆証書遺言の検索方法について詳しくは、どこを探しても見つからない「親の遺言書」を探し出す奥の手~「自筆証書遺言」編をご覧ください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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