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「紀州のドン・ファン」元妻は13憶の「遺産」を相続できるか?~相続権をはく奪する制度がある!?

竹内豊行政書士
「紀州のドン・ファン」こと故野崎幸助さんの元妻が早朝逮捕されました。(写真:Motoo Naka/アフロ)

和歌山県田辺市で2018年、「紀州のドン・ファン」こと会社経営野崎幸助さん=当時(77)=が死亡した事件で、和歌山県警は28日、殺人容疑で元妻の須藤早貴容疑者(25)=東京都品川区=を逮捕しました(引用:元妻を殺人容疑で逮捕 「紀州のドン・ファン」死亡 体内から覚せい剤・和歌山県警)。

元妻は野崎幸助さんの配偶者ですから、法定相続人です。したがって、野崎さんの13億を超えるともいわれる遺産を相続する権利を持っています。しかし、この逮捕で相続財産の行方が不透明になってきました。

実は、民法は相続秩序を侵害する非行をした相続人の相続権をはく奪する制度を設けているのです。

「相続欠格」とは

民法は、相続秩序を侵害する非行をした相続人の相続権を法律上当然にはく奪する「相続欠格」という民事上の制裁制度を設けています。

「相続欠格」が発生する5つの原因

民法は次の5つの欠格理由を規定しています(民法891条)。

民法891条(相続人の欠格事由)

次に掲げる者は、相続人となることができない。

一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者

二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。

三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者

四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者

五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

したがって、もし、元妻が故意に野崎さんを殺害したとして刑に処せられた場合は、前掲の民法891条1号に該当して、相続人としての相続権をはく奪されることになります。この結果、当然、遺産は元妻には入りません。

なお、野崎さんは遺言を残しました。遺産の行方も含めて今後の捜査の行方が注目されます。

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行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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