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「絶対」に残してはいけない遺言~「年末」までに「遺言」を残したい人が知っておくべきこと

竹内豊行政書士
(写真:アフロ)

今年も残すこと数日となりました。年頭に「今年こそ遺言を残すぞ!」と決意したものの、残せずじまいになっている方もいるのではないでしょうか。また、コロナ禍の中、万一に備えて遺言に関心を寄せている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで、年内に遺言を残してスッキリした気分で新年を迎えてみたいとお考えの方へ、遺言でしくじらないためにこれだけは知っておきたいということをお伝えしたいと思います。

遺言で「しくじる」とは

遺言でしくじるとはどういうことでしょうか。それはズバリ遺言者(=遺言を作成した人)の思い通りに遺言の内容が実現できないことです。そればかりではなく、残した遺言が原因で相続争いの火種と化すこともあります。

遺言とは~「最終意思の実現」を可能にするもの

そもそも遺言とはどういうものでしょうか。

遺言は、遺言者、すなわち死者の終意(最終の意思表示)の実現を保障する制度です。遺言者が生前に表示しておいた意思に法的効果を与え、その強制的実現を確保する制度です。

このように、遺言の法的効果は相続人等に大きな影響を及ぼします。しかも、遺言の法的効果が生ずるのは遺言者が死亡した時からです(民法985条1項)。つまり、遺言書に書いた内容が法的効果を生じるときには、遺言を書いた本人はこの世にいないということです。当たり前のことですが忘れがちなのでしっかり覚えていてください。

民法985条1項(遺言の効力の発生時期)

遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。

そのため、遺言書の内容が遺言者の真意であることを確保するために、方式が厳格に決められています(民法960条)。

 民法960条(遺言の方式)

 遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。

そして、方式違反の遺言は無効になるばかりではなく、前述のように相続争いの原因となることもあるのです。

遺言の5つの方式~方式違反は「無効」&「相続争い」に一直線

民法は、普通方式として自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類を、特別方式として危急時遺言と隔絶地遺言の2種類の計5種類の方式を定めています

(民967条)。

自筆証書遺言は、その名のとおり、遺言者が自分で書く遺言です。公正証書遺言は遺言者が公証役場に出張を求めて、公証人に作成してもらう遺言です。秘密証書遺言は、自筆証書遺言と同じく私文書の上に書かれますが、公証人にこれを遺言書として公証してもらう遺言です。

危急時遺言は、死亡の危急に迫った際もしくは船舶遭難の際に遺言しようとする者のために、最大限に要件を緩和した方式です(危急時遺言は口頭で遺言を残せる唯一の方式です)隔絶地遺言は、一般から隔絶した場所にあって遺言する場合、たとえば伝染病隔離や船舶航行中のような場合の方式をいくぶん緩和した方式です。

このように遺言の方式には5種類ありますが、危急時遺言をする方はほとんどいないと思います。また、公正証書遺言は法律専門家である公証人が関与するので方式違反で無効になることはまずありません。秘密証書遺言を利用する方も少数と考えられます。そこで、多くの方が利用すると思われる自筆証書遺言の方式についてご説明することにします。

「自筆証書遺言」の方式

自筆証書遺言は、遺言者が、その全文、日付および氏名を自書し、これに印を押します(民法968条1項)。相続財産の全部または一部の目録を添付する場合には、その目録については自書する必要はありませんが、その目録の各ページに署名し、印を押さなければなりません(民法968条2項)。

自筆証書遺言の方式の具体例は、法務省のホームページに掲載されているのでこちらをご覧ください。

こんな遺言は絶対に残してはいけない

以上のように民法は遺言に方式を定めています。そのため、次のような“遺言”は法的に無効になります。

「録音」された“遺言書”

スマホなどに遺言の趣旨を録音したものは自筆証書遺言とは認められません。このようなものが死後に発覚すると、相続争いの火種となります。うかつに遺言の趣旨を録音するようなことはしないことをお勧めします。

「印字」された“遺言書”

本文をパソコン等で作成して印字されたものは自書とはいえないので自筆証書遺言とは認められません。ただし、財産目録については印字された用紙の各ページに署名し、印を押せば認められます。

「コピー」された”遺言書”

自筆証書遺言をコピー機で複写したプリントも、そのプリント自体は自筆証書とみなされないので自筆証書遺言とはみなされません。なお、自筆証書遺言をコピーしたプリントをむやみに相続人等に配布するようなことも相続争いの火種になる可能性があるのでしないほうが無難でしょう。

「連名」の“遺言書”

2人以上の者が同一の証書で遺言をすることはできません(民法975条)。このことを共同遺言の禁止といいます。そのため、夫婦連名で書いた遺言書は方式違反となり無効となります。

いかがでしょうか。今回は遺言を残す場合に「これだけは知って欲しい」ことについてお伝えしました。遺言を残す際は、遺言には法で定められた「方式」があることをぜひ思い出してください。そうすれば、方式違反で無効になることを避けることができると思います。

参考文献:「家族法 第5版」(二宮周平著、新世社)、「新版注釈民法28」(中川善之助、加藤永一編集、有斐閣)

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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