Yahoo!ニュース

「お一人様」の相続を厄介しないための「防止策」~遺言を残しても油断大敵!

竹内豊行政書士
「お一人様」は遺言を残しても油断禁物です。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

一般に、独身で子どもがいない方(以下、「お一人様」といいます)がお亡くなりになると、相続が厄介になることが多いようです。

その主な理由は2つあります。一つは、兄弟姉妹や甥・姪が相続人になるケースがあるなど、「相続関係が複雑になる」からです。もうひとつは、亡くなった方(「被相続人」といいます)が一人暮らしをしていたために、「相続財産が見つけにくい」からです。

そこで、お一人様が、自分の死後に、自分の思いの通りに速やかに遺産を承継したすることを望むなら、遺言書を残すことが必要になります(詳しくは、「お一人様」の相続が厄介になる「2つ」の理由~その「防止策」と「注意点」をご覧ください)。

さて、自分の思いの通りに速やかに遺産を承継させるために、遺言書を残したとします。しかし、実は、その後が重要なのです。遺言書を残した後のフォローができていなかったために、法的に問題ない遺言書を残したのに、遺言の内容が実現しないことが実際にあるのです。

今回は、遺言の内容を確実に実現するために、お一人様が遺言書を残した後に「すべきこと」を考えてみたいと思います。

実現しない遺言書

相続は、人が亡くなったその瞬間に発生します(民法882条)

民法882条(相続開始の原因)

相続は、死亡によって開始する。

そして、遺言者(遺言書を残した人)が死亡したその瞬間に遺言の法的効力が発生します(民法985条1項)

民法985条1項(遺言の効力の発生時期)

遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。

つまり、遺言の効力が発生したその時には、遺言者はすでにこの世に存在しないということです。そして、いくら遺言の効力が法的に発生しても、遺言書の存在が知られていなければ、「遺言書は無いもの」として、相続人の話合い(遺産分割協議)で遺産が承継されてしまうことになります。

「公正証書遺言」を残しても安心できない

公正証書遺言を残せば、自分が死亡したら、公証役場から相続人や受遺者、遺言書で指定した遺言執行者(「関係相続人」といいます)に自動的に連絡がいくと思っている方がいますが、そのようなことはありません。

また、今年7月10日から遺言書保管法がスタートします。これにより、自筆証書遺言を遺言書保管所(法務大臣が指定する法務局)で保管できるようになりますが、この制度を利用しても、公正証書遺言と同様に、遺言者の死後、遺言書の存在が関係相続人に自動的に通知されることはありません(遺言書保管法について詳しくは、えっ!法務局に遺言書を預けることができるの!?~令和2年7月、遺言書保管法いよいよスタートをご覧ください)。

遺言を残したら「存在」を知らせておくこと

このように、せっかく遺言書を残しても、その存在が知られていなければ遺言の内容が実現することはありません。そればかりか、相続人が遺産分割協議を完了した後に、遺言書が見つかった場合は、トラブルの原因にもなります。

そこで、遺言書を残したらしかるべき人に、遺言書の「存在」を知らせておく必要があます。一般には、遺言書の中で指定した遺言執行者に知らせるのがよいでしょう。

遺言書の保管場所

たとえ遺言執行者に遺言書の存在を知らせても、肝心の遺言書を紛失しては元もこうもありません。では、どこに保管するのがよいでしょうか。

「貸金庫」は厄介になる

すぐに頭に浮かぶのは、銀行の貸金庫です。しかし、契約者である遺言者が死亡した場合、貸金庫の開扉は困難を伴うことがあります。

貸金庫契約の法的性質は、「貸金庫の場所(空間)の賃貸借である」とし、契約者たる被相続人死亡の際、貸金庫契約上の地位は、被相続人に承継されるからです(最高裁平成11年11月29日判決)。したがって遺言執行者が遺言書を取り出すために、銀行に貸金庫の開扉を請求すると、「相続人全員の承諾」を求められるおそれがあります。こうなると、容易には貸金庫を開扉することはできません。

「公正証書遺言」の場合

公証役場で作成する公正証書遺言は、「原本」が公証役場に保管されます。したがって、公証役場から作成後に手渡される「謄本」または「正本」を遺言執行者に託しておけばよいでしょう。万一、遺言執行者がそれらを紛失してしまっても、遺言者の死後に公証役場に請求すれば、「原本」を基に、「謄本」または「正本」を再発行することが可能です。

「自筆証書遺言」の場合

遺言執行者に自筆証書遺言(自分で自書して作成した遺言書)を託した場合、遺言執行者がその遺言書を紛失してしまったら、遺言の内容を実現することはできません。

しかし、前述のとおり、今年7月10日に施行される遺言書保管法によって、自筆証書遺言が遺言書保管所に預けることができる制度がスタートします。

自筆証書遺言を残した場合は、その写しを遺言執行者に託して、原本は、7月10日以降、遺言書保管所に保管の申請をするのがよいでしょう。

お一人様の場合、せっかく残した遺言書が、死後に発見されずに遺産分割されてしまうおそれがどうしても高くなります。そのような事態を避けて、自分の死後に確実に、遺言の内容を実現するために、本日ご紹介した内容を参考にして、「作成後の対策」をぜひ講じておいてください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

竹内豊の最近の記事