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「婚姻届」で誤って記載して届け出てしまった「姓」を変えるにはどうしたらよいのか

竹内豊行政書士
姓(氏)は変えることはできるのでしょうか。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

先月22日にタレントの壇蜜さんと結婚した「東京都北区赤羽」などの作品で知られる漫画家・清野とおるさん(39)は、同月30日、ツイッターで「婚姻後の夫婦の氏」を誤って記載し、名字が変わってしまったことを明かしました。婚姻届の「婚姻後の夫婦の氏」の欄に夫の氏である『清野』と書くつもりであったところ、誤って壇蜜さんの氏である『齋藤』を書いてしまったというのです。清野さんは(現在は、齋藤さん)、今後、家庭裁判所に「齋藤」から婚姻前の「清野」に氏を変更する申立てを行うとのことです(引用・参考:壇蜜と結婚の漫画家・清野さん、婚姻届の記入ミスで名字が変わる「俺の名字が壇蜜さんの…」)。

夫婦同氏の原則

まず、結婚(婚姻)するには、戸籍法で定める婚姻届を役所に届け出なければなりません(民法739条1項)。また、届け出は、当事者双方および成年の証人2人以上から、口頭または署名した書面でしなければなりません(民法739条2項)。

民法739条(婚姻の届出)

1婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。

2前項の届出は、当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。

また、夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の氏を称します(民法750条)。このことを、「夫婦同氏の原則」といいます。

民法750条(夫婦の氏)

夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。

このため、婚姻届の「婚姻後の夫婦の氏」の欄に、婚姻後に称する夫または妻の氏(法律では、「姓」のことを「氏」といいます)を記載することになります。つまり、夫または妻のいずれかの氏を選択しなければ、婚姻は法的に成立しないということになります。そのため、婚姻する意思はあっても、何らかの事情や信条などによって、氏を変えることを望まない場合は、婚姻届を届け出ないで夫婦として生活をする事実婚を選択する方もいます。そして、婚姻の際に、夫または妻の氏を選択できるようにする選択的夫婦別氏制度の議論が高まっています(婚姻届について詳しくは、「『婚姻届』のルール~『駆け込み婚』『令和婚』にイベントの自治体も」をご覧ください)。

氏の変更

さて、氏は簡単に変えることはできるのでしょうか。法は、「やむを得ない事情」がある場合には、氏の変更ができると定めています。そして、戸籍の氏を変更するには,家庭裁判所の許可が必要です(戸籍法107条1項)。

戸籍法107条1項(氏名の変更)

やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。

やむを得ない事情とは、氏の変更をしないとその人の社会生活において著しい支障を来す場合をいうとされています。

「やむを得ない事情」とは、具体的に次のようなケースが考えられます。

・珍奇・難解な氏

・内縁関係で長年、相手方の氏を通称として使っていた場合

・元暴力団員として周知されている者が更生するのに必要と認められる事情がある場合

・離婚に際し婚氏続称の届出期間を超えた者の婚氏への変更

・婚氏続称した者の婚姻前の氏への変更

名の変更

一方、名の変更は、「正当な事由」があれば、家庭裁判所の許可を得て変更することができます(戸籍法107条の2)。

戸籍法107条の2(氏名の変更)

正当な事由によつて名を変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。

変更許可の一般的基準として、名の変更についての「正当な事由」は、次のように考えられています。

・同姓同名の者があって社会生活上多大の差支えをきたす場合

・社会生活上著しい支障を生じる程度に珍奇ないしは著しい難解難読の文字を用いた場合 等

様々な理由で「氏を変えたい」とお考えの方はいらっしゃると思います。齋藤さん(旧姓清野さん)は、今後家庭裁判所に氏の変更申立てを行うとのことですが、家庭裁判所がどのような判断を下すのか注目です。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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