Yahoo!ニュース

自然災害から「遺言書」を守る~遺言書保管法の保管体制

竹内豊行政書士
遺言書を自然災害から守る手段はないのでしょうか。(写真:ロイター/アフロ)

日本列島に甚大な被害をもたらした台風19号。川の氾濫や突風などで家屋が壊れるなど台風が残した爪痕がテレビを通じて刻々と被害状況が判明してきています。台風19号により、被災された皆様、不便な生活を強いられている皆様やご家族の方々には謹んでお見舞い申し上げます。

※緊急支援活動については、令和元年台風19号 緊急被災者支援(ピースウィンズ・ジャパン)ホームページをご覧ください。

せっかく書き残した遺言書が、天災等によって紛失や汚損してしまったらどうなってしまうのでしょうか。

紛失してしまったら、遺言の内容は実現できません。汚損してしまったら、判読困難等が原因で、紛失した場合と同様に内容の実現ができなくなってしまったり、遺言の内容をめぐる争いも引き起こしかねません。

遺言書保管法が成立

そこで、平成30年(2018年)7月6日、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(以下「遺言書保管法」といいます)が成立しました。この法律は、高齢化の進展等の社会経済情勢の変化に鑑み、相続をめぐる紛争を防止するという観点から、法務局において自筆証書遺言を保管する精度を新たに設けるものです。

この遺言書保管法によって、従来、自分で書いた後は、自己の責任の下で保管しなければならなかった自筆証書遺言が、法務局(遺言書保管所)で保管できることになります。この制度を利用するとによって、自筆証書遺言の紛失や隠匿、変造・破棄などを防止することが可能になります。

このように、遺言書保管法により、自筆証書遺言は遺言書保管所で保管できることになりますが、今回のような災害によって預けた遺言書が紛失したり、汚損して判読不明になってしまうおそれはないのでしょうか。

そこで、今回は、遺言書保菅法で定められている遺言書の保管体制についてみてみたいと思います。

※遺言書保管法の概要については、ガラッと変わった相続法 ここに注意!vol.2~自筆証書遺言の保管制度をご覧ください。

遺言書に係る情報の管理の方法

遺言書保管法は、遺言書保管官(遺言書保管所に勤務する法務事務官のうちから、法務局または地方法務局の長が指定する者)は、保管する遺言書につて、当該遺言書に係る情報の管理をしなければなりません(遺言書保管法7条1項)。

遺言書保管法7条(遺言書に係る情報の管理)

1遺言書保管官は、前条第1項(筆者注:同法6条1項遺言書の保管は、遺言書保管官が遺言書保管所の施設内において行う。)の規定により保管する遺言書について、次項に定めるところにより、当該遺言書に係る情報の管理をしなければならない。

2遺言書に係る情報の管理は、磁気ディスク(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録することができる物を含む。)をもって調製する遺言書保管ファイルに、次に掲げる事項を記録することによって行う。

一 遺言書の画像情報

二 第四条第四項第一号から第三号までに掲げる事項

三 遺言書の保管を開始した年月日

四 遺言書が保管されている遺言書保管所の名称及び保管番号

情報管理は「遺言書保管ファイル」に記録される

遺言書に係る情報の管理は、磁気ディスク(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録することができる物を含む)をもって調製する遺言書保管ファイルに次の事項を記録することによって行います。

1.遺言書の画像情報

~遺言書保管官がスキャナ等を用いて画像情報化することを想定している。

2.遺言書に記載された作成の年月日、遺言者の氏名、出生の年月日、住所及び本籍(外国人にあっては、国籍)、遺言書に受遺者又は遺言執行者の記載がある時はその氏名又は名称及び住所(遺言書保管法4条4項1号から3号までに掲げる事項)

3.遺言書の保管を開始した年月日

4.遺言書が保管されている遺言書保管所の名称及び保管番号

情報の管理期間~150年相当か

遺言書に係る情報の管理期間は、遺言者の死亡の日(遺言者の生死が明らかでない場合にあっては、これに相当する日として政令で定める日)から相続に関する紛争を防止する必要があると認められる期間として政令で定めることとしており(7条3項・6条5項)、この政令で定める期間について、相当長期間とすることを予定しています(注)

(注)遺言書の保管期間及び遺言書に係る情報の保管期間については、戸籍の除籍簿の保存期間が150年とされていること(戸籍法施行規則5条4項)等も参考にして政令で定める予定です。

このように、遺言書保管所に保管された自筆証書遺言は、前記の遺言書保管ファイルとともに、廃棄又は消去されるまで、遺言書保管所において保管又は管理されことになります。

このような保管体制の下では、たとえ、遺言書の原本が汚損されえてしまっても、遺言書保管ファイルに記録された画像情報等で再現可能となります。

来年7月10日スタート

遺言書保管法は、令和2年(2020年)7月10日から施行(スタート)されます。今後、施行日までの間に、国は必要な政省令の制定、法務局における体制の整備、制度の周知等、円滑かつ確実な施行に向けて準備を進めることとなります。

せっかく書き残した遺言書が、天災等で紛失や汚損してしまっては、遺言に記した内容を死後に実現することができなくなってしまいます。自筆証書遺言を残したら、来年7月10日以降に法務局(遺言書保管所)に預けることをお勧めします。

参考:『概説 改正相続法』(一般社団法人金融財政事情研究所)

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

竹内豊の最近の記事