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その遺言で大丈夫?~書く前に知っておきたい注意点

竹内豊行政書士
改正相続法で遺言書が残しやすくなりました。ただし、いくつか注意点があります。(写真:アフロ)

今年の1月13日、改正相続法によって「自筆証書遺言の方式緩和」が施行(スタート)しました。

「全文自書」が負担になっていた

改正相続法が施行されるまで、つまり旧法では、自筆証書遺言は、その全文を自書(自分で書くこと)しなければなりませんでした。しかし、高齢者や体調がすぐれない方などにとって遺言書の全文を自書することはかなりの労力を伴います。また、遺言者(遺言書を作成する人)が多数の不動産や預貯金口座等を有していて、それらを遺言書に記載しようとする場合もその負担は重くなります。

そのため、このような「全文を自書する」という厳格な方式が遺言者の負担となって自筆証書遺言の利用が阻害されているとの指摘がされてきました。

「全文自書」の目的

旧法で「全文を自書する」とした目的は、偽造・変造を防止し、遺言が遺言者の真意によるものであることを担保するためです。そうであれば、対象財産を特定するだけの形式的な事項である財産目録については、自書を要求する必要性が必ずしも高くないはずです。

「全文自書」を緩和した~財産目録は自書しなくてもよい

そこで、今回の相続法改正によって、自筆証書遺言をより残しやすくしてその利用を促進するために、自筆証書に相続財産等の目録を添付する場合には、その目録については自書を要しないこととして、自筆証書遺言の方式を緩和することにしました。

偽造・変造の防止策~財産目録の各頁に署名押印をすること

しかし、財産目録に自書を要しないとなると、目録を差し替えられてしまうなど偽造・変造をされるおそれがあります。そこで、民法は偽造・変造を防止するために、遺言者に自書によらない目録の各頁に署名押印をすることを要求しています。

自書によらない財産目録を添付する場合の注意点

このように、財産目録の記載内容については、各頁に署名押印を要求する以外には、特段の規定はありません。そのため、財産を特定することができれば有効なものとして取り扱われることになります。

具体的には、遺言者本人がパソコン等を用いて作成した財産目録を添付することは当然のこと、遺言者以外の者が作成した財産目録を添付したり、不動産の登記事項証明書や預貯金通帳の写し等を財産目録として添付したりすることも許されます。

このように、自筆証書遺言の方式緩和によって自筆証書遺言の利用が促進されることが期待されますが、遺言者が死亡した後の紛争を防止する観点からも、次のことに注意が必要です。

財産目録作成は本文とは別の用紙にしなければならない

「添付する」の意味は、文字どおり、書類などに他のものを付け加えるという意味です。したがって、自筆証書に添付する自書によらない財産目録についても、本文の記載がされた用紙とは別の用紙に作成する必要があります。

そのため、遺言書の本文が記載された自筆証書と同一の用紙の一部に財産目録を印刷して遺言書を作成することはできません。

財産目録の「毎葉」に署名押印をしなければならない

自書によらない財産目録を添付して自筆証書遺言をする場合には、遺言者は、自書によらない目録の「毎葉」に署名押印をしなければならず、特に自書によらない記載がその両面にある場合には、財産目録の両面に署名押印をしなければなりません。

「毎葉」とは財産目録の全ての用紙という意味であり、表裏は問いません。そのため、自書によらない記載が財産目録の片面にしかない場合には、遺言者は、財産目録の用紙のいずれかの面に署名押印をすれば足ります。

例えば、不動産の登記事項証明書を財産目録として添付する場合には、裏面にも自書によらない記載がされている場合を除き、遺言者は、証明書が記載された印刷面を避けて裏面に署名押印をすることもできることとなります。

遺言の内容をより確実に実現するための工夫

このように、添付する財産目録については、契印の必要もありませんし、認印での押印でもかまいません。しかし、遺言が実現するのは遺言者が死亡した時からです(民法985条1項)。

民法985条(遺言の効力の発生時期)

遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。

そのため、「本当に死んだ父親が残した遺言書なのか?」と遺言書の信ぴょう性をめぐって紛争が起きないとも限りません。そうなってしまったら「死人に口なし」です。「本当に私が作成したものだよ!」と証言したくてもあの世からはできません。そこで次のような工夫を施すことをお勧めします。

「契印」をする

遺言者において、財産目録の署名押印の他にも遺言書全体の一体性を確保する手段を講じるために、契印をする方法のほか、同一の封筒に入れて封緘(封を閉じること)することや、遺言書全体を編綴するといった方法が考えられます。

「実印」で押印する

自書によらない財産目録への押印に用いる印については、遺言者の印であること以外に特段の要件はありません。したがって、本文が記載された自筆証書に押された印と同一のものである必要はなく、また、いわゆる認印であっても差し支えありません。

しかし、認印では本人以外の者でも押印できてしまう可能性が高くなります。そこで、本文も財産目録も実印で押印することをお勧めします。

実印とは、住民登録をしている市区町村役場で、本人確認を慎重に行ったうえで、登録された印鑑のことを指します。そのため、実印を使用することで、「この遺言書は、間違いなく遺言者本人が遺言者の意思で作成したものである」という遺言書の信ぴょう性を高める効果が期待できます。

来年に「自筆証書遺言の保管制度」がスタートする

令和2年(2020年)7月10日から、自筆証書遺言を公的機関である法務局に保管できる制度がスタートします。この制度によって、自筆証書遺言の弱点である、紛失、改ざん、滅失等を回避することができます。詳しくは、台風15号接近~災害から遺言書を守る「遺言書保管法」をご覧ください。

遺言書の目的は、「残すこと」ではありません。遺言書の内容を実現することです。遺言を残すときには、ぜひこのことを肝に銘じてください。

参考:自筆証書遺言に関するルールが変わります。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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