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相続がガラッと変わる!2019 vol.3 遺産分け前に預貯金が下せる。結婚期間20年に注目。

竹内豊行政書士
口座凍結に対する「払戻し制度」と「結婚期間20年」がポイントです。(写真:アフロ)

今回の相続法改正では、「遺産分割に関する見直し」が行われました。そのうち、配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)と遺産分割前の「払戻し制度」の創設を見てみます。

持戻し免除の意思表示の推定規定は、婚姻期間が長期間にわたった配偶者が遺産分割においてより多くの財産を取得できるようにするために設けられました。

また、相続された預貯金債権について、生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済などの資金需要に対応できるように、遺産分割前でも払戻しができる制度を設けました。

配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)~施行期日:2019年7月1日

民法上、相続人に対して遺贈または贈与が行われた場合には、原則として、その贈与を受けた財産も遺産に組み戻した上で相続分を計算し(持戻し)、また、遺贈または贈与を受けた分を差し引いて遺産を分割する際の取得分を定めることとされています。

このため、被相続人が生前、配偶者に対して居住の用に供する建物またはその敷地(居住用不動産)の贈与をした場合でも、その居住用不動産は遺産の先渡しがされたものとして取り扱われ、配偶者が遺産分割において受け取ることができる財産の総額がその分減らされていました。

その結果、被相続人が「自分の死後に配偶者が生活に困らないように」との趣旨で生前贈与をしても、原則として配偶者が受け取る財産の総額は、結果的に生前贈与をしないときと変わりませんでした。

そこで、結婚期間が20年以上の夫婦間で、配偶者に対して居住用不動産の遺贈または贈与がされた場合には、「遺産分割において持戻し計算をしなくてよい」という旨の被相続人の意思表示があったものと推定して、原則として、遺産分割における計算上、「遺産の先渡しがされたものとして取り扱う必要がない」こととしました。

これにより、配偶者が遺産分割においてより多くの財産を取得することができるようになります。

遺産分割前の「払戻し制度」の創設~施行期日:2019年7月1日

相続された貯金債権は遺産分割の対象財産に含まれるため共同相続人による単独の払戻しができません(いわゆる「口座凍結」)。そうなると、生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済などの資金需要がある場合にも、遺産分割が終了するまでの間は、被相続人の預貯金の払戻しができなくなってしまいます。

そこで、各共同相続人は、金融機関の窓口において、自身が被相続人の相続人であること、そして、その相続分の割合を示した上で、遺産に属する預貯金債権のうち、各口座ごとに次の計算式で求められる額までについては、家庭裁判所の判断を経ないで、なおかつ他の共同相続人の同意がなくても単独で払戻しをすることができることとしました。

【計算式】

単独で払戻しをすることができる額=(相続開始時の預貯金債権の額)×(3分の1)×(当該払戻しを求める共同相続人の法定相続分)

※ただし、同一の金融機関に対する権利行使は、法務省令で定める額(150万円)を限度とします。

このように、持戻し免除の意思表示の推定規定によって、被相続人の残された配偶者を労わる気持ちの尊重できて自宅についての生前贈与を受けた場合には、配偶者は結果的により多くの相続財産を得ることができて、生活を安定させることができるようになります。

また、遺産分割前の「払戻し制度」によって、被相続人の口座凍結による生活費等の資金需要の支障を回避することができます。

特に、「払戻し制度」は身内の死亡後にかかる葬儀や医療費等のまとまった出費を遺産の一部で取りあえずまかなうことができるで、大勢の方が活用することが予想されます。ぜひ覚えておいてください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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