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「茶番」の政治倫理審査会開催へ:本筋は参考人招致か証人喚問(岸田政権の動き(2月18日から24日))

竹中治堅政策研究大学院大学教授
2月26日 衆議院予算委員会(写真:つのだよしお/アフロ)

はじめに

この記事では2月18日の週を中心に前回の記事「岸田政権の動き(2月11日から17日)―責任追求は将来の国民の判断次第」に続き、岸田内閣を取り巻く政治状況や裏金問題の展開や重要政策の進展について紹介する。

低迷する支持率

 18日の週はいくつもの新聞社の世論調査の結果が報じられた。19日には16日〜18日にかけて実施した読売新聞社の世論調査と17、18日両日に行った朝日新聞社及び毎日新聞社の調査の結果が報じられた。読売新聞社の結果は1月と変わりなく支持率が24%、不支持率が61%であった。自民党の支持率は24%だった。朝日新聞社の調査によれば支持率は21%と1月から2ポイント低下、不支持率も65%と1ポイント減少した。自民党の支持率は1月から3ポイント低下し、21%であった。

毎日では10%台

 毎日新聞社の調査によれば支持率は14%と1月から7ポイント低下、不支持率も82%と10ポイント上昇、岸田内閣にとって厳しい値となった。自民党の支持率は1月から7ポイント低下し、16%まで落ち込んでいる。

 20日には産経新聞社とフジニュースネットワーク(FNN)が17、18日両日実施した調査の結果が報じられ、支持率は22.4%と1月から5.2ポイント低下、不支持率は6.1ポイント増の72.5%であった。自民党の政党支持率は2.3ポイント低下の24.8%だった。

青木率は50%以下

 4つの調査で注目すべきはいわゆる青木率=内閣支持率+自民党支持率がいずれも50%を下回っているということである。青木率が50%を切ると政権が行き詰まる可能性が高くなると考えられており、首相は困難な政治状況に直面している。

 支持率の低迷に政治資金の還流問題=裏金問題があることは間違いない。

政治倫理審査会への出席者

 この問題に関連して、この週も前週に続き、政治倫理審査会の開催をめぐって与野党で協議が続けられた。2月22日に安倍派座長の塩谷立元文部科学相、安倍派事務総長の高木毅前自民党国会対策委員長、二階派事務総長の武田良太元総務相、安倍派元事務総長の松野博一全官房長官および西村康稔前経済産業省が正式に出席を申し出た(『読売新聞』2月23日)。開催日は28,29日の開催で自民党と立憲民主党はほぼ合意した(『読売新聞』2月22日)。

出席基準

 本人が申し出た形をとっているが自民党は安倍派幹部からの出席者を座長と事務総長経験者に絞ったと報じられている(『朝日新聞』2月22日、『日本経済新聞』2月23日)。もっとも下村博文元文科相も事務総長経験者であり、なぜ出席しないのか疑問である。

政治倫理調査会とは

 政治倫理審査会は国会法124条の3に基づいて衆参両院に設置されている。衆議院の説明によれば、この審査会は国会議員が衆議院及び参議院が政治倫理を維持するために定めた行為規範や政治倫理綱領の規定に違反し、政治的同義的に責任があると認められるかどうか審査し、勧告を行うことになっている。

非公開が原則

 もっとも衆議院政治倫理審査会は傍聴を認めず、非公開が原則である。傍聴を認める場合も傍聴者の条件を決めることができる。自民党は非公開を求めており、開催時間なども含めて与野党で合意はなされていない。

 内閣支持率が極端に低い水準になっていることの背景に裏金問題があることは間違いなく、国民のこの問題を見る目は厳しい。上記の読売新聞の調査では93%もの調査対象者が「自民党の派閥幹部らが国民に十分説明している」とは「思わない」と答えている(『読売新聞』2月19日)。

政治資金還流問題への疑問

 それはそうであろう。いくつもの疑問がすぐ湧いてくる。⑴自民党の調査に一部の安倍派の議員が派閥から政治資金収支報告書に記載しないよう指示を受けたと回答しているが、誰が指示したのか。⑵安倍晋三元首相の指示で一旦は資金還流の廃止が決まったと報じられているがなぜ元に戻ったのか。⑶多くの議員は資金還流の真の目的が裏金作りにあったと認識していなかったはずはないが、認める人がいないのはなぜか

徹底的な追及の必要性

 与党議員を含めて、国会議員はこうした我々国民が抱く疑問を政治資金還流に関係する安倍派議員、二階派議員に徹底的に問い糺すべきである。そのためには国会の機関であるのにも関わらず、我々国民に直接公開されることはなく正確に答えることを促す仕組みがない政治倫理審査会の開催に意味があるのかそもそも疑問である。

参考人招致と証人喚問の必要性

 少なくとも関係する議員を参考人として国会の委員会に招致し、実態を明らかにすべきである。参考人とのやりとりは国民に公開される。さらに辻褄の合わない説明が多いのであれば、偽証罪によって正しい答えをすることを促すことができる証人喚問に踏み切るべきだ。

 内閣支持率が低迷している今の状況では野党が有利なのにも関わらず、野党は参考人招致や証人喚問ではなく、政治倫理審査会の開催を求めるのだろうか。

日・ウクライナ経済復興推進会議

 最後に重要政策の展開について触れておこう。

 岸田内閣はウクライナ政府とともに19日に日・ウクライナ経済復興推進会議を開催し、岸田首相やウクライナのシュミハリ首相も参加した。この会議で日本はウクライナの緊急復旧支援から経済復興支援、産業高度化に支援する考えを示した。

TSMC第1工場開所式

 24日には日本政府が熊本に誘致したTSMCの第1工場の開所式が開かれた。岸田内閣は第1工場建設を支援するため4760億円の補助金の支給を決めている。TSMCは今月、熊本に第2工場を作る方針を表明している。齋藤健経済産業大臣は第2工場建設のため最大7320億円の補助金を供与することを明らかにした(『日本経済新聞』2月24日)。第1工場では12〜28ナノメートルのロジック半導体を生産し第2工場はより高度の6ナノメートルの半導体を作る予定である(『日本経済新聞』2月25日)。TSMCの第1工場完成と第2工場の建設決定は岸田内閣が最重要視する経済安全保障政策の大きな成果である。

政策研究大学院大学教授

日本政治の研究、教育をしています。関心は首相の指導力、参議院の役割、一票の格差問題など。【略歴】東京大学法学部卒。スタンフォード大学政治学部博士課程修了(Ph.D.)。大蔵省、政策研究大学院大学助教授、准教授を経て現職。【著作】『コロナ危機の政治:安倍政権vs.知事』(中公新書 2020年)、『参議院とは何か』(中央公論新社 2010年)、『首相支配』(中公新書 2006年)、『戦前日本における民主化の挫折』(木鐸社 2002年)など。

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