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第4次安倍再改造内閣の課題と展望

竹中治堅政策研究大学院大学教授
首相官邸で記念撮影(写真:ロイター/アフロ)

幕引きも4選も

 9月11日に安倍晋三首相は第4次安倍内閣の二次改造を行った。今回の改造人事で重要なのは首相の後継候補と目される政治家がかなりはっきりしてきたことである。首相は後継者を育てたことを意味し、次の世代へのバトンタッチを行う環境が整ってきた。もっとも今後も政権が着実に実績を積み重ねれば、自民党総裁4選の可能性も高まるであろう。この意味で、安倍首相は幕引きも4選も狙える構えを取ったと言える。本稿では今回の人事について概観し、今後の政権の課題について簡単に論じたい。

コアメンバーは変わらず

 留任は麻生太郎副総理・財務大臣、菅義偉官房長官に止まった。しかし、執行部を含め現政権のコアメンバーを要所に配しており、政権の性格が変わったわけではない。コアメンバーの数名は次期首相候補と目されるようになってきた。一方で国民の間で人気が高い小泉進次郎氏を環境大臣に起用し、新鮮な印象を与えることに成功した。

 また西村康稔経済再生担当大臣、河井克行法務大臣、江藤拓農水大臣、荻生田光一文部科学大臣、衛藤晟一1億総活躍担当大臣はいずれも安倍首相に近い関係にある。執行部、内閣ともに首相の意向が浸透する体制が続いているということである。

 こうした人事が行われるのは今の政治制度の特徴を考えると自然である。すなわち、衆議院の選挙制度として、小選挙区・比例代表制が採用され、党首は公認権を通じて党内に大きな影響力を及ぼすことができる。1994年の選挙制度改革以降、徐々に首相の人事権は強まってきた。この傾向が今回の人事にも表れている。また初入閣が13人に上ったことも注目されている。ただ、衆議院議員総選挙で当選6回以上を経験し、さらに閣僚を経験したことのある自民党の政治家の総数が自民党で当選6回以上の経験のある全衆議院議員に占める割合は改造後も8割を下回る。以前、この数字は9割を超えていた。この数字も首相の人事権における裁量の余地が拡大していることを改めて裏付けている。

 もっともいくら人事権が強くても閣僚が問題を起こせば、内閣支持率に響き、首相の求心力は損なわれる。すでに指摘されるように萩生田氏の文科相起用は加計学園問題の再燃につながる恐れがある。

改造後の課題

 重要なのは改造後に安倍首相が何を目指すのかということである。

 茂木氏の外相起用、河野氏の防衛相への横滑りの主な狙いは「自由で開かれたインド太平洋」構想の強化であろう。安倍内閣は16年8月にこの構想を打ち上げて以降、外交政策の柱の一つとして地道に推進している。この構想の中には各国との防衛協力も含まれている。これまでの外務大臣として経験を生かしながら各国との防衛協力を深化させることを期待し、安倍首相は河野氏を防衛相に任命した考えられる。

 加藤氏の厚労相への再起用、西村氏の経済再生相・社会保障改革担当相への任命はすでに報じられている通り社会保障改革を進めるためである。安倍首相は昨年秋の総裁選の前後から社会保障制度を全世代型に改めることに意欲を示してきた。これまでに企業に対して70歳までの雇用の努力義務を課すこと、中途採用の拡大、氷河期世代への支援拡充などが検討されてきた。

 ここで安倍政権の経済・社会政策を俯瞰しておこう。12年の政権発足後から15年秋頃までは成長戦略を掲げ、法人税減税、電力自由化、コーポレートガバナンス改革などを実現した。15年秋以降は「1億総活躍」「働き方改革」「人づくり革命」などを掲げ、労働政策や格差対策に重点を移し、残業時間の制限や教育無償化を実現した。

 これまでに紹介された社会保障改革のメニューはこれまでに実現した経済・社会政策と同じように画期的なものなのかどうか疑問の余地が大きい。雇用期間の延長の議論とともに、再教育の制度化などの検討も必要なのではないか。

 さらに、首相は憲法改正に強い意欲を示している。ただ、改正の内容については改憲の議論に積極的な政党の間でも意見が分かれる。また現在、参議院では改憲に前向きな政党は発議に必要な3分の2の議席を確保していない。結局、憲法改正の実現は難しいのではないか。

次期総選挙のタイミング

 改憲の議論は進まず、社会保障政策でも抜本的改革案は生まれないかもしれない。一方、あまり注目されないかもしれないが、コーポレートガバナンス改革、東京国際空港の機能拡張を含めた観光振興、食の輸出拡大は着実に進むであろう。また3歳児から5歳児までの就学前保育・教育の無償化、高等教育の一部世帯への無償化などは着実に実施に移されていく。さらに、ラグビーワールドカップの開幕も目前で来年には東京オリンピックという重要なイベントも控えている。

 このため、大きな経済危機、スキャンダルにでも見舞われない限り、政権運営は安定するであろう。そうした中、安倍首相は解散、次期総選挙のタイミングをうかがうはずである。最も可能性が高いのは来年の東京オリンピックの前後である。

4選の可能性

 最後に、関心を集めている安倍首相の自民党総裁4選の可能性に触れたい。安倍首相自身は4選に消極的であると報じられることも多い。ただ、首相自身が密かに4選を考えていたとしても現時点でそうした意向を漏らすはずがないことに留意する必要がある。重要なのは今後の政治の展開である。現在の衆議院議員の任期は2021年10月21日までである。このため次期衆議院議員総選挙はほぼ確実に安倍首相の総裁任期終了(2021年9月)前に行われる。自民党が勝利する場合、4選の可能性は高まる。また、忘れてはならないのは来年アメリカ大統領選挙の結果である。トランプ大統領再選の場合には、トランプ氏との良好な関係を踏まえて、4選論は強まるはずである。

政策研究大学院大学教授

日本政治の研究、教育をしています。関心は首相の指導力、参議院の役割、一票の格差問題など。【略歴】東京大学法学部卒。スタンフォード大学政治学部博士課程修了(Ph.D.)。大蔵省、政策研究大学院大学助教授、准教授を経て現職。【著作】『コロナ危機の政治:安倍政権vs.知事』(中公新書 2020年)、『参議院とは何か』(中央公論新社 2010年)、『首相支配』(中公新書 2006年)、『戦前日本における民主化の挫折』(木鐸社 2002年)など。

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