Yahoo!ニュース

今年の政治の行方:参議院議員選挙の注目点とダブル選挙の可能性

竹中治堅政策研究大学院大学教授

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

早速であるが、夏までを射程に今年の日本政治における重要な日程について簡単に予習しておきたい。

1月4日から通常国会

1月4日から早くも2016年の通常国会が始まる。通常国会の1月4日召集は1992年から国会が1月に召集されるようになってからは最も早い。

通常国会ではまず2015年度補正予算を審議したのちに16年度予算の審議が始まる。予算成立後は安倍内閣の主要政策を実現するために必要な法案審議が行われるはずである。安倍首相は安保関連法制成立後の重要政策として「1億総活躍」を唱え、その具体的目標として、新三本の矢=「強い経済」「希望出生率1.8」「介護離職ゼロ」の実現を目指している。この実現に必要な法案を提出することが見込まれ、国会の後半では具体的な政策の内容についての議論が行われるであろう。

宜野湾市長選挙

恐らく補正予算が成立し、本予算の審議が始まった後に、安倍内閣にとって重要な選挙が行われる。1月24日に予定される沖縄県宜野湾市長選挙である。安倍内閣は宜野湾市に立地するアメリカ海兵隊普天間飛行場の辺野古移設を推し進めている。周知のとおり、翁長沖縄県知事は辺野古移設に反対している。選挙戦の結果は辺野古移設をめぐる安倍内閣と沖縄県の間の対立に大きな影響を及ぼすと考えられている。

この市長選挙は現職の佐喜真淳氏と新人で元県庁職員の志村恵一郎氏の間の一騎打ちとなる。佐喜市長は移設を容認している。自民・公明両党は県連レベルでの推薦を決めており、首相官邸も全面支援する構えである。これに対し、志村氏は移設反対を公約に掲げており翁長知事側は出馬表明の記者会見の場に同席したように、志村氏を支援している。現職が当選した場合には、安倍内閣は普天間飛行場移設問題の最も直接の当事者である宜野湾市の市民は移設に賛成であると主張して、移設を進める大義名分を得られることになる。

さらに4月24日に町村信孝前衆議院議長が2015年6月に死去したことに伴い北海道5区で補欠選挙が行われる。自民党からは町村氏の女婿である和田義明氏が出馬する。これに対し、民主党をはじめとする野党が統一候補を擁立できるかどうかが注目されている。この選挙は安倍内閣の勢いを測る機会となるほか、参議院議員選挙において野党が一人区で統一候補を立てられるかどうかの試金石となる。

また、5月26日、27日には三重県で伊勢志摩サミット(G7首脳会議)が開かれる。日本での開催は2008年に北海道で開かれた洞爺湖サミット以来となる。サミットではテロ対策、中国の海洋進出への対応、世界経済のあり方などについて議論がなされるであろう。

参議院議員選挙

国会会期終了後、恐らく7月に参議院議員選挙が行われる。注目点は次の五つである。

一つは自民党、公明党、さらにおおさか維新の会が非改選議席を合わせて参議院で三分の二以上の議席を獲得できるかどうかということである。安倍晋三首相はかねてから憲法改正について意欲を示している。自民・公明両党はすでに衆議院では改憲の発議に必要な三分の二以上の議席を確保している。両党に加え、おおさか維新の会の創設を主導した橋下徹前大阪市長は改憲に前向きであり、三党で参議院で三分の二以上の議席を確保できれば、憲法改正の議論が大きく進むことになるであろう。

第二は、民主党をはじめとする野党が野党統一候補をどこまで擁立できるかどうかである。参議院の改選議席のうち、選挙区で選ばれるのは73議席であり、うち、32議席が1人区で選ばれる。1人区で野党が分裂したまま戦うよりは候補者を調整し、統一候補を擁立できた方が自民党に対し、挑みやすくなると考えられる。ここで特に注目されるのが共産党の動きである。昨年9月に共産党が安保関連法制の廃止を主な目的として「国民連合政府」を樹立する構想を打ち上げており、このために選挙協力を行うことを提案した。民主党が「国民連合政府」構想に賛同するとは考えられない。ただ、これまで共産党は一部の例外を除き基本的に1人区を含め全選挙区を含めて候補者を出馬させてきている。共産党が一部の選挙区で候補者の擁立を見送れば、それだけ他の野党の候補者の勢力は拡大することは間違いない。したがって、「国民連合政府」の樹立で合意しない場合でも、共産党を含め野党ができるだけ多くの1人区で統一候補の樹立に合意できれば、これは選挙の結果に大きな影響を及ぼすであろう。

第三は、昨年6月に改正された公職選挙法が6月19日に施行され、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられることである。これにより新たに有権者の240万人が増える。もっともこれは有権者のわずか2%に過ぎず、これにより直ちに大きな政治の変化が起きるとは考えにくいが、社会保障政策などが高齢者に偏重し、巨額の財政赤字という形で将来世代に「つけ」が回されていることは紛れもない事実であり、少しでも若年層の政治参加の権利が認められることは意味のあることである。

第四は、今度の参議院議員選挙に際して定数是正が行われ、参議院議員選挙の歴史上はじめていわゆる「合区」が認められ、定数合わせて一つの単位とする選挙区が生まれたことである。これまでは選挙区は都道府県単位に設けられていた。これに対し、今度の選挙では島根県・鳥取県、ならびに高知県・徳島県が合区され、それぞれ一つの選挙区として扱われることになった。これまで選挙区選出の参議院議員は自らを都道府県代表と考えてきた。合区が参議院議員の代表意識にどのような変化をもたらすことになるのか注目したい。

最後は、定数是正の結果、選挙区の定数が変わることである。改選議席数が北海道、東京、愛知、兵庫、福岡でそれぞれ2から3、5から6、3から4、2から3、2から3に増える。一方、合区される選挙区の改選議席数が1となることに加え、宮城、長野、新潟各県の改選議席数が2から1に減らされた。これが各党の選挙戦略に及ぼす影響に注視する必要がある。特に公明党は東京を除く増員区で議席を増やす可能性が高い。

ダブル選挙の可能性

また最後に参議院議員選挙に合わせて衆議院が解散され、1986年以来30年ぶりに衆参同日選挙が行われる可能性についても念頭に置くべきである。国会会期最終日の6月1日に衆議院を解散すれば、7月20日に衆参同日選挙を行うことが可能である。前回総選挙が行われてから1年8ヶ月で総選挙が行われることになり、選挙の間隔があまりに短いという批判もなされよう。ただ、現行憲法下でこれより短い間隔で選挙が行われた例は3例ある。2014年12月の総選挙は安倍首相が内閣に勢いのある間に総選挙をすることが望ましいという考えの持ち主であることを強く示唆している。内閣支持率が今後も高水準のまま推移し、野党の選挙協力が進まない場合には、ダブル選挙の可能性は十分あると考えて今後の政治の展開を見るべきである。

政策研究大学院大学教授

日本政治の研究、教育をしています。関心は首相の指導力、参議院の役割、一票の格差問題など。【略歴】東京大学法学部卒。スタンフォード大学政治学部博士課程修了(Ph.D.)。大蔵省、政策研究大学院大学助教授、准教授を経て現職。【著作】『コロナ危機の政治:安倍政権vs.知事』(中公新書 2020年)、『参議院とは何か』(中央公論新社 2010年)、『首相支配』(中公新書 2006年)、『戦前日本における民主化の挫折』(木鐸社 2002年)など。

竹中治堅の最近の記事