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PM2.5・黄砂の特徴

竹村俊彦九州大学応用力学研究所 主幹教授
(ペイレスイメージズ/アフロ)

今日(5月30日)は、私が運用しているPM2.5予測での予測どおり、北海道・沖縄を除き、全国的にPM2.5濃度が高くなっています。空を見ると白く霞んでいる状況です。光化学オキシダント注意報が発令されている地域もあります(光化学スモッグとPM2.5との関係については、以前の私の記事「光化学スモッグの原因」にて解説しています)。6月2日までPM2.5濃度が高い状況が続くと予測されているので、小児・高齢者や呼吸器疾患・循環器疾患をお持ちの方々は注意された方が良いと思います。

ところで、PM2.5は、人間活動によって排出された大気汚染物質であると認識されている場合が一般的には多いですが、必ずしもそうではありません。PM2.5は、直径がおおよそ2.5ミクロンより小さい微粒子の総称なので、人間活動由来か自然由来かで分類しているわけではありません。それでは、PM2.5や黄砂をはじめとする大気中の微粒子は、どのような特徴を持っているのでしょうか?

主な成分は?

大気中の微粒子の代表的な成分は、硫黄を含むガスや窒素酸化物が化学反応を起こして生成される硫酸や硝酸、ものの燃えかすである有機物や黒いスス、砂漠から舞い上がる砂粒、波しぶきでできる海塩などです。その他、火山灰や花粉、スプレーから出されるミストなども大気中に存在する微粒子です。これら微粒子(あるいは微粒子が浮かんでいる状態)のことを、少し専門用語で「エアロゾル」と言います。

例えば、日本の四大公害病の1つである四日市ぜんそくは、硫酸エアロゾルが主な原因で起こりました。

主な発生源は?

自然由来として代表的なのは、海上や砂漠で強風が吹いて舞い上がる海塩や砂粒です。その他、火山から出てくる火山灰や、火山性ガスが化学反応で微粒子になるものもあります。また、森林に行くと空気がすがすがしく感じますが、その原因は植物から発生する揮発性の気体です。その気体も、化学反応により微粒子となるものがあります。それから、海の植物プランクトンは、硫黄を含む気体を出します。それが大気中に出てきて、化学反応により硫酸エアロゾルとなります。

人間活動由来で代表的なのは、石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料や、木材などのバイオ燃料です。また、森林火災や焼き畑からも、世界的に見るとかなりの微粒子が排出されています。現代の森林火災の多くは、自然発火ではなく、熱帯雨林での大規模なプランテーション開発や、火の不始末が原因であると考えられています。化石燃料・バイオ燃料の利用や、森林火災・焼き畑からは、二酸化硫黄・窒素酸化物・有機物・黒いススなどが発生して、大気中の微粒子の濃度上昇の主な原因となっています。それから、過放牧などにより砂漠化してしまった場所から舞い上がる砂粒も、人間活動由来と考えることができます。

微粒子の大きさは?

これまで解説したとおり、最初から微粒子として発生源から発生するものと、発生源からは気体(ガス)として発生して、大気中での化学反応で微粒子になるものがあります。前者を1次粒子、後者を2次粒子と呼びます。大気中に浮かんでいる微粒子の大きさは様々なのですが、下の模式図に示すとおり、2つの典型的なサイズ帯があります。大きい方は、直径が数ミクロンの微粒子が中心で、主に黄砂などの砂粒や海塩などの自然由来の1次粒子で構成されています。一方、小さい方は、直径が0.数ミクロンの微粒子が中心で、2次粒子や人間活動由来の1次粒子で構成されています。つまり、すでに解説した硫酸・硝酸・有機物・黒いススなどが主な成分です。

ただし、砂粒や海塩でも、小さい方のサイズ帯のものもありますし、人間活動由来の微粒子でも、大きい方のサイズ帯のものもあります。

この図からわかるように、PM2.5は、小さい方のサイズ帯全体を表していると言えます。2.5ミクロンの微粒子が多いわけではなく、0.数ミクロンの微粒子が多いのです。このことは、健康影響の観点からは非常に重要です。0.数ミクロンの微粒子は、肺の奥まで入りやすく、呼吸器系だけではなく、循環器系にも影響を及ぼすと考えられています。もちろん、黄砂などの大きい方の微粒子の濃度が高いときも、呼吸器疾患やアレルギー疾患を引き起こす可能性があるので、注意が必要です。

九州大学応用力学研究所 主幹教授

1974年生まれ。2001年に東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。九州大学応用力学研究所助手・准教授を経て、2014年から同研究所教授。専門は大気中の微粒子(エアロゾル)により引き起こされる気候変動・大気汚染を計算する気候モデルの開発。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書主執筆者。自ら開発したシステムSPRINTARSによりPM2.5・黄砂予測を運用。世界で影響力のある科学者を選出するHighly Cited Researcher(高被引用論文著者)に7年連続選出。2018年度日本学士院学術奨励賞など受賞多数。気象予報士。

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