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光化学スモッグの原因

竹村俊彦九州大学応用力学研究所 主幹教授
(ペイレスイメージズ/アフロ)

ここ数日は、5月とは思えない暑さが全国的に続いています。それと関連して、光化学オキシダントの濃度が高くなり、光化学オキシダント注意報が発令された地域もありました。正式には「光化学スモッグ注意報」ではなく「光化学オキシダント注意報」です。

光化学オキシダントとは?

主に石油・石炭などの化石燃料を使うと排出される窒素酸化物などが、太陽の光(紫外線)を浴びて化学反応を起こして作られる物質が、光化学オキシダントです。光化学オキシダントには、いくつかの物質がありますが、主な組成はオゾンです。オゾンは、上空20〜40kmにある場合は、有害な紫外線を地上まで届かないようにしてくれる物質です。つまりオゾン層です。一方、私たちが生活する場所で濃度が高くなってしまうと、健康に悪影響を及ぼします。

注意報を出すかどうかは、この光化学オキシダントの濃度で決まります。ですから、正式には「光化学オキシダント注意報」なのです。また、オゾンは温室効果ガスでもあります。つまり、大気汚染も地球温暖化も引き起こす、やっかいな物質です。

それでは光化学スモッグとは?

オゾンは、無色透明の気体です。ですから、光化学オキシダントの濃度が高くなるだけでは、空は霞みません。

「スモッグ」は、「スモーク(煙)」と「フォッグ(霧)」を足し合わせた語です。普通の霧は水滴ですが、水滴ではない物質で空が霞むのがスモッグ(煙霧)です。それでは、何が原因でスモッグが起こるのでしょうか?それは、PM2.5などの微粒子の濃度が高くなることが原因です。大気中の微粒子の濃度が高くなると、太陽の光を余分に反射してしまうのですが、その現象は空を白っぽく見せます(詳しくは以前の私の記事「PM2.5が引き起こす気候変動」で解説しています)。光化学スモッグの時ではなくても、PM2.5濃度が高ければ空は白く霞みます。

光化学スモッグというのは、オゾンなどの光化学オキシダントが化学反応で作られるのと同時に、PM2.5も化学反応で作られることで起こります。また、そもそも、光化学オキシダントの濃度が高いときは、全般的に様々な大気汚染物質の濃度も高いため、PM2.5の濃度も高く、白く霞むことになります。

ここ数日で光化学オキシダント濃度が高かった原因は?

すでに説明したとおり、光化学オキシダントが作られるためには、太陽の光と、窒素酸化物などの材料が必要です。「暑い」、つまり太陽の光が強いから、必ず光化学オキシダントが多く作られるわけではありません。当然、材料が必要です。ここ数日は、特に東日本を中心に、大陸から流れ込んできた大気汚染物質がとどまりやすい状況になっていたことが、私が運用しているPM2.5予測でも予測されていました。日本自身が排出している大気汚染物質に加えて、越境飛来があったことが、光化学スモッグが続いた原因であると考えられます。

九州大学応用力学研究所 主幹教授

1974年生まれ。2001年に東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。九州大学応用力学研究所助手・准教授を経て、2014年から同研究所教授。専門は大気中の微粒子(エアロゾル)により引き起こされる気候変動・大気汚染を計算する気候モデルの開発。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書主執筆者。自ら開発したシステムSPRINTARSによりPM2.5・黄砂予測を運用。世界で影響力のある科学者を選出するHighly Cited Researcher(高被引用論文著者)に7年連続選出。2018年度日本学士院学術奨励賞など受賞多数。気象予報士。

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