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カーリング日本選手権、ロコ・ソラーレのウエアを着てちょいちょい見切れるデキる男の正体とは

竹田聡一郎スポーツライター
カルガリーにて。左上がJD、右上が高田トレーナー (C)Loco Solare

 いよいよクライマックスを迎える「全農 日本カーリング選手権大会2023」。女子のラウンドロビン(総当たりの予選リーグ)で1位通過を決めたのは、昨年の王者ロコ・ソラーレだ。

 吉田夕梨花、鈴木夕湖、吉田知那美、藤澤五月という不動のメンバーのパフォーマンスを、フィフスの石崎琴美、チームが結成された2010年からの名物コーチ・小野寺亮二、今季から専任コーチとなった“JD”ことジェームス・ダグラス・リンドというお馴染みのトリオが見守る。

 しかし、それとは別にNHK-BSの中継やYouTubeのライブ配信を注意深く観ていると、コーチボックスの逆側のハウス奥、ガラス越しに時折、ロコ・ソラーレの青いウエアを着用した男性が見切れることがある。目敏いファインは「あの人は一体?」と気づいたかもしれない。

 髙田聖也トレーナーだ。

 このメガネの似合う好漢は平昌五輪後からトレーナーとしてチームに帯同しはじめ、2021年から専属トレーナーとして契約。以降、北京五輪を含むほとんどの大会を共に戦ってきた。

 シーズン中、特に大会中の選手のケアがメインの仕事だ。1選手につき1時間ほど、身体のメンテナンスを施す。

「いちばん疲れているだろうからスイーパーから順番にケアするのが、なんとなくチームのルールというか流れですね。夕湖さんは夕梨花さんはやはりスイープで張りやすい上半身に時間をかけます。その後で五月さん、ちな(知那美)さんっていう順番が多いです」

 連戦で疲労が溜まることは当然ある。例えば吉田夕梨花は平昌五輪前後、長距離ランナーに多いコンパートメント症候群を抱えていた。ハードなスイープの代償だろう。

 しかし、高田トレーナーはそのあたりも織り込み済みで「夕梨花さんはふくらはぎが張りやすい箇所があるので、そこを意識してケアしていました。平昌以降でまた不安になる、ということはなかったはずです」と選手それぞれへのアプローチを変え、事前にトラブルの芽を摘んでいた。

 「誰よりも選手を見ている人」とは石崎の高田トレーナー評だが、五輪シーズンであってコロナ禍というイレギュラーだった昨季の終わり、メンバーが「まずは無事にシーズンを終えることができた」と口を揃えたのも高田トレーナーへの感謝の表れだろう。

遠征先でも主に高田トレーナーの部屋がケアのためのスペースになるほか、ミーティング部屋にもなることが多いとか (C)Loco Solare
遠征先でも主に高田トレーナーの部屋がケアのためのスペースになるほか、ミーティング部屋にもなることが多いとか (C)Loco Solare

 そんな選手に寄り添ったトレーナーでありながら、藤澤は「なんでもできる男なんです」と証言する。

「トレーナーの仕事をこなしながら、運転、料理、買い物、練習の記録などをやってくれる。私たちは本当にいろいろうるさいので、聖也さんがチームにマッチしてくれて感謝しているし、嬉しいです」

 チームには「聖也さん」「せいにゃん」と呼ばれ親しまれながら、カナダでは鈴木の「茶碗蒸しが食べたい!」という無茶振りに応え、人生初の茶碗蒸しを作った。

「みんなが練習したり、ジムに行っている間は暇なので料理をしているだけです。茶碗蒸しも悪くなかったんですけれど、個人的にはきんぴらごぼうがうまくできたので、そっちをもっと褒めてほしかった」

 そのマルチな仕事っぷりで頼られている縁の下の力持ちだが、「僕もちょいちょい忘れ物とかしてチームに迷惑をかけているので、全然です」とあくまで謙虚で、どこかゆるいキャラクターが、藤澤いわく「チームにマッチした」のだろう。

 一方で、トレーナーとして「詳細なカーリングの話はなるべくしないこと」を決めているという。高田トレーナーはカーリングの競技経験は「去年から趣味として始めたけれど、ゼロに近いです」だそうだが、「単純に(詳しく)知らないだけというのもあるんですが、僕が選手だったらケアの時間に『あのショットはー』みたいな話をされたら絶対に嫌だろうなと思うので」、そう語った。

 藤澤は今大会中、「集中とリラックスのいいバランスが取れている」とコメントしたが、その背景にはこういった高田トレーナーの細かな気遣いがあるのかもしれない。

 大会は順調にラウンドロビンを消化し、プレーオフを残すのみだ。ロコ・ソラーレの試合、ハウス裏で静かに試合を見守り、好ショットの瞬間に柔らかな笑みをこぼす人物がいたら、世界へ挑むチームに欠かせない存在になった寡黙な仕事人“聖也さん”だろう。

髙田聖也(たかだ・せいや)

1995年5月22日、北海道久遠郡せたな町生まれ。北海道メディカル・スポーツ専門学校(現北海道ハイテクノロジー専門学校)を卒業後、北見市内のスポーツジムで勤務。2021年からロコ・ソラーレに加入し、北京五輪をはじめ、ほぼすべての大会に帯同し選手のコンディショニングを見守ってきた。趣味は乃木坂46鑑賞で、推しメンは与田祐希。

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スポーツライター

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。 カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

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