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カーリング女子富士急が休部も「山梨から世界へ」を諦めない石垣真央が描く再出発

竹田聡一郎スポーツライター
左から小谷有、石垣、小谷優、小穴。 (C)どうぎんカーリングクラシック

 ロコ・ソラーレ、中部電力、北海道銀行フォルティウス(現フォルティウス)と並んで近年、カーリング女子の「4強」と呼ばれていた富士急の休部が発表されたのは9月2日のことだ。

 スキップの小穴桃里は出産のため昨季終了時点で一度、チームを離れている。JISS(国立スポーツ科学センター)が運営する「女性アスリート支援プログラム」のサポートを受けながらこの秋に出産予定だ。コンディショニングが順調いけば年内にアイス復帰を果たせる見込みだ。札幌国際大学の青木豪と組むミックスダブルスの日本選手権(23年2月/稚内)に向けてピーキングをしていく。今季はミックスダブルスに専念することになりそうだ。

 リードの小谷有理沙は9月15日に自身のSNSを更新し、「本日をもちましてチーム富士急を離れることにいたしました」とチームメイトと過ごした5年間を振り返り感謝の言葉をつむいだ。

 その姉の小谷優奈の去就については16日午後にフォルティウスから「新加入選手のお知らせ」というリリースが出された。「再びオリンピックを目指しカーリングができることが大変嬉しいです」とは本人のコメントだ。北海道ツアーでは4戦2勝と好成績を残したチームは新たな矢を得て、今季は6人体制で世界へ挑む。

 残された形になってしまったチーム最年長の石垣真央だが「チームメイトには感謝しかない」と語る。

「それぞれの道を選んだみんなを応援しています。桃里ちゃんにはまず安産をしてもらって、私もまたMDに挑戦しようと思うので稚内で会えたら最高ですね。優奈ちゃんは単純にいい選手なので今度は対戦できるという楽しみが増えました。有理沙ちゃんも自分の夢に向かって進むのかと思うと胸がいっぱいになります」

 自身はこの夏、北海道ツアー3大会を(STRAHL/Minami)と共に出場した。本格的に同チームに加入するのかという声もあったが、本人は「あくまでスポット参加です。私は富士急に残ってカーリングをしたい」と富士急というチームと共に歩む決断を口にした。

「富士急という人を楽しませる企業がカーリングを支援してくれているのってすごくいいなと私は誇りに思っているんです。北海道や長野に強いチームが多いけれど、富士山のある山梨から世界を狙うチームがあるのって面白くないですか? 『山梨から世界へ』はまだまだ実現できると信じていますので一緒にプレーしてくれるメンバー集めから頑張っていこうと決めました」

 まだ石垣が加入する前の2010年の創部時代は「チームフジヤマ」を名乗っていたこともあった。チームはその後、改称したが現在もチームロゴの中心には富士山が鎮座する。また世界を目指すために石垣はまず世代にこだわらず、山梨をホームタウンとしながら競技活動を継続できる選手を探していく。

 彼女は北海道ツアーの最中、休部の報道を受けて急遽、メディアに対応したが、その中で「小穴や小谷姉妹と共にプレーした中で思い出を教えてください」という質問があった。石垣は少しさみしそうに、それでも笑顔で振り返った。

2018年の日本選手権で初優勝。右は西室雄二コーチと西室淳子。現在は共にSC軽井沢クラブ所属だが、富士急の歴史をつむいだ重要な選手、コーチだった。(著者撮影)
2018年の日本選手権で初優勝。右は西室雄二コーチと西室淳子。現在は共にSC軽井沢クラブ所属だが、富士急の歴史をつむいだ重要な選手、コーチだった。(著者撮影)

「2018年の日本選手権優勝と世界選手権出場も楽しかったですけれど、個人的には2019年のツアー初勝利でしたね。カナダのハリファックスという街での大会だったんですけれど、『やっと世界で結果が出た』という嬉しさとまだ強くなれるというワクワクした気持ちを覚えています。またああいう気持ちになれるように頑張ります」

 今季は前述のような大会スポット参加に加え、ミックスダブルスに挑戦するなど自身の試合勘を維持しながらチームの再起動に尽力していく構えだ。

 例えば、ロコ・ソラーレの鈴木夕湖は近年の若いチームの台頭について「後輩の成長を実感できた。負けずに頑張りたい」と嬉しそうに語っていたことがあった。フォルティウスの小野寺佳歩は新体制でスタートを切った昨年の自チームについて「まずはプレーできて嬉しいですけれど、カーリングに専念できるチームが増えたのはいいことだと感じている」という感想を口にしている。

 鈴木や小野寺は石垣と同じ91年生まれ。ベテランの域に達しつつあるトップカーラーだ。彼女らは近年、カーリング界の全体像や未来を慮った言葉を発するようになった。石垣のこの度の残留宣言もそれに近い意図があるのかもしれない。

 山梨から世界へ。その思いが脈々と継がれるような体制が整うことを日本中のカーリングファンが願っている。

スポーツライター

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。 カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

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