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【追記あり】悔し涙からのスタートした今季の中部電力。/カーリング日本選手権

竹田聡一郎スポーツライター
左から鈴木みのり、中嶋星奈、松村千秋(C)JCA IDE

「泣くほどまだストイックに追い込んでない。これから1年、本気でやるならもちろん僕もできる限りのことはします」

 ちょうど1年前、2020年2月に軽井沢アイスパークで行われた「第37回全農日本カーリング選手権大会」を準優勝で終えた中部電力の両角友佑コーチは、決勝戦後の取材でスキップの中嶋星奈が目に薄く涙を浮かべていたことを聞いて、そう語った。

 ラウンドロビン(総当たりの予選)を8勝全勝で1位通過しながら、プレーオフでは優勝したロコ・ソラーレに2連敗。決勝はエクストラエンドのラストロックまでもつれた大会史上に残る激戦だったが、あと1手、足りなかった。

「相手はやはりオリンピアンで、銅メダルをとったチーム。ミスのない強さがあった。来年はもっと戦えるようにしたい」

 中嶋はロコ・ソラーレの強さを認めつつ、さらなる強化を誓った。

 そして迎えた今季、春には世界ジュニア選手権などで実績を残してきた鈴木みのりが加入する。

「オールラウンダーなのでポジション争いも生まれて、チームにとってとてもいい刺激になる」(フォース・北澤育恵)

「努力家でみんなを『頑張るぞ』という気持ちにさせてくれる」(中嶋)

 競争を生んだ即戦力ルーキーを歓迎しつつ、トレーニングのギアも上げた。

 新型コロナウイルスの影響でオンアイスの始動こそ遅れたが、そのぶんアイス外の負荷を高めた。全選手に「1ヶ月100キロ」を目標にランを課し、選手をはじめ大日方優次監督や横山彰事務局長、清水絵美マネージャー、両角コーチ、鵜沢将司トレーナーも含めた“オール中電”でランニングチームを組み、昨年4月からの10ヶ月で累計800kmほどの距離を走破。さらに夏から秋にかけては氷上練習と並行してフィジカルや体幹を並行する二部練習の時期を作り、能力のベースアップを求めた。

 新戦力とハードなトレーニング、そのふたつの成果を携えて挑んだ今大会は4連勝スタート。しかも「育成という意味もあるけれど、どんな形でも戦えるようにしたい」と両角コーチが説明したように、リードとセカンドを中嶋、鈴木、石郷岡葉純の3人でローテーションさせながら白星を重ねた。プレーオフ以降は調子のいい選手を起用する方針だが、「誰が出てもいいパフォーマンスは維持できるので、この新しい形は私たちにとっていい形になっている」とチーム最年長の松村千秋は手応えを口にする。

 ラウンドロビン終盤の北海道銀行戦、ロコ・ソラーレ戦とアイスの読みで後手を踏み、連敗を喫して4大会連続での1位通過を逸し、3位でのプレーオフ進出となったが、チームの雰囲気は明るい。

 松村は北京五輪につながる大会に臨むにあたり気負いやプレッシャーはと質問され、

「勝たなくてはいけない大切な大会だとは分かっているのですけれど、それ以上に相手がいて緊張感のある10エンドゲームができる楽しさもある。細かい部分でしっかりコミュニケーションをとってもっといいゲームをしたい」

 そう答えた。

 悔しさからスタートした今季、コロナ禍でゲームへの飢えも生まれた。それらを晴らすのは3位通過からの下克上だ。絶対に負けられない戦いがいよいよ始まる。

【追記】

 準決勝で優勝した北海道銀行に敗退したあと、チーム最年長の松村が「チャンスは作れていたけれど、相手のほうが実力が一枚も二枚も上だった」とコメントしたように、細かい部分でのミスを防げなかった。

 来季以降については23日から青森で開幕する第14回全農日本ミックスダブルスカーリング選手権大会が終わってからミーティングをして決定する予定だが、今大会後に松村が「次につながる試合だったし、大会になったと思う」とコメントするなど、選手のSNSなども含め、前向きな言葉が並ぶ。

 今回の上位4チームではもっとも平均年齢が低い若いチームでもある。今大会の敗戦を糧にできるのか。今後の動向に注目したい。

スポーツライター

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。 カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

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