“消えた天才”の凱旋。第37回全農日本カーリング選手権大会を盛り上げた隠れた選手とは?

大学卒業からの約5年のブランクを埋めてワイルドカード枠を勝ち取った(筆者撮影)

 長野県の軽井沢アイスパークで第37回全農日本カーリング選手権大会が行われ、男子はコンサドーレの連覇、女子はロコ・ソラーレが4年ぶりの優勝で幕を閉じた。

 JCA(日本カーリング協会)貝森会長の「男女ともに、近年稀に見るレベルの高い決勝だったのでは」という総括どおり、男子のコンサドーレとTM軽井沢、女子のロコ・ソラーレと中部電力、それぞれの決勝は共にラストロックまでもつれ込む、どちらが勝ってもおかしくないスリリングな攻防で魅せてくれた。

 また、今大会から2022年の北京冬季五輪の国内選考を兼ねるほか、ワールドツアーランキングの上位が出場する「ツアーランキング枠」、さらに北海道、東北、関東、中部、西日本の予選にあたる各地区ブロックで準優勝の5チームが競う「ワイルドカード枠」が新設されるなど、カーリング界は新たなチャレンジを試みている最中だ。

 そんな中、大会MVPを獲得したロコ・ソラーレの藤澤五月がジュニア時代、中部電力時代に「なかなか勝てなかった。特に中部選手権ではすごく難題でした」と懐かしむ、かつてのライバルが出場してきた。

 前述のワイルドカード枠で本戦に滑り込んできたチーム東京(サングリア)のフォース・土屋海(つちやかい)だ。

 1991年生まれの土屋は藤澤と同級生であり、他にもロコ・ソラーレの吉田知那美と鈴木夕湖、北海道銀行フォルティウスの吉村紗也香と小野寺佳歩、富士急の石垣真央などのトップカーラーが名を連ねる「カーリング黄金世代」と呼ばれる。ただ、彼女たちは北海道北見市出身なのに対して、土屋は長野県御代田町出身だ。

 ジュニア時代から数々の大会で表彰され、城西大学進学後には、前述の藤澤のコメントどおり中部電力と日本選手権出場をかけて中部選手権で何度も対戦している。城西大卒業後、就職し「年に1回か2回、オープン大会に出る程度でした」と、一時は競技から離れるが現在のチームメイトに誘われる形で17/18シーズンに本格復帰し、3シーズン目で日本選手権カムバックを果たした。

「メンバーは変わったけれど、海ちゃんの投げ方は変わらないですね。ジュニア時代にカナダ遠征に一緒に行ったことを思い出したりしていました」

 久しぶりの対戦を藤澤はそう振り返ったが、ロコ・ソラーレとは初日に対戦。チーム東京のスキップは藤澤の実姉・汐里(しおり)ということもあり姉妹対決が注目を集めた。チーム東京は後攻でしっかり複数点を取るエンドで見せ場は作るが、2-13で大敗する。その後も、外気温や観客の入りによって刻一刻と変化するアイスに対応し切れず、2勝6敗の8位で大会を終えた。

 12年ぶりに日本選手権の舞台に戻った土屋は「前は観客なんてほとんどいなかったけれど、すごい入っていて圧倒されました。駐車場もあんな感じ(選手の停めるスペースの制限など)ではなく、警備員さんなんていなかったのに……」と近年のカーリングフィーバーに触れプチ浦島太郎状態に陥る一方で、「日本選手権でまたカーリングできたのは楽しかったですけれど、(結果については)悔しいです」と振り返った。

「もちろん勝てないのは分かっていたんですけれど、やはりまだまだ実力不足でした。チームとして体力もつけないといけないし、スイープで運ぶ(べき)ショットもいくつかありました。それを課題としてまた挑戦したいです」

 そのためにはまずは勤務する保険会社の理解を得るところから始めないといけないとも言う。今回も東京から交通の便のいい軽井沢開催ということもあり、試合のない平日には長野新幹線に乗って軽井沢から出勤していた。

 そんな本人の来季への意欲を受けた形で、かつてのライバルである北海道銀行の吉村は「今回、海ちゃんと投げ合えて嬉しかったですし、ワイルドカード決定戦には衿果(えりか)さんも出ていて、それも懐かしかった。また来年、この舞台で会えるといいなと思います」と話した。

 「衿果さん」とは、チーム東京と同様、中部選手権準優勝でワイルドカードに進出してきた御代田CCの大谷衿果だ。彼女も1991年生まれの黄金世代カーラーのひとりで、ジュニア時代、城西大学時代は土屋と同じチームで、吉村率いる札幌国際大学と大学選手権などで切磋琢磨した仲だ。

 藤澤は「黄金世代、と言ってくれるのは嬉しいです。でも、名前が出るのはずっと北海道の選手ばかりで。今回、海ちゃんや衿果が戻ってきてくれた。私にとっては彼女たちも含めて黄金世代ですから」と笑顔で語ったが、来季以降もこの黄金世代のカーラーを中心に2022年北京五輪へのレースは続いていくだろう。

 来季は日本選手権史上初の首都圏開催(新横浜スケートセンター)が実現されるなど話題が豊富だが、あるいは、日本のエースが認めた、戻ってきたカーリング黄金世代がキープレーヤーになるかもしれない。少なくともまた一つ、新たなカーリングのストーリーと可能性が発掘されたことは間違いない。

土屋海(つちや・かい)

1991年8月5日、長野県御代田町生まれ。両親の影響で10歳でカーリングをはじめ、御代田ジュニア(御代田AIM)に所属していた2009年の日本ジュニア選手権では、吉村紗也香や石垣真央(常呂高校)、藤澤五月(中部電力)といった同級生に勝利しジュニア王者に。城西大学進学後は藤澤率いる中部電力と中部選手権で日本選手権出場を競い合った。趣味は読書、映画鑑賞、「TSUTAYAに行っていろいろと探索するのが好きです」。