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カーリング五輪代表決定戦。攻と動のおてんば次女的な吉田知那美と、守と静のチームの母親たる清水絵美。

竹田聡一郎スポーツライター
3連覇を達成した13年の日本選手権(札幌)。松村は(右)当時、リードを担っていた

 ロコ・ソラーレ北見(以下LS北見)の吉田知那美と中部電力の清水絵美は、サードとして、チームリーダーとして、それぞれ比較していくと非常に興味深い。

 まず、共通点としてはスキップへの、忠孝一致とも言える信頼がある。

 吉田知は今季のアタマに「私は藤沢五月が一番強いスキップだと信じています」と発言した。藤沢の技術の高さや確かな戦術眼を信頼し、それを口にすることでさらに藤沢を高める、彼女なりのマネジメントなのかもしれない。アイスの上ではサードとして藤沢にタフなショットを残さないように努め、アイスの外でも積極的にチームや藤沢についてポジティブに言及。メンタル面のサポートを欠かさない。

 対して清水が、中部電力のスキップ・松村千秋について言及する場面はほとんどない。最近では、記者に松村のここ数年の変化を質問されて「試合をよく見るようになったかな」と答えた程度だ。両親同士が知り合いで「カーリングを始める前からずっと一緒」らしい、幼馴染であり、20年を超える付き合いだ。ここ数年は「間違い無く家族よりも千秋といる時間の方が多い」とも。お互いのことは熟知しているので今さら何か言うこともない。本音はそんなところなのかもしれない。公私共に淡々と粛々と松村を支えてきた。

 戦術的には、あくまで今回だけに限って言えば、少し違う選択をするかもしれない。

 吉田知は、自身のショットも含め、フロントからの6投で、「さっちゃんに決めてもらう」といった表現をしたことがあったが、常に藤沢のショットで複数点を取れるような、あるいは相手にタフなショットを残すような、藤沢の決定力ありきでエンドの構築をしているのではないか。藤沢が「みんなに決めさせてもらった」とそれに呼応するケースが、LS北見の勝ちパターンだ。

 対する清水は、今大会のキーワードに「我慢」を挙げている。ハウス内の形が悪くても、劣勢でも、ビッグショットを焦らずに淡々とリスクを減らしてゆく。スーパーショットは基本的に不要だ。少し言葉が悪いが身の丈に合った、リスクとリターンのバランスが取れた最善の選択肢を模索し、松村のショットセレクションがリスクに傾きそうな時に「最終的に1点、多く取っていればいいじゃない」などと諭し、ブレーキ役を買って出ることになる。「最近は、若いふたり(リード・石郷岡葉純、セカンド・北澤育恵)がしっかりしているから楽ですね」と笑っているが、松村の意見を尊重しつつ1歩引いた場所でチームを見守る存在であり続けている。

 トークティブで自分の言葉を持ち、発信力に優れている吉田知。どちらかといえば人見知りで必要なことだけ口に出して伝える清水。どこまでも対照的だ。

 アクセルとブレーキ、能動と受動。タイプは違えど、このふたりがアイス上で精神的な支柱であり、戦術的な部分でも鍵を握るプレーヤーであることは間違いない。カーリングには「強いチームには必ず、強いサードがいる」という言葉があるが、今季、強いサードとしてチームを高みに導くのはどちらだろうか。

スポーツライター

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。 カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

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