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カーリング平昌五輪代表決定戦展望その1、リード編。吉田夕梨花の経験か、石郷岡葉純のポテンシャルか。

竹田聡一郎スポーツライター
石郷岡は強いスイープを求めて「体重を増やしたい」と今季、筋トレを増やした。

 9月8日から、第23回オリンピック冬季競技大会(2018年2月)女子カーリングの日本代表決定戦が、アドヴィックス常呂カーリングホール(北海道北見市)で開催される。

 出場するのは中部電力とロコ・ソラーレ北見(以下LS北見)。ベスト・オブ・ファイブと呼ばれる最大5戦の、3戦に先勝したほうが晴れて平昌行きとなるが、その短期決戦の展望とポジションごとの比較を全4回に分けて紹介したい。

 まずはリードだ。切り込み隊長であり、斥候の役割を担うこのポジション。デリバリーではガードを投げ分けるなど、どんなアイスでも安定したドローショットを求められることから「職人」などと称されることも多い。

 安定という点で言えば、LS北見の吉田夕梨花のリードとしてのパフォーマンスは、国内でも最高峰だろう。点差やアイスの状態に関わらず、どんなアイスでも淡々と高いショット率を残し、スイープもフル回転する主戦たる存在だ。

 さらに吉田夕は、どんな石も苦にしないという特性を持つ。荒れ石処理の担当とでも言うべきか。

 カーリングの勝敗を分ける大きなポイントとしてはまずアイスリーディングが挙げられるが、それに次いで重要なのは「石の個性を把握する」というチームの共同作業だ。

 世界選手権などの大きな大会では必ずナイトプラクティスと呼ばれる、その日の全試合終了後の公式練習があるが、そこでチームは使用する石のクセをチェックする。曲がりにくい石もあれば、挙動の読みにくい石もあるが、それを確認してデリケートなショットや得点に直接、影響する1投では使用を避けるための準備だ。

 LS北見の場合、スキップの藤沢五月が「うちにはクセのある石のプロがいる」と語っていたことがあったが、世界のボンスピルだろうと国内大会であろうと「クセが強いんじゃ」という石はほぼすべて、吉田夕が担当する。勝負どころでクセのある石の挙動で思わぬリスクを負う可能性は低い。これも大きなアドバンテージになりそうだ。

 中部電力のリード・石郷岡葉純がカーリングに出会ったのは小学生時代で、本格的に競技に取り組んだのは中学進学後だ。カーリング歴は8年。吉田夕が5歳でキャリアを始め、13歳で日本選手権のアイスに立っていることを考えると経験という意味では不足しているかもしれない。

 それでも、日本選手権では決勝を含め、優勝チームのリードにふさわしいパフォーマンスを見せた。間違いなく大会ベストプレーヤーの一人でもあった。

 名門・青森高校出身の石郷岡のストロングポイントは、高い集中力と柔軟なカーリング脳だ。高い戦術理解度で年上でキャリアも豊富な先輩の主将の清水絵美、スキップの松村千秋らにも物怖じせずにショットセレクションの提案をしてきた。日本選手権の決勝で、次の一手を悩む松村に効果的な選択肢を増やし、「後輩がいいプランを出してくれた」と松村が従った場面は記憶に新しい。

 そして吉田夕同様、リードの仕事に誇りを持っている。

「私の1投がものすごい情報を持っている。その1投でウェイトが掴めていれば、その次も組み立てやすい」と笑顔で語る。日本選手権のように堅実に自分のショットを決め、その上でチームが求められるプラスアルファの戦術の幅を出すことができれば、決勝の再現のようなゲームが望めるかもしれない。

 絶対的な経験か、計り知れないポテンシャルか。ゲームの展開は、まっさらなシートに投げるリードのふたりにまずは託された。

スポーツライター

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。 カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

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