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第16エンド「札幌冬季アジア大会、一日目。砂漠の国からアッサラーム・アレイクム」

竹田聡一郎スポーツライター
若干、腰が高いのが気になるがフルスイープ。“砂嵐”とか異名をつけたいところだ。

いよいよ開幕した札幌冬季アジア大会だが、初日はとにかく魅せられた。

カタール代表にだ。

ん? カタールでカーリング?

そうなるのも無理はない。僕も11月のパシフィック・アジア選手権(PACC)で同じ疑問を持った。原油と砂漠の国のイメージと、氷上スポーツがうまく頭の中で結びついてくれない。

なんでもそのPACCがカタールカーリング史上初めての国際舞台だったらしい。そもそもいつからカーリングやってるの? と選手たちに質問してみたら「6月から」とか「4月」とか答えるからビビった。「小学4年からだよ」とか「まだ3年」とか年単位で言うと思ったら月だった。半年も経っていなかった。

今年から首都ドーハのバブリーでゴージャスなVillagio mallというショッピングモール内、アイスリンクに手作りシートを作って、週に1-2度練習を積んでいる。競技人口は11月の時点で25人。ジャストで言えるところがまたすごい。17人の男性と8人の女性で、学生、教師、エンジニアや警官、軍人やアナリスト、弁護士などが所属しているらしい。

韓国での試合では多くのストーンがスルーしてしまったり、ホグラインに到達しなかったりで、滑るこけるは当たり前で、スイープせずに「見守る」という新しいプレーを繰り出すなど、とてもオリジナルが強かった。

それでも彼らはとても楽しそうで、観るものを笑顔にしてくれた。韓国滞在もエンジョイしていたようで、女子チームのメンバーは「ご飯がとっても美味しい。あの辛いのなんだっけ?そう、イミチ!」と、発音に難はあるけれど元気良く教えてくれた。キムチのことらしい。「ちょっと辛いんじゃないの?」と返すと「私たちの国では多国籍の料理が楽しめる。インド料理とか辛い料理もたくさんあるから平気」とも言っていた。

男子チームは空き時間にカフェにたむろっていた。僕もたまたま居合わせたことがあったが、ちゃんと笑顔で挨拶してくれて「聞いてよ。こいつ、いま母ちゃんに電話してたんだぜ。超だせえよ。ホームシックだ」とかとか大騒ぎしていた。彼らの言動の端々にはいろんな愛が溢れているのだ。

面白いのでどこかで書きたいなと思って、引き続き選手やコーチに話を聞いていたら、本橋麻里が珍しく声をかけて(嫌われているわけではないと思う。たぶん)くれて「竹田さん、記事にするんですか? 楽しみにしてます」と言ってくれた。じゃあコメントちょうだいとお願いしてみるとすかさず彼女は言う。

「彼女ら(その時は女子チームが試合していた)はとても楽しそうにカーリングするので、すごい大事なことを改めて教えてもらっている気がします」

さすが「We win the victory with smile」を掲げているチームの主将だ。

前置きが長くなってしまったけれど、彼らは韓国での経験を糧に、今度は日本にやってきた。メンバーは何人か入れ替わっているけれど、まずは常呂で合宿を張ったらしい。どうしんウェブに「今回の合宿でも氷で足を滑らせて転倒する場面もあったが、笑顔を絶やさず練習した」という記事が出ていたが、さらに砕氷船に乗って大興奮してたらしい。相変わらず愉快な砂漠の軍団だ。

そして札幌に入り、初日から男女共に日本との対戦だった。

12時からの試合ではロコ・ソラーレ北見に17-1で負けてしまった。8エンド終了時に16点差がついていたのだが、コンシードは選択せずに、さらにリードの2投ともガードを置くという革新的な戦術をとったと会場はザワついていた。結局、コンシードとなったが、いろんなことを勉強するのはこれからだ。大きな拍手をもらっていた。

18時からの男子は19-1だった。数字だけ見ると惨敗だが、第1エンドで先攻だったカタールのアリアフェイ・ナビール選手が2投目で効果的なヒットロールを決め、リスクを嫌ったSC軽井沢クラブのスキップ・両角友佑はラストショットでセンターへのドローを選択した。結果的にそれがショートし、カタールは世界4位のチームに1点を取らせることに成功した。これは地味だけど偉大なる一歩だろう。

そのあとはまあ、スルーしたり転んだりとカタール劇場だったけど、6エンドにはまたナビール選手がシューターを効果的に残すヒットロールを決め、あわや2点獲得できるような形を作った。ラストショットは結局、ショートしてしまったがしっかり1点を得て、握手を求めた。誰もが笑顔だった。

ハンガリー人のベッラリ・ライオシュコーチは今大会について、「ゲームの結果はあんまり考えていないよ。まずはすべてのスポーツがそうであるように、この美しいスポーツが人々の役に立つ瞬間が訪れることを願っているよ」そう語っていた。砂漠の国カタールでは、どうしても屋外スポーツは制限される。インドアで楽しめるカーリングは大きなポテンシャルを持っていると、いずれこの国のパイオニアに成り得る25人のカーラーはみな願っている。カーリングが世界的な広がりを持つための鍵を持っているのは、ひょっとして彼らかもしれない。明日はどんなプレーを見せてくれるだろうか。

ところで、今回の公式アプリがすごいらしい。僕は孤高のガラケー野郎なのでよく分からないが、スマホで「2017冬季アジア札幌大会公式アプリ」というのをダウンロードすると、「ストーン速報」というのが閲覧できて、ライブはもちろんアーカイブまで確認できる。もはやネコ型ロボット的に迫る便利さだ。ぜひチェックしてみてください。カタールチームの奮闘の軌跡を追えます。

スポーツライター

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。 カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

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