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油断せず、着々とワクチンパスの準備を

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(提供:ideyuu1244/イメージマート)

さて、最後まで残っていた東京圏域の営業制限も解除されるようです。以下、日経新聞からの転載。

・東京都、飲食店の時短要請解除を決定 25日から

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC2167P0R21C21A0000000/

東京都における新型コロナによる入院者数も266と(10月23日時点)病床使用率が4%にまで低減し、一時の混乱が嘘のように引いた状況。これもひとえに、ワクチン接種完了率が68.6%(10月22日時点)と、世界でも最高レベルに達したおかげであります。

ということで政府はGoToキャンペーンの実施計画など、やっとコロナ禍でダメージを受けた産業側の回復施策の検討に着手を始めたわけですが、一方で現在のようないわゆる「平和」な状況がこの先も続くと考えて、油断するべきではないと思います。

日本に先駆けてワクチン接種が進んだ欧米圏の先進諸国では既に再びの感染拡大が始まっています。以下、毎日新聞からの転載。

・イギリスでコロナ再拡大 1日当たり5万人超、再規制の要求強まる

https://mainichi.jp/articles/20211022/k00/00m/030/032000c

ワクチン接種で先行した欧米諸国で再び感染拡大が進んでいる原因は、感染力の強いウィルスの新株が登場したということと合わせて、初期にワクチン接種をした人達の免疫効果が落ちてきていることにあります。世界で最もワクチン接種の開始が早かった国のひとつであるイギリスは、昨年の12月の冒頭には高齢者の接種開始をしていますから、それから数えるともうすぐ1年が経とうとしています。ワクチンにはそれぞれのメーカーによって免疫効果の持続期間に差があるとは言われていますが、おおよそ6ヶ月から8ヶ月程度の間にその効果が大きく減退すると報じられていますから、要はイギリスにおいては初期にワクチン接種をした方々の免疫効果が既に薄れ始めているわけですね。以下、WoW!Koreaからの転載。

・ファイザー・モデルナ、接種から6か月後に免疫反応が急激に減少=韓国報道

https://news.yahoo.co.jp/articles/47d6923219db1dd9d1fb0f4611c4e4fef1d07652

我が国の場合は、菅政権の獅子奮迅の活躍もあって、初動は遅れたものの短期間において一気に国民のワクチン接種が進みました。そのおかげもあって、ワクチン接種がこの8ヶ月ほどの間に一気に全国民の7割近くまで達したわけで、今はまだ多くのワクチン接種を完了した国民の間で免疫効果が高く保たれている段階にあるといえる。逆に言えば、同時期に摂取されたワクチンの効果は同時期に一気に効力を失い始めるわけで、論理的に考えれば短期に接種率を高めた日本は、その他の欧米圏よりも感染拡大の再発生のペースが早くなるリスクが高いと言えます。

即ち、現在の状況に油断してはならず、感染再拡大の可能性にもシッカリと目配りして置かなければならない、と。

昨年7月、感染拡大の第一波が終わったあと、政府は各種GoToキャンペーン施策を次々と打ち出し、その需要の受け手となった各レジャー産業は、つかの間の好景気にわきました。かの時の状況はもはや「狂乱」といっても良い状況で、各業者が刹那的に発生した需要を競って獲得に走りました。

勿論、産業人として需要の獲得に走ることには全く問題はないのですが、残念だったことは短視眼的に刹那の需要を獲得するために、一方で必要であった感染再拡大への目配りが完全にすっ飛んでいってしまったこと。その結果、各レジャー産業は長い冬の時代に突入することになったのは、皆様もご承知のとおりであります。

そしてやっと感染拡大期を終えた今、政府は再びGoToキャンペーンを始め、産業の底上げ策の実施に向けて準備を始めたわけですが、先に犯した失敗を我々は二度と繰り返してはならない。勿論、ワクチンには感染防止効果と共に重症化防止効果がありますから、我々が数ヶ月前に体験した最悪の状況の頃にまで後退することはない(と思いたい)ですが、一方で先述の通り短期で一気にワクチン接種を完了した我が国では、諸外国と比べると短期間で一気にその効果の減退が始まる可能性が高い。即ち、我が国は欧米圏と比べて感染再拡大に対する脆弱性が高いわけですから、彼ら以上に感染再拡大に向けた準備を今から仕込んでおく必要があると言えるわけです。

そして、今後のワクチン接種効果の減退期に向けた唯一の対抗策が、ワクチンパスポートの導入です。国民のワクチン接種状況をトラッキングし、継続的にワクチンを打って頂く。また、感染再拡大の途にあっても産業界すべてを一斉に営業停止させる必要のない状況を作るためには、ワクチンによる免疫効果の落ちた人(もしくはそもそも受けてない人)と、それ以外の人を峻別し、免疫効果の高い人だけでも最低限経済活動を行うことができる環境を作ることが必要。これらを実現するためには、ワクチンパスポートの導入以外の現実的な手段がないわけであります。

ということで、総選挙目前なのもあってGoToキャンペーンも含むバラマキ系の施策ばかりが前面に打ち出されがちな時期ではありますが、一方で着実に感染再拡大に向けたリスク管理をして頂きたい。そして、各レジャー産業も以前のような刹那の需要拡大に踊るだけでなく、中長期的な視点を持ちながらワクチンパスポートの導入を継続的に強く訴えていって頂きたいと思います。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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