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秋葉原ビジネスの光と影:withコロナ期の「勝ち組」業態とは?

木曽崇国際カジノ研究所・所長

【アミューズメントカジノ特集 第一回】

コロナ禍で軒並みダメージを受けているハズの秋葉原において、ひときわお客様を集める「お金をかけない」アミューズメントカジノという業態があるらしい。アミューズメントカジノ特集 第一回では、そんな噂を聞きつけた「カジノと夜遊びの研究者」である筆者・木曽崇が、アミューズメントカジノの「儲けの秘密」に迫ります。

木曽:

本日はコロナ禍における秋葉原の現状をうかがうべく、ゲストをお招きして対談形式でお送りしたいと思います。秋葉原を中心に、コンセプトカフェ/アミューズメントカジノ店を複数展開していますハンターサイト株式会社の藪内社長です。まずは自己紹介からどうぞ。

藪内:

こんにちは、ハンターサイト株式会社代表の藪内です。「クイーンズコート」を中心にコンセプトカフェを8軒経営しているほか、「メイドカジノ・アキバギルド」を中心にアミューズメントカジノ店を10軒運営しています。ポーカートーナメントではJAPAN OPENやWPT JAPAN、フィリピンのオカダマニラではマニラオープン、韓国のパラダイスシティではコリアオープンを開催しています。

【秋葉原のコンカフェ&アミューズメントカジノ事業の現状】

木曽:早速、秋葉原におけるコロナ禍の影響を伺ってゆきたいと思います。今年冒頭から発令された緊急事態宣言の影響もあって、パチンコや各種ライブイベントなどのレジャー関連の業種は軒並み大きな打撃を受けていますが、コンセプトカフェを含めた秋葉原の状況は如何でしょうか?

藪内:

コロナ禍により、飲食事業であるコンセプトカフェは大きな影響を受けましたが、トレーディングカードや同人誌を扱うような他の秋葉原に多い業態と比較すると、まだ生き残っている感じがします。

コロナ禍の営業を数字で表すと、売上としては対前年同月比でマイナス15%程度の落ち込みで何とか持ち堪えているといったところでしょうか。売上の落ち込みを配信事業、運営面での効率化や行政補助などで埋めた結果、コロナ禍でも最終的には収支はなんとかプラスといった感じで営業を続けることができています。

木曽:

私のオフィスも秋葉原至近なので日常的にこの街の市況を見ていますが、コロナ禍で街全体の誘客が明らかに減っている現状で、コンカフェが他の業態と比べて経営状況が悪くない理由はどこにあるのでしょうか。

藪内:

コンセプトカフェがその他の業種に比較して影響が少なかった要因は、ビジネス様式があまり標準化されてなかった、寧ろ標準化「出来ない」業態であったからだと考えています。コンセプトカフェは、店舗で働く女の子が強力な「個性」であり「コンテンツ」です。店舗に来るお客さんは、その「個性」もしくは「コンテツ」を目的に来店するんですね。サービスを標準化し、「誰がやっても同じ」「どこに行っても同じ」な一般的なカフェ業態と違って、お客様にとっては他の店ではなく「その」コンセプトカフェに行かなければならない理由がある。結果的に、既存のお客様を中心に来客を維持することが出来ています。

木曽:

ナルホド。今回のコロナ禍で大型チェーンの居酒屋業態などは大打撃を受けていますが、名物ママがいる駅前のスナックなんかでは馴染み客を中心に意外に客足が止まってないのと一緒ですね。ハンターサイトは、いわゆる「メイドカジノ」と呼ばれる特有のアミューズメントカジノ業態を日本で最初に始めた会社として有名ですが、そちらの業態への影響はいかがですか?

薮内:

意外かもしれませんが、アミューズメントカジノは寧ろコロナ禍前よりも業績を上げています。売上としては対前年同月比で15%~30%程度増加している感じでしょうか。

木曽:

ええっ、ホントですか⁉ 世の中のレジャー業種が総崩れになっている中で、それはちょっと驚きですね。なんで、そんな事になっているのでしょう。

藪内:

コロナ禍の中でもアミューズメントカジノが好調な理由はいくつかあるんですが、突き詰めると先ほどお話した「コンテンツ力」なんだと思います。メイドカジノでは店舗で働くディーラの女の子が強力なコンテツとなり大きな集客力を持っているという点で、先ほどのコンカフェの営業がそれ程悪くないのと同じ構図があるのですが、それに加えてカジノゲームそのものにコンテツとしての強みがあるんですよ。

特にここ数年のポーカーブームが好影響を生んでいます。GACKTさんなど有名芸能人がポーカーを遊び始め、またyoutubeで活躍する世界のヨコサワさんなど、影響力のある人がソーシャルメディアを含めた各媒体でポーカーを取り上げ続けてくれていることが非常に大きいですね。他にも色々な方がポーカーを取り上げてくれた結果、これまでポーカーをプレイしたことない方々が、ゲームを始めるきっかけになっていると思います。コロナ禍が始まる前の2019年の夏頃から、アミューズメントカジノの新規来客数への影響が顕著に現れ出しました。そういう新規層の拡大がコロナ禍でも続いているのが現状です。

更に付け加えると、コロナ禍の影響で遊興費がアミューズメントカジノに流れ込んだことも要因だと思います。コロナ禍前まで飲食、カラオケや旅行等に向けられていた遊興費が、緊急事態宣言下でも行政による営業自粛要請の対象になっていなかった業態の一つであるアミューズメントカジノに流れ込んできています。また、これまで海外のカジノで遊んでいたプレイヤーも、当然海外への渡航が制限されていますので、アミューズメントカジノへと流れ込んできている。そういう複合的な影響があるのだと思います。

【アミューズメントカジノのビジネスモデル】

木曽:

私自身は元海外のカジノ事業者出身の研究者ではあるのですが、一方で日本の「お金を賭けない」アミューズメントカジノに関しては、特にそのビジネスモデルの部分をあまり理解していないところがあります。率直に伺いますが、カジノってお金を賭けさせないアミューズメント業態でも儲かるものなんですか?

藪内:

おっしゃるとおりブラックジャックやバカラなどの主要なカジノゲームは、現金で遊ばない限り、ある程度プレイすると飽きがくるゲームです。アミューズメントカジノでブラックジャックやバカラを何年も続けているプレイヤーは殆どいません(笑)

でも、ポーカーは違います。ポーカーは、プレイヤー同士で遊ぶコミュニティーゲームなので、親しい友人達とワイワイと、そしてお金を賭けないながらもプレイヤー間でのスリリングな駆け引きもあります。また、ポーカーは技術介入要素のあるスキルゲームですから、自分の技術を磨き、成長してゆく楽しみがある。そういう意味で、他のカジノゲームと比べて飽きることがないゲームなんです。

私がお店を開業した当初、ポーカーはアミューズメントカジノ利用者の2割程度でした。しかし、現在のアミューズメントカジノのプレイヤー比率は、ざっくりとポーカーが8割で残りの2割がブラックジャックやルーレット等を楽しむお客様になっています。

また、ポーカーは友人同士によるレジャーとしてのプレイから、より競技性の高いトーナメントゲームへとシフトしていけるという強みがあります。アミューズメントカジノの店舗ではプレイヤー同士が平場で遊ぶゲームの他に、広く参加者を集め、そのうちの勝者を競うトーナメントゲームも提供しています。

木曽:

ナルホド。麻雀の世界でも、お金を賭けないノーレート麻雀から競技麻雀へと、プレイヤーが移行してゆくルートがありますが、ちょうど同じ様な構図がポーカー業界にもあるということですね。興味深いです。

藪内:

ハンターサイトの運営するお店ではゆっくり遊べるポーカーのリングゲーム、1テーブル単位で勝者を決定するSit&go、複数のテーブルの中で勝者を争うマルチテーブルトーナメント、複数店舗で定期的に開催する大規模な大会その先にあるジャパンオープンのような日本最大級のイベントがあり、日本中の列強プレイヤーと対戦が出来るのです。

もっと言えば、ジャパンオープンで優秀な成績を収めれば、そこからさらに海外で開催されるトーナメント大会に出場し、今度は世界のトッププレイヤーと実力を競い合いながら、大きな賞金を勝ち取ることも出来ます。ポーカーを中心として、このような大きな競技としての「導線」を作れたこと、これがお金を賭けないアミューズメント事業でも営業が成功した要因だと思います。

【アミューズメント事業での感染症対策】

木曽:

一方で、これはやはり聞いておかなければいけない事だと思うのですが、お店の営業にあたってどのように感染症対策を行っているのでしょうか?何か特別な対策のようなものは行っているのでしょうか。

藪内:

弊社が色々なお店に呼びかけて、コンカフェおよびメイドカジノ業界を巻き込んで取り組んでいる独自の感染症対策として「#除菌ガール」というキャンペーンがあります。この取り組みでは、Twitterを活用しながら「あなたのお店の除菌ガールを紹介して下さい。amazonギフトカードが当たります」みたいな企画をやっています。ご来店頂いたお客様の手などを消毒するお店の看板娘を紹介してもらいながら、コンカフェやメイドカジノでの感染症対策をアピールしてゆく試みなんですが、今では遠く沖縄から参加してくれるお店なんかもあります。東京都や政府の取り組みに、コンセプトカフェやメイドカジノからも応えたいと言う思いがあります。

木曽:

「#除菌ガール」ですか。確かに、お店で接客をしてくれる女の子達が除菌スプレーを持って呼びかけるのなら、お客さん達は喜んで手を差し出しますよね。世の中では「べき」論で語られがちな感染症対策すらもエンターテイメント化するというのは、コンカフェならではのアプローチだなあ。ご主人様を思うメイドさんの除菌対策ですね 、秋葉原は深いなぁ。

藪内:

この取り組みは、コンカフェの強みを生かした感染症対策であると言えますが、実はコロナ禍以前から既に存在していた企画なんですよね。今でこそ、この活動は明るい話題として取り上げていますけど、もともとはもう少しネガティブなことがきっかけでスタートした取り組みと言いますか…。

そもそもコンカフェは一般の飲食店と比べるとスタッフとお客様の距離が近く、働く側の女の子もお客様側の衛生状態が気になるんですね。そこでお客様の気分を害さないよう、うまくそれをエンターテイメント化しながら除菌や消臭のお願いをやっていたというのが始まりです。そのような活動が、今回のコロナ禍に際して「#除菌ガール」という企画へと繋がり、コンカフェ独自の感染症対策として業界に広まりました。

またメイドカジノ側ではゲームでチップやカードを使いますが、それら機材は不特定多数のお客様が常に触ります。そのため、除菌メイドがテーブルを回り、ご主人さまの除菌をこまめに行っています。それ以外の感染症対策は、非常に原始的な方法ですが、扉を全開にした換気ですね。夏場は暑い中、女の子は汗だくで働いてましたし、冬場は「寒い!」というお客様の文句が飛び交う中、女の子たちも含めて必死に寒さに耐え忍びながら営業を行っていました。(笑)

【コロナ禍後のアミューズメントカジノ店】

木曽:

今回、政府は再延長されていた首都圏での緊急事態宣言の解除を決定し、またその先にコロナ禍が明けた「アフターコロナ」の期間も到来するでしょう。現在、特に好調なアミューズメントカジノですが、緊急事態宣言の開けた後、そしてその先にいつか必ず来る「アフターコロナ」の時代に向けてどの様に展開してゆくのでしょうか?

藪内:

アミューズメントカジノは、コロナ禍にあって数少ない好調なレジャー業態というのもあり、実は今、新規の出店ラッシュとなっています。特に近年目立つのが大手事業者の参入です。

弊社はアミューズメントカジノの直営だけでなく他企業様からの運営受託事業も行っていますが、例えば関東を中心に複合カフェやビリヤード、ダーツバーなどを展開する大手事業者さんからの新規開業、漫画喫茶やネットカフェを拡張をしたいというお問い合わせを受けています。その様な形態も合わせると、弊社が関係しているだけでも今年は新しく6店舗ほど開業する予定、それ以外、弊社が関係していない店舗まで含めると今年だけでこれから全国で30店舗近く新規開業するはずです。

この様に、これまで近場に遊ぶ場所がなかったお客様の地元に、新しくアミューズメントカジノが広がることで、この先、プレイヤーの裾野が拡大してゆきます。その様に生じた草の根レベルのプレイヤーの繋がりが、競技ポーカーの日本一を決めるような大きな大会に繋がってゆくことで業界全体が縦軸/横軸の両方に向かって海外まで広がってゆく。それがこれから先のアミューズメントカジノ業界の展望であり、業界はまだまだ発展してゆく余地があると思っています。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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