Yahoo!ニュース

政府、カジノ整備方針の公表を先送り

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:ロイター/アフロ)

以下、時事通信が報じております。

政府、カジノ基本方針の公表先送り=来年にも、参院選考慮か

https://www.jiji.com/jc/article?k=2019052200539&g=eco

カジノを含む統合型リゾート(IR)の整備に当たっての基本方針について、政府が夏の参院選以降に公表を先送りする方針を固めたことが22日、分かった。複数の政府関係者が明らかにした。カジノ開業には国民の不安も根強く、参院選への影響を考慮したとみられる。政府高官は「来年」と述べ、公表が大幅にずれ込むとの見方を示した。

ここ数週間、業界内では「どうやら遅れるらしいよ」という話が広まっておりましたが、いよいよ正式に見送りとなるようです。

記事では「参院選への影響を考慮」とありますが、この夏に行われる参院選を考慮したとしても公表が「来年」になる理由はあまりないわけで背景にはもう一つの事情があることが伺えます。というのは、そもそもこんなに急いで「今夏に発表」と言い続けてきたのは、大阪が主張している「2025年大阪万博までにIRの開業」を念頭においてスケジュールが引かれていたからであって、今回、その公表の見送りを決定したという事は政府はIRの万博までの開業については「諦めた」と捉えるべきでしょう。

そして、万博まで開業に拘らないのであれば、基本方針の発表自体を急ぐ必要もない。基本方針そのものへのパブコメの実施など様々なプロセスもありますから、十分時間を取った後、来年の然るべきタイミングでそれを発表するというのは非常に納得ゆくスケジュールです。

そして、今回の先送り決断は、これから先の展開に対していくつかの影響を与えます。

1. 大阪メトロの延伸予算問題

大阪がIRの万博前開業に拘っていた最大の理由が、大阪メトロの延伸予算の問題です。2025年の大阪万博の開催に向けて大阪市が100%の株式を保有する公営企業である大阪メトロは、万博の会場となる夢洲への地下鉄の延伸を計画しています。その予算はおよそ540億円、現在までの計画では大阪市はこのコスト負担のうちおよそ202億円を、万博会場の隣接地でIR開業を行うカジノ事業者に負わせるとしてきました。

しかし今回、IRの開業は少なくとも万博の後になりそうなスケジュール変更があったわけで、そのスケジュールの遅れ方次第では、大阪メトロ延伸工事の予算に関して少なくとも何らかの「つなぎ」予算が必要となるかもしれない状況になります。現在、2025年の万博会場となる夢洲まではバス以外の公共交通手段がなく、地下鉄延伸は不可欠なもの。予算の穴を埋めるべきなのは大阪なのか、政府なのか。この辺りは今後、密に論議が必要となるでしょう。

2. 未だ水面下でIR導入検討をしている自治体

当初目標とされていた今夏の整備方針の発表だとその後のスケジュールの進行から考えて、「これからIR導入を本格的に検討する」ステージにある自治体は、国の募集に準備が間に合わないのではないかという懸念がありましたが、今回、そのスケジュールが後ろ倒しになったことによってその事情が少し変わって来そうです。

特に注目が集まるのが、関東圏においてIR導入に向けた論議が常に燻っていながらも、正式検討の表明が出来てこなかった東京、横浜、千葉の3都市。

前回の首長選が2016年であった東京では、少なくとも来年の夏までには現在の都知事の任期が終わり改選選挙が行われます。そうなると東京IR導入は完全に次期都知事選の争点となりますから、現職、小池知事がIR導入検討に向けてどの様な方針を立てるのかに注目が集まります。

また千葉と横浜は、それぞれ前回の首長選が2017年であり、ともに2021年の改選となります。先送りされたIR整備区域の選定スケジュールだと、来年に整備方針が発表された後のスケジュールが選挙期にギリギリ絡んでくる可能性が出てきています。現千葉市長の熊谷市長は前回選挙において「IR検討」を公約に掲げて勝利していますから、おそらく今の方針のまま粛々と検討自体は進めるのでしょう。

一方で問題となるのが横浜市の動向。横浜の林文子市長は、前回市長選でそれまで掲げていたIR検討方針を「白紙撤回」をしたまま現在に至っています。同時に横浜では、横浜財界の「一部」がIR導入構想に強く反対の意を示し始めており、今までの共産系の特定団体が反対運動を展開していた時とは、かなり大きく様相が変化してきています。前回選挙でも高齢問題が囁かれた林氏がもう一度次期選挙に立つのか。はたまたご自身の市政方針を引き継ぐ、後継候補を立てるのかを含めて、今後の動向に注目が集まります。

3. 各企業の動向

そして最後が、日本でのIR開発権の取得を目指す各民間企業の動向です。大阪が「2025年までに開業」を謳って先行していた状況下において、いくつかの企業は既に「大阪に全力でコミットする」という宣言を挙げている状況ではありましたが、今回、政府側のスケジュールが後ろ倒しになったことで競争の様相がかなり変わって来ます。

勿論、万博開催(というか地下鉄延伸)との絡みがあり大阪構想の優位は変わりませんが、大阪がスケジュール的に先行していた分のアドバンテージに関しては、他の地域との差が縮まってくることは確実。特にこれから関東圏の主要都市でIR導入検討が本格的に進んでくる中で、「大阪シフト」を敷いていた各企業もこれまでのシフトの見直しを考えはじめることでしょう。それによって、水面下で論議が進んでいた様々な企業間交渉なども様相が変わってくるものと思われます。

いずれにしても、今回の整備計画発表の先送り方針は日本のIR整備の今後の進捗において非常に大きな決断。引き続きその動向を見守ってゆきたいと思います。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

木曽崇の最近の記事