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首都圏イベント会場問題における日本展示会協会の無責任さ

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(ペイレスイメージズ/アフロ)

さて、日本展示会協会がまた寝言を言い始めたようなので記事を書きます。以下、日経新聞からの転載。

五輪で展示場不足、解消できず「商談・PRどこで」

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42634350Z10C19A3CC1000/

「展示会が例年と同規模で開催できるよう、強く要望する」。イベント運営会社などでつくる日本展示会協会(東京)は五輪が迫る中、こんな訴えへの賛同者を募っている。1月中旬時点で15万筆の署名が集まった。

同協会によると、ビッグサイトの利用制限で200以上の展示会が中止や会場変更を迫られ、8万社以上に影響が出る可能性がある。代替施設の確保などは極めて難しい情勢だが、担当者は「利用制限の期間を短くできないか求めていきたい」と話す。ビッグサイト所有者の東京都や政府へ、引き続き陳情していくという。

2020年の東京オリンピック開催に伴い首都圏の多くの大規模イベント会場が民間利用できなくなるという、いわゆるイベント会場問題に際して、日本の展示会業者が組織する日本展示会協会が「首都圏に代替施設を建設しろ」と無理な要求を主張し、また「このままでは展示会業界が死滅する」だのと遠回しに業界に対する行政補償を求めたりと、色々な政治活動を行っているわけです。

勿論、オリンピックの開催に伴って会場利用が出来なくなる各業者の方々に対しては非常に可哀そうだなとも思うわけですが、一方でこの主張をよりによって日本展示会協会が大々的に主張することには、正直この業界に長らく関与して来ている人間にとっては大きな違和感というか、むしろ不快感しかないのが実態であります。

この日本展示会協会、勿論、日本の展示会業者の集まる業界団体であるわけですが、実は全国の各自治体に出張っては、各自治体に対して「大型展示場を建設せよ」と迫ってきたいわゆる業界ロビー団体でありまして、この団体がこれまで行ってきたロビーは驚くほど沢山情報が残っています。例えば:

●京都:

石積会長が参考人として出席 京都府議会が 会場建設を検討 山田知事も 強い関心

https://www.nittenkyo.ne.jp/article/15231068.html

京都は日本を代表する観光地。日本中、世界中の参加者にとって魅力がある都市であるため、展示会都市としても大成功することは確実。しかし、大規模な会場が無い限り、それは不可能だ。

●群馬:

「群馬県議会 社会基盤づくり特別委員会 勉強会」 にて石積会長が講演

https://www.nittenkyo.ne.jp/article/15043818.html

石積会長は「中途半端は良くない。群馬の活性化のためには、大規模な展示会場を造り、大規模な展示会を数多く開催することに全力を尽くすべきだ」と主張

●名古屋:

東京ビッグサイト、パシフィコ横浜 の拡張に続き名古屋が 10万平米の会場建設へ

https://www.reedexpo.co.jp/RXJP/RXJP_ReedExpo_V2/documents/release/120926_newsrelease.pdf?v=635782529405441804

名古屋のビッグニュースに日本で最も喜んだ一人は、間違いなく石積であろう。というのは、このニュースリリースの読者80万人(国会議員・官僚をはじめとする政治・行政関係者、経済界の方々、展示会産業関係者、出展企業、来場者、マスコミ…等)の多くが知っている通り、石積は展示会産業の拡大と発展を最も強く願い、あらゆる活動を全力で行ってきた一人だからだ[…]

石積は、このビッグニュースを聞いて次のように感慨を漏らした。「ようやく、遂に、日本でも10万平米の会場ができそうで、うれしい。また、私の活動が少しでも役に立ったと思うと、感動を覚える。10平米人の新会場が実現すれば、日本中の多くの主催者は、名古屋でもっと巨大な展示会を次々と開催するようになるはずだ

●沖縄:

日展協 石積会長が、翁長(おなが)知事に提言 まずは、5万平米の会場建設を!

https://www.nittenkyo.ne.jp/article/15219687.html

巨大な生産地や消費地でなくても、展示会都市になることが可能(例:アメリカのラスベガス)。沖縄は中国、韓国、台湾や東南アジア諸国から地理的に近く、しかも観光・リゾート地として有名。したがって展示会都市として発展できる優位性がある。沖縄が大発展を遂げるためには、経済インパクトが大きい大規模展示会を数多く開催する 「展示会都市」 を目指すべきだ

この日展協 石積会長の決まり文句は「(展示会場の)供給が需要を作るのだ」でありまして、この団体の口車に乗せられて巨額の税金を投じて全国に大型イベント会場が建設され、一方で低稼働で赤字を垂れ流している。その状況を誘引している張本人が、この日本展示会協会、そしてその代表者たる石積会長なのであります。

…で、その日本展示会協会が今回の東京オリンピック開催に伴う首都圏のイベント会場問題に際して何を言い出したかというと、今までの己達の活動を真っ向から否定するような主張でありまして、例えばこんな事を言い出すワケです。

2020年 オリンピック 展示会場問題 展示会関連 3団体が 記者会見

https://www.nittenkyo.ne.jp/article/15593621.html

石積会長

次善の策として、東京で展示会を開催できないならば大阪や名古屋はどうか、とよく聞かれますが、主催者が地方開催を決断しても、出展社は容易に地方へ移動できません。まして、来場者は集まるのか見通せず、やはり簡単な問題ではないと認識しています。

関係者一同はこの発言を見て、一斉にひっくり返るワケですよ。貴方、全国に出張って行っては

・「京都は日本を代表する観光地。日本中、世界中の参加者にとって魅力がある都市であるため、展示会都市としても大成功することは確実」だの

・「巨大な生産地や消費地でなくても、展示会都市になることが可能。沖縄は中国、韓国、台湾や東南アジア諸国から地理的に近く、しかも観光・リゾート地として有名。したがって展示会都市として発展できる優位性がある。」だの

だのと散々吹き込んでおいて、いざ首都圏のイベント会場が不足して全国での分散開催が求められる状況になったら「容易に地方へ移動できません」などと梯子外しに行くのかよ。今こそ、貴方達が主張していた通り、全国の現在は閑古鳥が鳴いてる巨大イベント会場に各展示会の分散開催を推し進める時だろ。もし、貴方達がここで梯子を外してしまったら、全国で巨額の税金を投じてイベント会場を建設してしまった自治体の立場はどうなるんだ?そこに投じられた税金は誰が払ってると思ってんだ?と。

ということで今後二度と、全国自治体はこの日本展示会協会の口車に乗せられて使いもしない巨大イベント会場を作るのは辞めましょう。この人達、常にご都合主義で主張しているだけで、一切その発言の責任は採らないタイプの人達ですよ。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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