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2017衆院選公約:観光施策比較

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

さて、開幕前から乱戦状態になっている衆院選でありますが、いよいよ正式な公示に至りました。本日は選挙時恒例の、各主要政党における政策比較。私の専門範疇である観光政策に焦点を絞って解説を致します。以下、主要政党公約集、もしくは政策集の中から観光に関連する記述を抜粋。

自由民主党「この国を、守り抜く。」

https://jimin.ncss.nifty.com/pdf/manifest/20171010_manifest.pdf

○外国人旅行者4000万人を目指し、地域の特色を活かした観光資源を磨き上げるとともに、受け入れ態勢を強化します。

○「IR(統合型リゾート)推進法」に基づき、様々な懸念に万全の対策を講じて、大人も子供も楽しめる安心で魅力的な「日本型IR」を創り上げます。

○航空自由化(オープンスカイ)の戦略的な推進や諸外国とのイコールフッティングを踏まえた空港使用に係るコストの見直し等を通じ、国際競争力の強化を図ります。

○テロ対策を含む空港保安体制の強化やビジネスジェット利用環境の改善、地方送客のための国内地方ネットワーク利活用の充実、計画的なLCC参入促進、空港アクセスの充実等を通じ、空港機能の整備強化を図ります。

○2025年大阪・関西万博の誘致を成功させるため、国を挙げて取り組みます。来年の開催国決定投票に向け、各国への働きかけを強力に進めます。

○外国人旅行者2020年4000万人・旅行消費額8兆円を目指し、訪日プロモーションの強化やビザ緩和、免税店の拡大や電子化等利便性の向上、空港・港湾のCIQ強化等、多様なニーズに応じた受け入れ態勢の整備・強化を図ります。

○観光庁や日本政府観光局の組織体制の拡充、受益者負担の考え方に基づき、高次元で観光政策を実行するために必要となる追加的な観光財源の確保に取り組み、観光立国実現に向けた観光基盤の拡充・強化を図ります。

○違法民泊業者・提供者の厳格な排除・取締りを行うとともに、ルールに則った民泊については、ホテル・旅館業者への適切な支援、宿泊施設の需給バランスや宿泊を通じた日本文化理解に対する様々なニーズを鑑みつつ、規制緩和やルール整備に積極的に取り組みます。

○広域観光の推進や、休暇・休祝祭日の機能的な活用、国際クルーズ拠点の形成、ジャパンレールパス等の利便性向上やICT利活用による観光地・宿泊施設の多言語対応・情報発信の強化を図り、観光産業の活性化を図ります。

○文化庁・観光庁等省庁間連携を強化するとともに、公的施設(迎賓館等)や伝統文化財等の観光資源としての戦略的利活用や景観・街並みの整備、医療・アート・産業といったニューツーリズムの進行に取り組み、国内観光資源の強化を図ります。

○わが国の恵み豊かな森里川海を守り、人と自然がともに生きる地域づくりを進め、国立公園や世界自然遺産の適切な保全、安全で快適な利用環境の整備により、観光の振興を図ります。

○2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会及び地方の観光地における外国人への対応に向けて、「言葉の壁」をなくす多言語音声翻訳の普及を図ります。

○「強く自立した沖縄」を国家戦略として位置づけ、税財政含めて沖縄振興策を総合的・積極的に推進します。特に、西普天間住宅地区の跡地利用の推進や、子供の品行対策、離党振興、観光振興、人材育成等に集中的に取り組みます。

○地方でICT/IoTを広く活用し、農業、医療、雇用、交通、防災、観光、行政等の分野におけるイノベーションを創出するとともに積極的な横展開を図り、あわせて、地方自治体のクラウド導入を強力に推進し、セキュリティの確保と行政サービスの効率化を図ります。

【筆者コメント】

政権与党の自民党は、原則的に現在政府から発表されている「観光立国推進基本計画」に沿った観光政策を公約の中に掲げており、その施策は多岐に及びます。全体的な政策方針としては「規制緩和」に向かっていますが、民泊解禁に関しては後述する希望の党や日本維新の会と比べると「やや慎重姿勢」にあると言えます。

また、自民党の観光政策の特徴の一つとなっているのが2020年オリンピック・パラリンピック開催、統合型リゾート導入、2025年万国博覧会誘致など、観光誘致の起点となる大型イベントや開発をこれから先数年に亘って配置している点。これらを主軸としながら、広域観光政策の中で地方部にその需要を還流させようとする方針が明確に見て取れます。

希望の党「日本に希望を。」

https://kibounotou.jp/pdf/policy.pdf

○民泊などシェアリングエコノミーの推進、自動運転の実現に向けた規制改革を断行する。

【筆者コメント】

希望の党の姉妹政党である都民ファーストの会が今年7月に戦った都議会選における公約では「訪都外国人旅行者数 2500 万人」という目標も含め、観光振興に関連して19の重点政策が明記されていたわけですが、驚くべきことに希望の党の今回の選挙戦における公約において観光に関連する記述は上記の「シェアリングエコノミー推進」しかありません。

また、小池都知事を代表として担ぐ希望の党としては、最も「武器」となるであろう2020年オリンピック・パラリンピックに関連しても「東京オリンピック・パラリンピックを契機とし、ユニバーサルデザイン、バリアフリーを徹底した都市づくりを推進する」とする記述しかなく、それを活用した観光振興政策への言及はありません。今回選挙において、希望の党はあまり観光政策に関して力を入れていない様子が見て取れます。

公明党「教育負担の軽減へ。」

https://www.komei.or.jp/campaign/shuin2017/manifesto/manifesto2017.pdf

○地方創生、地域活性化(農業の発展、観光の振興)

国内外の観光需要の創出や農林水産業の成長産業化などを通じた内需拡大と、地方大学の活用、産学官連携による産業振興など地方創生の取り組みを連動させ、地域資源を生かした経済の活性化、地域雇用の創出に取り組みます。

○東北観光の復興

「観光先進地・東北」の実現に向けて、東北の魅力、潜在力、活力を大きく引き出す観光復興施策を強力に後押しし、地方創生のモデルケースとなるような「新しい東北」を創造していきます。

○観光産業を「地方創生」の切り札、成長戦略の柱として、わが国の基幹産業と位置づけ、「インバウンド」と「国内観光」の両輪による観光振興を図ります。具体的には、2020年「訪日外国人旅行者数4000万人」「訪日外国人旅行消費額8兆円」「日本人国内旅行消費額21兆円」の目標達成をめざします。

○新たな国土形成計画である「広域地方計画」の着実な実行により、国内外の旅行者を全国各地に分散・消費を拡大させ、交流人口を増やすとともに世界水準のDMOの形成・育成など「地域の稼ぐ力」を高める地方創生を図り、質の高い観光立国を実現します。

○ICTを活用した「訪日プロモーション」を強力に推進するとともに1)戦略的なビザ緩和、2)革新的な出入国審査などのCIQ体制の整備、3)免税制度の拡充、4)LCC等の就航促進や航空ネットワーク拡大、5)クルーズ船の受入環境整備、6)宿泊施設や公衆無線LAN─など総合的な観光インフラの整備を促進します。また、高い資質の通訳案内士の確保とともに全国における有償ガイド行為の普及・促進を図り、訪日外国人旅行者がストレスフリーで快適な観光を満喫できるように環境を整備します。

○日本の文化財の活用への戦略的投資などを推進するとともに、伝統芸能・演劇・スポーツ等、夜間も含めて楽しめ、また、外国語でも参観できるエンタテインメントの充実を図ります。国立公園を世界水準の「ナショナルパーク」としてブランド化することをめざし「国立公園満喫プロジェクト」を着実に推進します。

○国内観光の活性化のために、観光地の再生・活性化に取り組むとともに、キッズウィーク制度の導入に合わせて、有給休暇取得率の向上や、休暇取得の分散化など家族が休暇を取りやすい環境を整備します。制度の導入による「休み方改革」を推進し、日本人の観光需要を喚起します。また、高速道路の割引料金の見直しや、日本人向け鉄道フリーパスなど新たな国内観光の効果的な需要喚起策も検討します。

○2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「2020東京大会」という)の開催を契機に、国民の健康維持・増進の観点も含め、スポーツの振興やスポーツ産業の活性化による「スポーツ立国・日本」を構築します。また、スポーツ産業の活性化・競争力強化を図るため、スポーツと観光、テクノロジー等の他産業との融合などの支援策を講じます。

○特定有人国境離島地域の地域社会の維持、活性化に取り組みます。特に航路・航空路運賃の低廉化、物資の費用負担の軽減、雇用機会の拡充、滞在型観光の促進等を支援します。

○「観光先進地・東北」の実現に向けた観光復興施策を強力に推進するとともに、新産業の創出などを通じて、東北の魅力、潜在力、活力を大きく引き出し、地方創生のモデルケースとなるような「新しい東北」を創造します。

【筆者コメント】

与党の一角として現政権を担っている公明党は、自民党と同様に「観光立国推進基本計画」に沿った重厚な公約を政策集の中であげています。自民党との公約上の違いは、自民党が比較的国際観光の振興に重点を置いた公約の作りとなっているのに対して、公明党は地域振興の軸として観光振興政策を打ち出すという独自カラーを見せている点です。

一方、既に開催の決定している2020年のオリンピック・パラリンピックには言及しているものの、自民党が同様に押している統合型リゾート導入や2025年万博誘致などに関しては言及は行われていません。

立憲民主党「まっとうな政治。」

http://cdp-japan.jp/teaser/pdf/pamphlet.pdf

○ギャンブル依存症に対する膨大な社会コストを生じさせ、マネーロンダリングの温床となり治安を悪化させるカジノ解禁に反対

【筆者コメント】

立憲民主党の公約の中で観光に関連して唯一見て取れるのが、自民党が「推進」を明記した統合型リゾート導入に関して「反対」との記述のみとなります。実は今回選挙で示されている立憲民主党の公約は、観光振興政策はもとより経済政策や産業政策に関する記述が殆どないのが実態。立憲民主党は、結党直後であり未だ観光政策に関する政策方針が纏まっていない、もしくはそれらに興味がない様が見て取れます。

日本共産党「力あわせ、未来をひらく。」

http://www.jcp.or.jp/2017senkyo/digest.php

○カジノ導入に反対します。刑法で犯罪として禁止されてきた賭博行為の解禁は許さない。地域に貢献せず、ギャンブル依存症を増やすだけのカジノ導入に反対する。

○農林漁業の「6次産業化」はあくまで農林漁業者主体に――地域の資源を生かした加工や販売に力を入れることも、農林水産物の需要を拡大し、地域の雇用を増やし、農漁家の所得を増やすうえで重要です。農家や協同組織による農産物の直売、加工、観光、農家レストランなどの取り組み、福祉施設などとの共同を積極的に支援します。農業の「6次産業化」はあくまで農業者主体を貫き、連携する企業も可能な限り地場企業を重視します。

○政府の「明日の日本を支える観光ビジョン」において「国立公園満喫プロジェクト」として、2020年までに外国人国立公園利用者数を年間1000万人に倍増させる計画が進められています。これは、全国8箇所の国立公園を中心に裕福層をターゲットにしたホテル・カフェ等の整備、遊歩道・ビジターセンターなどの整備を進めるとしています。しかし、かつてのリゾート法での乱開発や「緑のダイヤモンド計画」での過大整備についての反省もないまま、外国人利用者の倍増だけを目標にした施設整備は自然の破壊になるおそれがあります。環境保全と両立した事業への転換を求めます。

○リニア中央新幹線の工事をやめ、建設計画の是非について検証し、中止を含め見直します。

○利用者のいのち・安全を脅かすライドシェア導入など規制緩和に反対します。

○首都圏空港の更なる増便・拡張ありきを改め、空の安全、住民の生活環境を優先し、一極集中の是正を。

○住民・地域を置き去りにする「民泊」解禁、大規模開発をすすめる安倍政権の訪日外国人客誘致・観光政策―観光は、大企業の利益を優先する成長戦略でなく、住民・地域、観光客を優先する政策へ転換します。

○「住んでよし、訪れてよし」の理念にそった観光政策を。

○住民・地域置き去りの「民泊」解禁(に反対)。

○どの地域であれ、カジノ導入・設置に反対します。

【筆者コメント】

カジノ、リニア、高速道路敷設、民泊、ライドシェア、国立公園の観光利用…と、日本共産党の政策集の体裁は現在与党が進めている政策に対する問題点を指摘した上で、それらに反対であるとの主張を述べるという構成をとっています。なので、その多くが自己の政策を主体的にアピールするものではないのですが、唯一見られる独自の積極施策が「農業六次産業化による農産物の直売、加工、観光、農家レストランなどの取り組み支援」あたりでしょうか。

また、グローバリゼーションに反対する党としての一貫した姿勢から、その他の多くの政党が推進のスタンスを取っている国際観光に関しては、総じてネガティブな姿勢をとっていることが特徴です。

日本維新の会「消費増税 凍結!身を切る改革で教育無償化。」

https://o-ishin.jp/election/shuin2017/common/pdf/manifest.pdf

○観光インフラ(空港、都市型民泊等)の拡充。

○2025年国際万国博覧会の大阪誘致。

○シンガポール型の統合リゾート(IR)を実現するための法制度を整備する。

○2020年東京オリンピックに向けて全国で空き家や空き部屋を活用し、ホテルにかわる都市型「民泊」を可能にする規制改革を行う。近隣とのトラブル対策は行いつつ、一層の規制緩和。

○2025年国際万国博覧会の大阪誘致、リニア中央新幹線の大阪同時開業等により、双曲型さらには多極型の経済成長を実現する。

○地方空港の「選択と集中」。国際ハブ空港の機能を強化し、空港民営化を推進する。

【筆者コメント】

国政政党であるとはいえ、大阪を自党の票田としている日本維新の会はリニアや万博誘致、統合型リゾート導入など大阪に関連する公約が目立つのが特徴です。また「都市型民泊」「地方空港の選択と集中」「シンガポール型の統合リゾート」など、その観光施策が都市部を前提としたものに偏っているのがもう一つの特徴。日本維新の会の観光政策は都市競争力の強化に主眼があり、大都市以外の地方部における観光振興にはあまり興味がない様が公約の全体の建て付けから見て取れます。

…ということで、以上が観光施策の側面から見た2017年衆院選の各党公約のご紹介です。今回、私はあくまで己の専門の範囲である観光に関連する公約のみのご紹介にとどめていますが、是非、公約の他の部分に関しては他分野の専門の皆様に同様の分析をご披露頂ければ幸いです。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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