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自浄力なきプロ野球界:賭博行為の蔓延

木曽崇国際カジノ研究所・所長

もうダメですね、プロ野球界。以下、産経新聞より転載。

野球賭博 高木投手、手を染めたきっかけは笠原元投手 球団の事情聴取にも「名前貸しただけ」と口裏合わせも

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160308-00000579-san-soci

プロ野球巨人の現役選手が野球賭博に関与していた問題で、新たに関与が発覚した高木京介投手(26)は、巨人から契約を解除された笠原将生元投手に持ちかけられて賭博を始めており、球団から事情を聴かれた場合にも虚偽の説明をするように口裏合わせをしていた。

昨年11月に発表した内部調査結果にて、笠原・福田・松本以外には「有害行為に係わっていると認められるような確度の高い具体的情報は得られなかった」として、上記三名のみへの失格処分で「幕引き」を行ったプロ野球界。しかし、その調査において出てこなかった新たな巨人軍所属選手の野球賭博への関与が今更ながらに発覚し、内部調査そのものの信頼性が疑われてしまう結果となりました。

そもそも、先週、当ブログのエントリで言及した「練習中のノックでエラーした人間が、同じ組の選手に1万円を払う」などというルールの下で行われる「ヘビ万」なる賭博行為を、球団側が「賭博行為とは性質が異なる」などとして処分対象外としていた事自体が明らかな認識不足。

【参考】読売巨人軍で「ヘビ万」なる新たなる野球賭博の発覚

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/9190648.html

大変申し訳ないが、この行為に対して巨人軍が申し開きをしているような「賭博ではなくあくまで罰金制」などという言い逃れが成り立つのならば、私は明日から「倒せなかったピンの数だけ同じ組の人に1万円の罰金を支払う」というルールの「罰金制ボーリング場」を経営します。おそらくメチャ儲かると思いますが、当たり前のようにこれは明らかな賭博行為であり、あっという間に警察に踏み込まれます。読売巨人軍の皆様には「刑法賭博罪を舐めんな」と申し上げたい。

いずれにせよ、組織としての球団自体がこのように圧倒的に賭博に対する認識が不足している状況下で、どんな「調査」を繰り返し実施したところで、到底信頼に足るような結果は出てこないでしょう。

これは昨年の問題発覚時にも申し上げたことでもありますが、同じプロスポーツである大相撲やJリーグ、はたまたプロではない高校野球の世界ですら、不祥事が起こった時には選手個人への制裁だけではなく、チーム全体、さらには業界全体の問題としてより厳粛な姿勢での対処が行われているワケで、プロ野球界の皆様は口先では「問題を真摯に受け止め」などとは繰り返してきたものの、実際のところは認識が余りにも甘すぎたのだという事を自覚した上で、この問題に対する対処を改めて考えて欲しいと思います。

以下、以前書いたエントリの中から、各業界が不祥事にどのように対応してきたのかを改めて記載しますので、ご参照ください。

野球賭博問題:「巨人に制裁金1000万」の大アマ裁決

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/9075149.html

1. 2011年、大相撲の春場所&地方巡業中止

未だ記憶に新しい2011年に発生した相撲界を舞台とした違法賭博問題。この時も問題の中心となったのは野球賭博であり、最終的には大関・琴光喜を初めとして約20人の力士に対して解雇処分を含む制裁が行われました。

また、協会そのものの管理責任を問う世論に押され、当時の相撲協会は2011年の春場所の開催と同年の地方巡業の中止を決定しました。さらに、その後の夏場所においては、「技量審査場所」として観客に無料開放した上で、メディアでの放送を自粛しています。

2. 2014年、Jリーグの無観客試合

2014年3月に行われた「浦和レッズvs鳥栖サガン」の試合において、一部サポーターが「JAPANESE ONLY」という人種差別的メッセージの書かれた横断幕を掲げた問題。本問題は法的問題というよりは倫理上の問題であり、またあくまでサポーターが起こしたものであったわけですが、長年にわたって人種差別撤廃のキャンペーンを行ってきたサッカー界では、これが非常に問題視されました。

当時のJリーグは問題発生直後にコミッショナーによる会見を行い、浦和レッズに対する制裁措置としてJリーグ史上初めてとなる無観客試合の実施を言い渡します。結果、同月23日に行われた「vs清水エスパルス戦」はスタンドに一切サポーターが居ない形でTV中継だけが放送されるなど、異例の事態に発展しました。

3. 2005年、明徳義塾高校の甲子園出場辞退

最後にご紹介するのは、2005年の明徳義塾高校の甲子園出場辞退です。当時、すでに地方予選を勝ち抜き、甲子園出場を決めていた明徳義塾高校でしたが、直後に野球部内でのイジメと暴力事件が判明。同時に、11人の部員による野球部寮内での喫煙が発覚しました。

報道によると、喫煙を行った11人の中にレギュラーメンバーは居なかったとされていますが、この問題を重く見た学校側は高野連に対して既に決定していた甲子園本選の出場辞退を申し入れます。結果的に、同年の高知県代表としては、地方予選で準優勝していた高知高校が繰り上げ出場することとなりました。

ということで他のプロスポーツ界では、様々な問題に対して試合中止や無観客試合の実施などかなり厳しい制裁措置が行われているワケですが、対する読売巨人軍は本問題の発覚直後に行われたドラフト会議すらも「有望な新人選手を獲得できる唯一の機会」として参加を強行し、NPBから課された制裁もたったの1000万円。。

1000万なんてのは解雇された3選手の合計年俸の三分の一にも満たない金額であり、そもそも巨人軍を子会社として抱える読売新聞グループ(2014年の連結売上6,732億円)にとっては「屁のツッパリ」にもならんでしょう。

同じ野球界においては高校生ですら、不祥事を起こすとチーム全体が連帯責任を負って一生に幾度とない甲子園出場の機会を失うなど厳しい処分を受けるワケですが、全国の野球少年達の「鑑」となるべきプロ野球選手の起こした不祥事が、この程度の制裁措置で「幕引き」となるという状況が、社会的に許容され得るのでしょうかね。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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