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野球賭博問題:「巨人に制裁金1000万」の大アマ裁決

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:Masato Ishibashi/アフロ)

NPBは読売グループに何か弱みでも握られているのでしょうか?以下、朝日新聞より転載。

賭博の巨人3投手、無期失格処分 巨人に制裁金 NPB

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151110-00000050-asahi-soci

プロ野球巨人の福田聡志(32)、笠原将生(しょうき)(24)、松本竜也(22)の3投手が野球賭博などをしていた問題で、プロ野球の熊崎勝彦コミッショナーは10日、3人を無期の失格処分とする裁決を下した。コミッショナーが野球賭博など有害行為について失格処分を下すのは、1969年に発覚した「黒い霧事件」といわれる八百長事件以来。

コミッショナーは巨人に対しても管理監督上の責任は重いとして、制裁金1千万円を科した。裁決を受け巨人は同日、記者会見を開き、3人に契約解除(解雇相当)を伝えたことを明らかにした。

野球賭博に関わったとされる3選手に無期失格処分というのは妥当な採決だとしても、「管理監督上の責任は重い」(byコミッショナー)と球団を叱咤しているわりには、制裁金1000万円という大アマ採決に拍子抜けせざるを得ません。そもそも、別の報道では問題を起こしているのがこの三選手だけじゃないという事も判明してきているわけですよ。以下、産経新聞からの転載。

野球賭博 巨人、賭け事常態化 マージャン・トランプ・高校野球くじ

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151110-00000091-san-base

現役の3投手が野球賭博をしていた問題で巨人は9日、3人の契約を解除する方針を明らかにした。球団は報道陣へ配布した調査報告書で、選手が野球賭博に関わるようになった背景として、チーム内での賭けマージャン、賭けトランプなどが常態化していた状況を挙げた。

賭けマージャンは主に試合のない日の練習後、約10人が雀荘などで行っていた。野球賭博をしていた3人の独自ルールで行われるとトップは1万円以上を手にしていた。

賭けトランプを行っていたのは11人。2軍本拠地のジャイアンツ球場(川崎市)のロッカールームでは「大富豪」や「ポーカー」で1回1万円が賭けられていた。

夏の甲子園大会では1口5千円から1万円の参加費を募り、くじ引きで引き当てた高校の成績によって賞金も分配していた。

賭け麻雀、賭けトランプ、挙句の果てには高校野球を対象とした違法な野球くじ…しかも二軍球場のロッカールームの中で、です。

あの、私、自慢じゃないですが、日本の賭博業界の中ではそこそこ名前が知られてる研究者ですけど、その立場で申し上げます。これ、完全に球団全体における「違法賭博の蔓延」ですわ。ちゅうか、「くじ引きで引き当てた高校の成績によって賞金分配」ってなんやねん。こんなルールの賭博は僕も聞いたことないわ。研究対象として興味深いから、詳細ルール教えれ。(※あくまで研究用。野球賭博は違法です)

…で、出てきたNPBによる裁決が巨人軍の管理責任を問って制裁金1000万とのことなのですが、ここで他のスポーツ界における各種問題後の対応を見てみましょう。

1. 2011年、大相撲の春場所&地方巡業中止

未だ記憶に新しい2011年に発生した相撲界を舞台とした違法賭博問題。この時も問題の中心となったのは野球賭博であり、最終的には大関・琴光喜を初めとして約20人の力士に対して解雇処分を含む制裁が行われました。

また、協会そのものの管理責任を問う世論に押され、当時の相撲協会は2011年の春場所の開催と同年の地方巡業の中止を決定しました。さらに、その後の夏場所においては、「技量審査場所」として観客に無料開放した上で、メディアでの放送を自粛しています。

2. 2014年、Jリーグの無観客試合

2014年3月に行われた「浦和レッズvs鳥栖サガン」の試合において、一部サポーターが「JAPANESE ONLY」という人種差別的メッセージの書かれた横断幕を掲げた問題。本問題は法的問題というよりは倫理上の問題であり、またあくまでサポーターが起こしたものであったわけですが、長年にわたって人種差別撤廃のキャンペーンを行ってきたサッカー界では、これが非常に問題視されました。

当時のJリーグは問題発生直後にコミッショナーによる会見を行い、浦和レッズに対する制裁措置としてJリーグ史上初めてとなる無観客試合の実施を言い渡します。結果、同月23日に行われた「vs清水エスパルス戦」はスタンドに一切サポーターが居ない形でTV中継だけが放送されるなど、異例の事態に発展しました。

3. 2005年、明徳義塾高校の甲子園出場辞退

最後にご紹介するのは、2005年の明徳義塾高校の甲子園出場辞退です。当時、すでに地方予選を勝ち抜き、甲子園出場を決めていた明徳義塾高校でしたが、直後に野球部内でのイジメと暴力事件が判明。同時に、11人の部員による野球部寮内での喫煙が発覚しました。

報道によると、喫煙を行った11人の中にレギュラーメンバーは居なかったとされていますが、この問題を重く見た学校側は高野連に対して既に決定していた甲子園本選の出場辞退を申し入れます。結果的に、同年の高知県代表としては、地方予選で準優勝していた高知高校が繰り上げ出場することとなりました。

ということで他のプロスポーツ界では、様々な問題に対して試合中止や無観客試合の実施などかなり厳しい制裁措置が行われているワケですが、対する読売巨人軍は本問題の発覚直後に行われたドラフト会議すらも「有望な新人選手を獲得できる唯一の機会」として参加を強行し、NPBから課された制裁もたったの1000万円。。

1000万なんてのは解雇された3選手の合計年俸の三分の一にも満たない金額であり、そもそも巨人軍を子会社として抱える読売新聞グループ(2014年の連結売上6,732億円)にとっては「屁ツッパリ」にもならんでしょう。

同じ野球界においては高校生ですら、不祥事を起こすとチーム全体が連帯責任を負って一生に幾度とない甲子園出場の機会を失うなど厳しい処分を受けるワケですが、全国の野球少年達の「鑑」となるべきプロ野球選手の起こした不祥事が、この程度の制裁措置で「幕引き」となるという状況が、社会的に許容され得るのでしょうかね。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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