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カジノ法制:IR議連案に含まれる不備

木曽崇国際カジノ研究所・所長

何だか、某所でIR議連の提示する法制案を「金科玉条の如く」かかげながら、非常に未成熟かつ、間違った制度論を広めておる状況が起こっているようなので、この場を借りて改めて指摘しておきます。

IR議連においてこれまで検討が行なわれてきた我が国のカジノ合法化に際する制度案というのは、あくまで何ら法的権能を持たない議員グループの中で行なわれてきたものであって、そこから発せられている案も制度的裏づけを持たないものです。勿論、これら案はカジノ法制を立法の立場から長きにわたって研究し、その推進を行って来た団体が発する案として、一定のリスペクトの元で検討の土台とはされると思います。ただ、関連する法制との整合性など、緻密な検証はほぼ行なわれて居ない状態であって、間違いもかなり多いのはこれまでも指摘しているところ。その辺りは、現在国会にかけられているIR推進法案が可決された後に、新たに組成される行政組織の中で改めて検証および検討が行なわれるものである事はIR議連自身が表明していることでもあります。

例えば、最も象徴的というか、非常にわかりやすい間違いを一点指摘しておくと、我が国でカジノ合法化が為された際、その規制主体は現在の議連案に基づいて「内閣府の外局として設置される、立法府・行政府から独立した三条委員会と呼ばれるカジノ管理委員会となる」などとする説が、アチラコチラで広められています。しかし、これは間違いです。

【参照】 遊技産業特集(2-1)

□大阪商業大学アミューズメント産業研究所 所長・美原融氏

http://www.sankeibiz.jp/business/news/130726/bsd1307260500001-n1.htm

さらに、どこかの省庁の利権云々という仕組みに陥らないことも重要だ。基本的にカジノを規制し、監視・監督する国の機関は内閣府の外局として設置される、立法府・行政府から独立した三条委員会と呼ばれるカジノ管理委員会となる模様だ。[...]

三条委員会とは、国家行政組織法第3条に基づいて各行政官庁の外局として設置される委員会のこと。中央労働委員会(厚生労働省)とか、原子力規制委員会(環境省)とかがコレにあたり、ただの諮問機関を超え、他の府省と同等の規則制定権限までもを保有する比較的強い行政委員会の形です。

ただ、ここで間違っているのは「内閣府の外局として…」という部分。実は内閣府は、我が国の行政機構の中で(建前として)他の省庁よりも格上ということになっており、法律上、国家行政組織法の適用は受けません。内閣府の外局として類似する何らかの行政委員会を作るのならば、別法となる内閣府設置法49条・64条に基づく行政組織の組成となるものであり、公正取引委員会、もしくは 国家公安委員会と同じ枠組みでの組成となります。

ところが業界内外では未だカジノの統制組織は「内閣府に設置される三条委員会」などという間違った論を未だ広く流布している人間もおり、それこそ年明け以降に発信された情報の中でもその様な説明が未だ跋扈している状況です。ま、このようにカジノ合法化後の業界統制を担う肝心要の行政組織、そしてそれが拠って立つ論拠法すらも間違えているのが実情であって、私が繰り返し述べているように、現在のIR議連案が様々な不備を抱えているということの証左といっても良いでしょう。

ここで示した例は、議連が示している現行試案が抱えている間違いの中で最も明確且つ判りやすいものですが、私と一緒にカジノ法制の研究を進めている渡邊弁護士(三宅法律事務所/日弁連、民暴対策委員&国際刑事司法委員)との検討の中では、もっともっと重大かつ論議を必要とする点がすでに沢山指摘されています。

という事で、最後に告知となります。

IR推進法案の論点セミナー ~カジノ導入にあたっての諸論点~

超党派の「国際観光産業振興議員連盟」が2013年11月12日に総会を開き、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法案(IR推進法案)」を了承し、2013年12月5日にカジノ解禁を含めた特定複合観光施設(IR)を整備するための法案を国会に提出した。本格的な審議は年明けの通常国会になる。いよいよカジノ合法化が現実味を帯びてきた。

また、多くの自治体でカジノ誘致の検討がなされてきた。検討の程度は自治体によって様々ではあるが、構想がある程度具体化しているところは、北海道釧路市、秋田県、石川県、東京都、静岡県、大阪府、徳島県、長崎県、宮崎県、沖縄県などであろうか。他にも和歌山県ではカジノ・エンターテイメントシンポジウムを開催する等、カジノ法案に期待を寄せる自治体は多い。財政的に厳しい状況の中、特に観光産業に依存せざるを得ない自治体にとっては、新たな財源の確保に資するのは魅力的だろう。

プログラム:

【第1部】 14:00~15:00

萩生田 光一 衆議院議員(国際観光産業振興議員連盟)

-IR推進法案導入に関する背景・議論

【第2部】 15:00~15:40

木曽 崇((株)国際カジノ研究所 所長)

-海外カジノの事例紹介

【第3部】 15:50~16:30

渡邉 雅之 弁護士(弁護士法人三宅法律事務所)

-カジノに関する法的論点

【第4部】 16:30~17:00

前田 泰宏(新日本有限責任監査法人)

-カジノに関するPPP関連の論点

開催日時: 2014年1月20日(月) 14:00~17:00 (受付開始 13:15)

場所: 霞が関ビルディング33階 セミナールーム 東京都千代田区霞が関3-2-5

対象: IR推進法案にご興味をお持ちの皆様参加費(税込み): 無料

定員: 100名

詳細は下記リンク先:

http://www.shinnihon.or.jp/seminar/2014/2014-id-20140120-1.html

昨年末にも、同趣旨のセミナーをご紹介し、あちらは参加対象者を限定したものだったのですが、こちらはフルオープンのイベントとなっております。先述したように私と共同研究を続けている日弁連民暴対策委員の渡邊弁護士、そして四大監査法人の一つの新日本有限責任監査法人(もしくはErnst & Youngというべきか)の前田会計士、そして不肖・木曽崇がコラボする「弁護士×公認会計士×カジノ研究者」による共演となります。

また、これに合わせて、カジノ合法化を推進する超党派議員連盟、IR議連から萩生田光一衆議院議員(IR議連事務局長)に都知事選直前の最も忙しい最中に登壇して頂ける予定となっております。実は、このスケジュールの調整が難航していたため皆様への告知が大幅に遅れてしまっていたのですが、今年の法案審議の行く末を占う年IR議連事務局長による明け最初のカジノ談義となります。ご興味のある皆様はふるってご参加下さい。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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