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カジノ法案、今国会提出へ(ただし成立は早くて来年)

木曽崇国際カジノ研究所・所長

さて、先週一杯出張に出ていたのもあって、かなり「亀」気味の更新となりますが。。以下、産経新聞による報道からの引用。

カジノ解禁法案、今国会提出へ 成立は早くて来年 超党派議連

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/131023/stt13102319300004-n1.htm

自民、民主、公明党などの超党派議員による「国際観光産業振興議員連盟(カジノ議連)」は23日、幹事会を開き、カジノを合法化して解禁する法案を今国会に提出する方針を確認した。2020年の東京五輪開催までにカジノを中心とした統合型リゾート(IR)の整備を目指す。議連には日本維新の会、みんな、生活3党の議員も参加。11月に総会を開いて具体的な法案をまとめ、各党の了承を経て提出する。成立は早くて来年の通常国会となる見通し。

一部の方々に煽られて「すわ今年合法化か!?」などという何の根拠もない報道が続いていた我が国のカジノ論議ですが、産経新聞さんをはじめとした主要メディアがやっと正しい現状分析に基づく報道を始めてくれました。今秋の臨時国会の「短さ」と、審議を要する重要法案の顔ぶれを見比べれば、今年の臨時国会では「法案の提出」が目標であり、その審議と成立は来年以降に持ち越しというのが順当なスケジュール感となります。

いや、コレは私自身は今年の通常国会が終了した直後から客観分析の元で申し上げて来たことであって【参照】、むしろ「提出がなされるカモ」という状況にまで至ったことを喜ぶべきなのですが、ここ数ヶ月間の報道で煽られ続けてきた世間では、何故か「ガッカリ・ムード」が漂っておる状況。本来ならば喜ばしいこれら報道に、カジノ関連銘柄が下げ方向に転ずるなど、多方面に影響が出てきております。だから無根拠な煽りは止めろと言ったんだ。

そんな中で、ビジネスジャーナルさんが国民論議の争点として、「カジノの民営or公営」論を明確に示してくれています。以下、ビジネスジャーナルからの転載。

カジノ解禁、民営or公営どちらにすべきか?問われるデメリットへの手当てと国民議論

http://biz-journal.jp/2013/10/post_3193.html

民営型とすべきという意見は、民間投資をより促進し、民間活力を最大限に活用するという視点に立つ。そして、いかなる事業においてもリスクをとらない成功はあり得ないから(現に、競馬・競輪といった公営賭博は軒並み赤字となっている)、公営型カジノでは赤字となることが見込まれ、それを補填するための税金投入が危惧されるという観点や、公務員の新たな天下り組織の発生を防止するという観点を重視する。

それに対し、カジノを解禁するとしても、民営は許されず公営でなければならないとする意見が根強く存在する。この意見は、日本においてこれまで例外的に許容されてきた賭博(宝くじ、競馬、競輪、オートレース、競艇など)がいずれも公営であることとの整合性や、取り締まりを強化して治安悪化を防ぐという観点を重視するものである。

カジノの民営vs公営論というのは、議連の示す現法制案の問題点として紛れもなく私自身が世間に問うてきた案件であり、確実にカジノ法制上の論点として成長しました。まずはこのように取り上げて頂いたビジネスジャーナルさんには御礼を申し上げたい。

その上で、私のコメントを付させて頂ければ、そもそも民営カジノ論者があたかも「革新的な案」かのように論じている主張というのは、正直申し上げればそんなに目新しい論でもなく、小泉政権の構造改革の時にも政治側から意思が示され、検討が行なわれた案件です。小泉政権の誕生当時の「官から民へ」の政治的要請というのは今の比ではなく、それこそ竹中平蔵氏が経済財政政策担当大臣になって、ゴリゴリに進められました。

当時、競馬、競輪、競艇、オートレースと、それぞれの公営賭博を所管する官庁は各種諮問会議や審議会を設け、その実施にあたって法的、制度的、そして市場競争的な観点から、実現性を検証しました。2003年には最も民営化に対して柔軟なスタンスに居た経産省が自転車競技法を改正、それを追う形で2004年に競馬法、2007年にモーターボート競走法と小型自動車競走法の改正が行われました。その結果、生まれたのが現在の公営賭博制度です。

我々は、日本の賭博を「公営賭博」と呼んでいますが、この2003年から2007年にかけての賭博関連法の改正によって、我が国の賭博事業は事実上、民間企業の事業参入が可能となっています。現在、競馬法を筆頭とするすべての賭博関連法では、法律上「施行権」と呼ばれる最上位の重要事項(いつ、どこで、どういう賭博を提供するか)の決定権限は公的主体のみが保持できる「固有事務」であるとしながらも、その先の事業に必要となる開発投資や運営に関してはすべて民間側に委託できるというスキームが採用されています。

例えば、ボートレース競技における「日本のメッカ」とも呼ばれる住之江競艇場(大阪)は、施行者こそ「大阪府都市競艇組合」という大阪府内の自治体の連合体となっていますが、その施設の開発・所有・運営に関しては南海電気鉄道グループの住之江興業という企業が受託しています。南海電気鉄道グループは、東証一部に上場する完全なる民間企業です。また、その委託報酬に関しても、基本的に競技施設による売上をベースとした出来高払いとなっており、あくまで「公」による施行の元ではありますが、実質、民間企業が賭博事業から売上を享受できる形になっている。これが、我が国における賭博事業の「民間参入」のあり方なのです。

我が国においてなぜこのような民間参入制度が行なわれることとなったか。その理由の一つが、刑法185条の定める賭博罪およびその保護法益です。刑法学説上は、刑法が賭博を禁ずる理由は「公序良俗、すなわち健全な経済活動及び勤労と、副次的犯罪の防止」とされており、公営賭博に関しては公たる主体がその開催に責任を持ってあたる事で「公正な運営の保証およびギャンブルの弊害を抑制できる」という判断の元で、特別にその違法性が阻却(無効化)されていると解されています。昨日の投稿の通り、これは日本共産党ですら共有する我が国の賭博事業の基本理念です。

【参照】カジノ合法化論議: 岩屋毅(自民) vs 大門実紀史(共産)

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/8117866.html

一方、

・レジャー産業でありサービス産業でもある賭博事業の運営は、根源的に「公」に向いていない。

・バブル崩壊以降増加の一途をたどる公営賭博の赤字リスクを「公」が負うべきではない。

・競技場改修などに必要となる設備投資に公金が利用されるべきではない

など「民間が出来ることは民間へ」とした、当時、小泉政権が進めた「官から民へ」の基本理念にも一定の正当性があり、「では社会秩序に関する究極的な部分の何処までを公の独占業務として残し、どこから先を民に権限委譲出来るのか?」という論議が行なわれた。そのような環境の中で、構造改革を進めたい政治、刑法を所管する法務省、地方自治を所管する総務省、公序良俗の維持を担当する警察庁、そして各公営賭博の主務となる省庁の間でギリギリのせめぎ合いが行なわれながら生まれたのが、現在の我が国の公営賭博システムであるといえます。そして、私自身はこの辺りの経緯も論議も理解した上で、これら我が国の公営賭博の法的、制度的整理に則った形でのカジノ合法化の方が実現性が圧倒的に高いと主張をしているワケです。

ところが、現在、議連を中心として民営賭博としてのカジノ合法化論が主張されているわけで、正直、小泉政権当時の論議の巻きなおしにしかならない状況。というよりは、何故か現在の民営カジノ論は、「とりあえず(今は)カジノだけにその議論を限定する」などという、理屈の通らない論法で民営化を求めるという完全なる「スジ悪」論法を展開しているワケで、むしろ当時の竹中氏が主導した「官から民へ」理論の劣化コピーであるとしか言いようがありません。国の刑事基本法たる刑法の適用を、特定の事業分野に限って減免するなどという理屈をどうやって立てるつもりなのか? 国家戦略特区下で論議されている、いま流行りの「バーチャル特区」論でも持ち出すつもりなのでしょうか? (実際は、その論法も無理だけど)

ここでご紹介した小泉政権下で行なわれた「公営⇔民営」賭博論議というのは、公営賭博を所管するすべての省庁においてたった6~10年程前に激烈に行なわれたものです。当時の論議を知る者は官僚の中堅以上には未だ沢山いて、正直、今のカジノ合法化論が鼻で笑われているのは、その辺りの経緯を全く加味していないことも一因です。事実、私が個人的にお話をしている複数の官僚さんの口から「それって、この前やったばかりの『終わった論議』じゃないの?」(某公営競技を所管する省庁)というコメント等が聴こえてきている。それに対して、私としては「そうですよね、ワケ判んないっスよね」としか言いようがない状況です。

一方、カジノ業界側では、最近「カジノを進めたくない官僚の、サボタージュによる抵抗が強まっている」などという、民主党政権時代に流行った「アンチ官僚論」ともいえる言説を実しやかに主張する論者が出てきていますが、私の非常に限られた個人的な体験の範疇で言えば、もはや政権が一定のコミットをしてカジノ論を進めようとしている現状において未だ強力な抵抗論を打っている層はそれほど沢山いるワケではない。むしろ総論は(しぶしぶながら?)賛成しつつも、その手法論に対して冷笑している人間が増えている印象。すなわち「総論賛成、各論反対」というスタンスが広がっているということです。

…という事で、実は11月7日(木)にその辺りの我が国の最新のカジノ合法化の進捗状況や論議の争点などをひとまとめにお伝えするセミナーが金融ファクシミリ新聞社の主催で開催されます。出演は、私自身および、総理府(現・内閣府)の官僚出身であり、コロンビア大学法科大学院などへの留学を経て、現在は金融関連諸法およびマネーロンダリング・民事介入暴力対策などを専門とする弁護士として関連著書も多数ある渡邊雅之弁護士です。

このセミナーは今年7月に木曽・渡邊の講師で開催された同タイトルのアンコール開催という位置づけ。前回セミナーで満員御礼を頂いたことに気を良くした金融ファクシミリ新聞社から、もう一度開催したいとのご要望を頂きました。勿論、内容は最新の情報にアップデートしており、他では聴くことの出来ない貴重なセミナーの機会となると思いますので、ご興味のある皆様は振るってご参加下さい。

「なんだ最後は宣伝かよ」という声が既に私の耳に幻聴としてきこえていますが(笑)、出演の依頼を頂いたからには集客にもなるべくご協力したい。その点、ご容赦下さい。

金融ファクシミリ新聞社セミナー

カジノ導入にあたっての論点整理

~日本におけるカジノ導入のあるべき姿、考えられる法的・社会的問題点を考える~

【日時】

2013年11月7日(木) 13:30-16:30

【場所】

東京都中央区日本橋小網町9-9

小網町安田ビル2F セミナールーム

【講師】

木曽 崇 (株)国際カジノ研究所 所長

渡邊 雅之 弁護士法人 三宅法律事務所 パートナー弁護士

【講演趣旨】

安倍政権では、現在、規制緩和や税制優遇措置を行う新たな「国家戦略特区」導入の方針を固め、カジノを含めた大型リゾートについても検討を進めています。すでに先の通常国会では、議員立法として、カジノを含む複合観光施設の設置についての法案「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(カジノ法案)が日本維新の会によって提出されるなど、実現の日が近づいています。本講演では、日本においてカジノを合法化し導入するにあたって検討すべき法的・社会的問題について、カジノ研究者である木曽講師とマネー・ローンダリング対策やコンプライアンスの専門家である渡邉講師がわかり易く解説します。

【詳細情報およびお申し込み】

以下のリンク先よりダウンロード

http://www.fng-net.co.jp/seminar/smn2270.html

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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