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カジノ合法化の水面下で語られ始めたパチンコ法制論

木曽崇国際カジノ研究所・所長

参院選も終わり、自公による長期安定政権が確定した今日この頃。これまで延々と空転してきたカジノ合法化論に関しても、そろそろ落ち着いた論議が出来そうかな…と予感されるこのタイミングで、何やら「あさって」の方向に怪気炎が上がっております。以下、Sankei Bizからの転載。

【遊技産業特集】(2-1)

□大阪商業大学アミューズメント産業研究所 所長・美原融氏

http://www.sankeibiz.jp/business/news/130726/bsd1307260500001-n1.htm

[…] 他方、カジノ実現の動きに伴う遊技産業への影響だが、パチンコホールとカジノでは、訪れる客の志向が異なることから、客や市場の奪い合いなど直接的なマイナス効果はほぼ考えられない。しかしながら、制度的に比較されるという間接的問題が生じてくる。

つまり、3店方式などに関しては、司法上の判断ではなく、行政解釈に依拠する曖昧な部分に対し、これをクリアに説明できる理論や新たな制度の構築がこれまで以上に求められる状況も予測される。現在、パチンコホールの営業は風営法にもとづいて実現しているが、この点を考えれば、将来的にゲーミングの1つとして別の法律の枠組みに組み入れることも検討すべきだと思われる。それにより、国民の認識もシンプルになるし、ビジネスとして閉塞感が漂う現状の打破に向けても、別の展開が見えてくる可能性はある。[…]

長らく日本で語られてきたカジノ合法化ですが、実はその主張の中に幾つかの流派(?)が存在していまして、大阪商業大学の美原氏と言えば「我が国のカジノは民営とすべし」と主張する代表的な「民営カジノ」論者であります。かくいう私は、カジノ業界においては「日本の法制上、賭博事業は公の独占業務であり、カジノもその枠内で制度設計が行なわれるべき」と主張する「公営カジノ」論者であり、彼らの主張する「民営カジノ」論に対しては以前より以下のように述べてきました。

民営賭博が日本に誕生し得るか?!

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/7900627.html

民営カジノの合法化を推している方々が、もし本当にその論で押し進めるというのならば、以下の二つのケースを想定して答えを準備しておいて下さい。[…]

現在「賭博であってはならないモノ」とされ、法律(風営法)によってその射幸性(ギャンブル性)を刑法第185条が例外として定める「一時の娯楽に供する物を賭けた」の範囲に留められているパチンコ業、マージャン業側からは「民営賭博化」論というのが必ず巻き起こります。彼等の業界も現在、絶賛市場縮小中でありますから、その打開策としての「民営賭博化」というのは、これまた現状を打開する可能性のある非常に現実的な案なんですね。そしてパチンコ、マージャン共に、すでにそのような構想を進めているグループが明確に存在しますから、そちらの方々から提案が上がってきた時にどう対処しますか?という事です。

すなわち、私としては上記Sanke Bizにて美原氏自身が語っているようなパチンコ法制論が、彼等の主張する「民営カジノ合法化」論の先に登場するであろう事は予見していたわけでありまして、案の定…というかいよいよ本丸に切り込んできたなと感慨深い思いでみている次第です。

我が国の刑法はその185条において、明確に賭博を禁止しています。競馬や競艇など我が国に存在する賭博は、その刑法185条が定める違法性を阻却(無効化する)するための特別な法律を作る事によって合法的に存在しています。但し、そのためには幾つかの要件が定められていて、その中の最大の要件が「公営」であること。それが、競馬、競艇、競輪、オートレースはもちろんのこと、宝くじ、サッカーくじに至るまで、すべての賭博および富くじ事業が公営とされている理由です。

一方、賭博を禁ずる刑法185条はその後段において「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りではない」という例外規定を設けています。この例外規定に基づいて「娯楽の範疇」として認められているのがパチンコであって、風営法によって提供するゲームの射幸性(ギャンブル性)やその営業手法に関して制限をかけられながら、あくまで娯楽を提供する民間事業として存在しているわけです。すなわち、これらを図式化すると以下のようになります。

賭博:

原則禁止、だが別途定められた特別法により公的主体のみに認可

―――――――――――――賭博と娯楽の境界線―――――――――――――――

一時の娯楽:

刑法185条の例外、風営法が民業としてその範囲を明確化

繰り返しになりますが、カジノ研究者としての私の主張はこの基本的な体系を維持しながら、カジノ合法化を行なうべきというもの。一方で、かつてバブル時代の三セクブームの時のようにこの種の事業に大量の税金が投入されてはならないですから、その点は民間の資本力とノウハウを最大限有効利用できるような制度設計を工夫しましょうというものです。

一方、冒頭でご紹介した論を含めて、民営カジノの合法化を主張する方々の制度設計はこのようになります。

賭博:

原則禁止、だが別途定められた特別法により公営競技を認可

原則禁止、だがカジノ法により民間賭博としてのカジノを認可???

原則禁止、だが「何らかの形で法制化された」民営のパチンコを認可???

―――――――――――――賭博と娯楽の境界線―――――――――――――――

一時の娯楽:

刑法185条の例外、パチンコは賭博へと昇格???麻雀等、その他のゲームは???

上図は、正直言ってハテナマークだらけなのですが、彼等の主張する法的整理を私自身が理解できない故です。スイマセン。。というか、むしろ彼等が主張している論自体が無茶苦茶なのであって、正直整理のしようがない。上図では、一応「賭博と娯楽を分ける境界線」を引いた上で、刑法185条が定める原則である「賭博の禁止」を残したワケですが、正直、上図の世界ではこれまで「公の独占業務」として定められてきた賭博の世界に、カジノだのパチンコだのと民間事業者が参入してきているワケで、もはや「原則禁止」というルール設定自体が成り立っていない状態といえます。

すなわち、我が国のカジノ法制の中で民営のカジノを認めるという事は、これまで存在してきた「賭博と娯楽」の線引き、および「公と民」の線引きを完全に崩壊させてしまう施策であり、その後にパチンコ法制論が湧き上がるのは勿論のこと、引き続いて麻雀は? その他のゲームは?と、ありとあらゆるゲームの法制化論が噴出することでしょう。これは、もはや「モラルハザード」と呼んで差し支えのない状態です。

私の立場からすれば、大阪方面の方々がなぜこのような着地点すら見出せていない民営カジノ合法化論を支持しているのか全く理解に苦しむわけですが、私として明確に言えるのは「公営という枠組みの中で、どうやって望ましい官民協働の形を作らせるか」、「その際に予見される税の投入や利権化を如何に防ぐか」を考えた方がよほど生産的であり、カジノ合法化実現性も上がるということです。

恐らく、これから秋の臨時国会の召集と前後する形で我が国における本格的なカジノ合法化論議が始まるわけですが、読者の方々には論議の行く末とその先にあるものをよーく見守っておいて頂きたい。そして、本件への直接関係者の方々には現実をとらまえた上で、何が最も相応しい方向性なのかを改めて考えて頂きたいなぁと思うところ。私は私で、その論議の中核に居る一人として、できる限りのことを頑張りたいと思っている次第です。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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