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宇都宮ブレックス:川崎ブレイブサンダース戦の勝利はCSに向けて勢いづく点でも大きな意味あり

青木崇Basketball Writer
敵地でのCSでも対戦相手にとって宇都宮は厄介なチーム (C)B.LEAGUE

 ファイナルスコア:68対64。

 4月20日に行われた川崎ブレイブサンダース戦で、宇都宮ブレックスはロースコアの激戦を制した。レギュラーシーズンの1試合ということかもしれないが、ディフェンスの強度とポゼッションごとに繰り返されるフィジカルな攻防、点を取ることに苦労するという展開は、正にチャンピオンシップ(CS)のシリーズを見ている感覚になった。

 チャンピオンシップのホーム開催が難しくなってきたとはいえ、残りの試合を全勝すればその可能性がある。また、東地区の上位チームを倒すことが2度目のB1タイトル獲得に欠かせない点でも、宇都宮にとっては大きな意味を持つ勝利だった。

「ゲームの出だしからずっとディフェンスのプレッシャーもしっかりありましたし、いろいろなディフェンスをやる中で選手の遂行力がすごく高くて、あとはリバウンドのところですかね。全員でしっかり取りに行くことができていたので、最後勝ちにつながったと思います。川崎相手に64点に抑えるというのは難しいことなので、選手たちがよくやってくれたと思います。

 本当に上のチームに最近は勝てていなかったですけど、ここで1個勝てたのは、自分たちもしっかりやるべきことをやり続ければチャンスがあるというのを証明できたというか、自信になります。まだチャンピオンシップ進出が決まったわけではないので、それを続けていけるかどうかが、今後のカギかなと思います」

 こう語った安齋竜三コーチは、その前に行われたアウェイで2連勝した富山グラウジーズ戦でも、主力選手を欠く相手であっても最後まで高い集中レベルでプレーしていたことを評価していた。また、チェイス・フィーラーの欠場が続く中、質の高いプレーを継続できたことで手にした川崎戦の勝利は、チャンピオンシップに挑むチームにとって大きなプラス材料になったと言える。

インサイドで強力な存在感を示すビッグマン2人

 今シーズンの宇都宮は、ジョシュ・スコットと新加入のアイザック・フォトゥのビッグマン2人が、インサイドで主導権を握るかが試合を優位に進めるかのカギを握っている。2人ともポストプレーから得点でき、リバウンドとフィジカルの強さ、エナジー全開のプレーでチームに貢献している。安齋コーチはスコットに対する評価は非常に高い。

「元々ジョシュは走れたり、リバウンドとか本当に泥臭いことをやってくれながら、いつの間にか点数を取っているというのが彼の良さ。今シーズンはビッグマンの中で彼がリーダーという感じで、ジョシュ自身も自覚していると思います。発言やプレーの質も上がってきていると思いますので、うちにとっては本当にありがたい選手ですし、ジョシュも責任感を持って取り組んでくれていると感じています」

 スコットはクラシックなインサイドの選手だが、富山戦ではスモールフォワードが本職のジュリアン・マブンガとマッチアップ。「だれが相手であっても、自分はチャレンジするのが好きなんだ。ガードやボールハンドリングのうまいパワーフォワードとのマッチアップはとてもワクワクする」と話したように、アウトサイドに引っ張り出されても粘り強くディフェンスしていたのが印象的だった。また、1Q序盤で3回連続でバスケット・カウントとなるドライブからのレイアップを決めるなど、アグレッシブに攻める姿勢を見せたときのスコットは、相手からすると本当に厄介でしかない。

「リバウンド、ディフェンス、ハッスル、ブロックショット、スティール、得点と、チームが勝つための助けとなるようなことをやるだけだ」

 こう話すスコットとフロントラインでコンビを組むフォトゥは、2014年と2019年にニュージーランド代表としてワールドカップに出場した経歴の持ち主。プレースタイルでスコットと似ている部分が多く、ポストアップから右手でフックショットを打てる形に持ち込めば、かなりの高確率で成功させることができる。さらに、オープンになれば3Pショットで相手にダメージを与えられるのも強みだ。

フォトゥとスコットはインサイドでの得点とリバウンドだけでなく、エナジーをもたらすという点でも貢献度が高い (C)B.LEAGUE
フォトゥとスコットはインサイドでの得点とリバウンドだけでなく、エナジーをもたらすという点でも貢献度が高い (C)B.LEAGUE

 宇都宮は選手層が厚く、プレータイムをシェアできることもあり、フォトゥの平均得点13.9。しかし、20点以上奪った試合になると、チームは10戦全勝。スコットとともにインサイドの攻防で優位に立てると、今季の宇都宮は強い。それは、ペイント内での平均38.1点はB1全体で5位、40点以上を奪うと20勝3敗というデータが出ていることでも明らかだ。

CSで勝ち上がっていくためのカギは?

 新外国籍選手としてフォトゥとチェイス・フィーラーが加わった以外、今季の宇都宮はロスターに大きな変化がない。ライアン・ロシターとジェフ・ギブスが抜けたとはいえ、B1最少の平均69.9失点というタフなディフェンスは今季も健在。川崎戦で見せたパフォーマンスを発揮できれば、アウェイの戦いであってもCSを勝ち抜くことは十分可能だ。チームとしての完成度も、勝率で上回るライバルと引けを取らない。

 では、2度目のB1制覇を成し遂げるためのカギは一体どんなことなのか? 筆者は2つあると考えた。

①ここぞという局面のオフェンスでチームを牽引するゴー・トゥ・ガイはだれか?

 昨季のファイナル第3戦、千葉ジェッツが粘る宇都宮を振り切って初の頂点に立てたのは、4Qでシャノン・ショーターがオフェンスでチームを牽引したからだった。バスケットボールはチームスポーツだが、CSのようなポストシーズンのゲームになると、ここぞという局面における個の力が勝敗を左右する場合が多々ある。

 宇都宮はチームとして高いオフェンスの遂行力を持つだけに、スコットが「マコやアイザック、遠藤(祐亮)、(テーブス)海、自分など、だれでも(ゴー・トゥ・ガイ)なりうる。大事なのは賢く、一体となってプレーすることであり、調子のいい選手にボールが渡るようにすればいい。グループとして努力することが大事だ」と話すのも十分に理解できる。強いてゴー・トゥ・ガイになってほしい選手をあげるのであれば、得点感覚に優れ、爆発力のある比江島慎だろう。CSのようなビッグゲームで“比江島タイム”が発動されれば、大きな違いをもたらす存在となって、宇都宮を勝利に導いたとしても決して驚かない。

②鵤誠司

 シーズン中盤でコンディション不良で離脱したものの、鵤誠司の存在は宇都宮のゲームに安定感をもたらす。それは安齋コーチの「誠司は全体的に高いレベルの選手であり、頭もいいいので、いるかいないかは結構うちにとって大きいと思います」という言葉でも明らか。また、ディフェンスの厳しいプレッシャーをかける起点となれることや、外国籍選手でも当たり負けしないフィジカルの強さを持っている点でも、鵤は貴重な存在だ。

攻防両面で指揮官からの信頼度が高い選手となった鵤 (C)B.LEAGUE
攻防両面で指揮官からの信頼度が高い選手となった鵤 (C)B.LEAGUE

 また、休んだことが疲労回復という点でプラスに働き、復帰後は目に見えるスタッツ以上に質の高いプレーを続けているのは、宇都宮にとっては心強い。4月2日の新潟アルビレックスBB戦で復帰後、3試合で50%以上のFG成功率を記録し、直近の2試合では3Pショットが7本中5本成功している。

 アウトサイドからのショットということでは、比江島、遠藤祐亮、渡邉裕規、喜多川修平が相手から常に警戒されている。しかし、鵤が積極的にオープンショットを放ち、高確率で決めることになれば、宇都宮のオフェンスは破壊力を増す。鵤自身もそのことは十分に理解している。

「一緒に出ている比江島選手、遠藤選手に比べて、僕のところで空けられることがあります。しっかり(ショットを)決め切れることができれば、相手もそこを意識し出して周りの選手も楽にプレーできますし、得点の部分も楽になってきます。そこでしっかり決め切れる試合はうまくいくというか、結構大事かなと思っています」

 残りのレギュラーシーズンゲームで宇都宮は、千葉とA東京と2試合ずつ戦う機会が残されている。川崎戦で得た手応えと自信が本物であり、チャンピオンシップを前にチームがどんな状況にあるかを知るうえで、大きな意味を持つ試合になるだろう。それは、安齋コーチが富山戦後に口にした言葉でも明らかだ。

「(東地区で)上の3つというのは帰化選手がいるので、なかなか自分たちが普通にバスケットをやっていても、そこに勝っていけるかと言ったら難しい部分があると思います。その都度チームごとにいろいろなことを仕掛けていって、勝ちを見出すという方向性になると思うので、そこがチャンピオンシップにつなげていけるような部分。いろいろ変えていく中でも、自分たちが混乱せずにブレックスのバスケットを出せるという状況を作っていければ、チャンピオンシップに行った後にチャンスがあるという感じがしています」

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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