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新生シーホース三河が上々のスタート。攻防両面で一貫性が増すとより厄介なチームに成長する予感あり!

青木崇Basketball Writer
攻防両面で戦力が充実している今季のシーホース三河 (C)B.LEAGUE

 シーズン開幕から9勝5敗という成績は、シーホース三河にとって上々のスタートと言っていいだろう。

 夏の間に金丸晃輔と川村卓也が移籍したことで、“今季の三河は一体どうなるのか?”と思ったファンも多かったはず。長年得点源の一人として活躍してきた金丸と勝負強さに定評のある川村が抜けることは、大きな戦力ダウンになるという見方が出ても仕方ない状況だった。

 しかし、三河を率いる鈴木貴美一コーチは、チームのスタイルを変える絶好の機会になると前向きに捉えていた。シーズンオフになったばかりのころ、「ここ数年はオフェンスのチームを作ってきたけど、やはりディフェンスをもっとよくしたい。だから、ディフェンスのいいウイングの選手がほしい」と筆者に話していたが、角野亮伍と西田優大の加入は正に願ったり叶ったりの補強と断言できる。

 これまでは一昨季を最後に引退した桜木ジェイアールやダバンテ・ガードナーのポストアップ、金丸を生かすためのセットプレーを軸にしたハーフコートゲームを軸に戦うのが、三河のスタイルだった。あまり認知されていないかもしれないが、鈴木コーチは元々選手の強みや特性を発揮できるチームを作ろうとする指揮官。今季のチームは、機動力を増したディフェンスで相手をストップし、トランジションや活発なボールムーブメントから全員でシェアするオフェンスで戦っている。

 ディフェンスが変わったというところでは、ピック&ロールに対してハードショーでの対応が増えた点。ドロップで守ることの多かったガードナーが積極的に前へ出ても、マッチアップする選手のところまでしっかり戻るシーンが多くなった。また、長野誠史が出ている時間帯にトラップを仕掛けたり、ゾーン・ディフェンスで相手のリズムを崩そうとするあたりも、昨季までのチームとは明らかに違う。鈴木コーチはこう説明する。

「ディフェンスに関しては本当にプレシーズンからずっと毎日のようにディフェンス練習、シチュエーションのディフェンス練習をしてきました。ディフェンスを(リーグで)トップの位置まで持っていくというつもりで取り組んでいます」

 名古屋ダイヤモンドドルフィンズに快勝した11月13日の試合は、4Q序盤でチームファウルが4つという状況に直面した。しかし、鈴木コーチは「あの時点で4つというのははっきり言って厳しい。ただ、抑えるんだという気持の状態で4つというのは、コーチとしてはまったく問題ないです。相手が簡単にファストブレイクをやろうとしていた中でそこを気持よくやらせてしまうと、4クォーターのリズムがガラッと変わってしまう。ファウルをしちゃいけないんだけど、選手たちはファウルをしてでも抑えるという気持があった」という姿勢を評価。今季、ファストブレイクからの失点を1ケタに限定したのが14試合で6度あるのは、ディフェンスの機動力が上がったことの成果と言える。

シュート力とタフなディフェンスでの貢献度が高い西田 (C)B.LEAGUE
シュート力とタフなディフェンスでの貢献度が高い西田 (C)B.LEAGUE

 オフェンスでは、ここぞという局面になるとガードナーのパワープレーを頼りにできる。しかし、ピック&ロールから展開し、ボールを動かした流れからのドライブ、キックアウトからオープンのショットを打つ形が増加。ガードナーが得点源であることは不変も、今季の平均が17.7点と2015-16シーズンに来日以来最少の数字。ジェロード・ユトフ(13.7)と西田(12.1)と合わせた3人が2ケタの平均得点を記録し、8点以上の選手が6人を数えるなど、どこからでも得点できるというバランスのよさが、今の三河にはある。

 名古屋との1戦目、6本の3Pショットと3本のレイアップを決めた4Qの10分間は、正に今季の三河が目指すオフェンスを象徴するもの。「毎回毎回うまくいくわけではないですけど、オフェンスの仕方がああいう感じでボールが回ってみんながシェアして、全員が点を取る。しかも、出ていく選手が自分の仕事をするようなオフェンスをすれば、非常によくなってくると思う」と、鈴木コーチも手応えを感じる内容だった。

 しかし、故障で欠場中の橋本晃佑を含めると5人が新戦力ということもあり、三河はまだまだチーム・ケミストリーを構築している最中という発展途上の段階。11月10日の琉球ゴールデンキングス戦と14日の名古屋戦で喫した負けは、試合に臨むメンタル面で甘さが出たことが大きい。両チームとも主力となる外国籍選手を欠いており、特に名古屋戦はスコット・エサトンのみという布陣ながら、攻防両面で圧倒されての完敗だった。鈴木コーチは次のように振り返る。

「戦術だとか、オフェンスの仕方とか、戦略、ディフェンスもそうですけど、そういったことよりもまずはハードにやることが大事。そして、スポーツというのは力が拮抗していますし、特に今年のBリーグはどこが勝ってもおかしくない。強いチームが負ける、経験のないチームが勝つというような状況です。(バスケットボールは)いかにメンタルやマインドセットが影響するかというゲームなので、そこで1人2人ふわっとした選手がいたり、コーチが大丈夫だみたいな感じでいたりすると、こんな感じになるということがよくわかったゲームだったと思います」

三河に移籍した今季、得点センスの高さを発揮する機会が増えた角野 (C)B.LEAGUE
三河に移籍した今季、得点センスの高さを発揮する機会が増えた角野 (C)B.LEAGUE

 得点力を持ち味とする外国籍スイングマンとのマッチアップで奮闘できる西田、厄介なスコアラーへ飛躍しそうな角野、攻防両面で堅実なジェロード・ユトフは、新生三河が上々のスタートを切れた理由と言っていい。また、長野がシックススマンとして活躍の機会が増え、相手にとって厄介な存在になっているのもプラス材料。さらに、203cmの身長ながらシュート力が武器の橋本が戦列復帰となれば、三河の選手層はより厚みを増す。

 シェーファーアヴィ幸樹がチームの見てほしいところとして、「今までのシーホースファンが見ていないようなディフェンスだったり、一味違ったバスケになっているとは思います。もっともっとテンポの速いファストブレイクだったり、ゆっくりとしたハーフコート・オフェンスではなく、フルコートで戦えるようなチームになっている」と語ったパフォーマンスを一貫して発揮できれば、三河は昨季以上の成果を出すことも十分に考えられる。

 東地区の強豪、千葉ジェッツ、宇都宮ブレックス、川崎ブレイブサンダース、アルバルク東京との対戦がまだ残っているだけに、“三河の強さが本物!”と言うには時期尚早かもしれない。とはいえ、見ていておもしろいチームであることは確かで、今季の『全力三河』というテーマに相応しい試合を今後も期待していいだろう。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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