2017年から日本代表を率いてきたフリオ・ラマスコーチは、東京五輪を最後に契約満了で退任となった。2006年に自国開催の世界選手権(現在のワールドカップ)に出場して以降、アジアで苦戦を強いられた低迷期から日本を脱却させることに成功。予選を勝ち抜いて自力でワールドカップに導き、開催国枠での東京五輪出場を実現させたのは称賛に値する。日本バスケットボール協会の東野智弥技術委員長はラマスコーチについてこのような言葉で感謝した。

「世界との競争力、日常のプロフェッショナル意識、個性をしっかりチームに組み込んで、根付かせてくれました。FIBAのスタンダードを伝えて、選手たちが躍動しました。この功績は非常に大きいと思っています。本当に感謝したいです」

 ラマスコーチの退任は日本時間9月21日の早朝、自身のツイートによって判明した。日本バスケットボール協会は午前10時、トム・ホーバスを男子、恩塚享を女子のヘッドコーチに就任すると発表。恩塚コーチは27日から始まるアジアカップで女子代表を指揮することからも昇格を予想できたが、プロレベルで男子チームのコーチ経験のないホーバスの就任には少し驚かされた。だが、東野技術委員長は男子代表が東京五輪のグループ戦で敗退した直後から、ホーバスを新ヘッドコーチにすることが頭に浮んだという。

「中長期に“戦略としてどうするのか”ということで候補というのをあげてきた中で、“これは次に行かなければいけない”、Go nextということで、私はトム・ホーバスしかいないという風に思いました。2023年(ワールドカップ)で結果を残してパリ(五輪)に行く、そこにコミットできるのはだれかと本当に考えました。そして、トム・ホーバスコーチに辿り着きました。私の中で決めたのは、本当にオリンピック中だったんじゃないかな。そのアイディアが出たというのは、男子が終わった後ですね」

 ホーバスコーチが女子代表を東京五輪の銀メダル獲得に導くという大きな成功を手にできた要因は、日本の強みを最大限に活かすスタイルを構築したこと。オフェンスはテンポの速い試合を展開することをベースに、選手とボールが活発に動かしてのペイントアタックと3Pシュートで得点を奪う。ディフェンスは心身両面でタフに、より細かいところも徹底して遂行できるチームを作り上げていた。

 東京五輪以降、長年アルゼンチンを率いたセルヒオ・エルナンデスが退任するなど、代表のヘッドコーチが交代した国は多い。東京五輪での内容と結果からすれば、日本が新たな方向に向かう決断を下したとしても不思議ではない。ただし、ラマスコーチの後任をだれにするのかと考えた時、世界レベルで結果を出している名将を改めて招聘するには、新型コロナウィルスの問題で来日が難しい現実もある。ワールドカップ予選まで時間がないという部分も考慮すれば、ホーバスを新指揮官にするという決断は賢明であり、通訳を挟まずに日本語でコーチングできる点もプラスだ。

「今回は男子の選手たちとこれからリレーションシップ(関係)を作ること、そこが大きいです。選手たちの気持ち、努力のレベル、信じている気持ちをこれから勉強したい。11月から中国と試合があるんですけど、他の国もいろいろ勉強して、そこからもっともっと細かい目標を作ります。そういうリレーションシップが大きいかなと。(八村)塁と(渡邊)雄太ともアメリカで会って話したい。オリンピックの経験で一番大きかったのは、選手たちが僕のことを信じて尊敬し、僕も選手たちを信じて尊敬していた。そこは簡単にはできないから、これからそういうリレーションシップを作りたいです」

 ホーバスコーチは男子代表の指揮官として選手個々の特性を把握し、良好な関係を構築することからスタートしなければらないことを重々承知している。とはいえ、女子から男子に変わってもプレースタイルやコーチング哲学を変えるつもりはない。ファストブレイク、スペーシング、3P、パス、カット、細かいところの遂行力、頭を使う、データを最大限に生かすバスケットで世界に挑む。

「ポイントガードのポジションはプレーメーカーが必要。サイズはあまり関係ない。うちのバスケットをやりたいから、小さいガードでも全然平気」と話したように、サイズの小さなガードであっても代表入りするチャンスがある。3Pシュート力があれば、その可能性も上がってくるという点で、ラマスコーチとの違いは明確だ。

 男子代表と女子代表と違いとしては、長いBリーグの合間に練習時間を確保しなければならず、ワールドカップ予選に向けた準備期間も限定されることがあげられる。また、海外でプレーする選手の招集も、さまざまな事情が絡んで簡単にはいかない。そんな状況下で質の高いバスケットを展開できるチームを作ることは、ホーバスコーチにとって最大のチャレンジになると言っていい。限られた時間内でのチーム作りで最も大事にしていきたい点について質問すると、次のような返答をしてきた。

「代表チームを作る時、一番時間がかかる動きはディフェンス。全員が違うクラブチームから入っていますから、ディフェンスのルールもそれぞれ違います。ディフェンスのコーチングは結構時間がかかります。オフェンスのほうがルールとかいろいろありますけど、みんなわかりやすいと思います。チーム・ディフェンスが大事だから、そこから始まります」

 ワールドカップのアジア予選、中国との2連戦となる1次ラウンドは11月25日と28日に行われる。2か月強という短い期間で、ボーバスコーチは代表候補の選考、選手たちとの関係構築に必要なコミュニケーション、チーム作り、中国戦のゲームプラン構築など、やるべきことが非常に多い。

 しかし、「すごく大きなチャレンジ。こういうチャレンジが本当に好き」と記者会見の冒頭で口にしたことからすれば、男子日本代表のヘッドコーチは今のホーバスにとって正に“Dream job(夢の仕事)”。熱いコーチングで2024年の夏にパリで世界を驚かすつもりだ。