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川崎ブレイブサンダースが4度目の天皇杯優勝。違いをもたらしたのはビッグラインナップ

青木崇Basketball Writer
昨年土壇場で逃したタイトル獲得に喜びを爆発させる川崎の選手たち (C)JBA

 川崎ブレイブサンダース対宇都宮ブレックス。今シーズンのBリーグにおける直接対決は、いずれもロースコアの決着による1勝1敗。天皇杯決勝でも激しいディフェンスの応酬で、ロースコアの試合になると予想していた。

 川崎は前半だけで増田啓介と大塚裕土が8点ずつ、パブロ・アギラールも7点というベンチ陣のステップアップによって主導権を握り、ハーフタイムで7点のリードを奪った。一発勝負の決勝ということもあり、後半になると時間の経過と比例して展開がより重くなる中、大きな違いをもたらしたのは川崎のビッグラインナップだった。それは、帰化選手で抜群の得点力を誇るニック・ファジーカス、高い跳躍力とシュート力を兼備したジョーダン・ヒース、リバウンドで存在感を示せるパブロ・アギラールという異なるタイプのビッグマンを3人同時に使う形である。

 3月3日にマティアス・カルファニが右内転筋の肉離れで離脱する事態に直面した川崎は、天皇杯の前に行われた新潟アルビレックスBB戦でもこのビッグラインナップを多用。3月7日の2戦目はサイズの優位を生かせたことで、112対75のスコアで快勝していた。いい流れは準決勝のシーホース三河戦でも継続していたが、ライアン・ロシターが帰化選手となったことで選手層の厚さを増した宇都宮に対し、このビッグラインナップが機能するか否かは、天皇杯決勝の勝敗を分ける要素の一つと見ていた。

宇都宮のオフェンスをスローダウンさせた要因となったヒースとアギラールのディフェンス対応 (C)JBA
宇都宮のオフェンスをスローダウンさせた要因となったヒースとアギラールのディフェンス対応 (C)JBA

 前半でビッグラインナップを使ったのは6分4秒間で、得失点差が+2。佐藤賢次コーチは後半の最初からビッグライナップを使うと、宇都宮が少し3人の高さを警戒した川崎の選手たちがタイミングを逃さなかった。辻直人が左ウイングから2本の3Pシュートを決めてリードを10点に広げ、残り1分33秒にファジーカスがベンチに下がるまで、ビッグラインナップが出場していた際のプラスマイナスは最大で9まで到達していた。

 川崎のビッグラインナップは、オフェンスで自分たちのシュートが外れたとしても、簡単にディフェンス・リバウンドを奪われないような努力をしていた。宇都宮はリバウンドを奪ってからの速攻やアーリー・オフェンスで局面を打開したかったのだが、ハーフコートゲームを強いられてなかなかリズムに乗れなかったのである。

「彼らをディフェンスで止める回数が少なかった。ミスショットになってもオフェンス・リバウンドを奪われたり、ティップされてのアウト・オブ・バウンズで我々のボールになってしまっても、走りたくても走れない。ディフェンスで止められなければ、走れないということだ」とロシターが振り返ったように、ボールをなかなかプッシュできない宇都宮はペイント・アタックが少なくなり、ボールの動きが停滞した後に2Pのジャンプ・ショットを打たされる回数が多くなっていた。

 テーブス海の2連続3Pシュートで6点差に詰め寄られるシーンもあったが、川崎の佐藤コーチは4Q5分34秒のタイムアウト後オフェンスからビッグラインナップに戻した。この采配が見事に功を奏し、ファジーカスのアシストからヒースが3Pプレーとなるレイアップを決めたことで、川崎は嫌な流れに歯止めをかけることに成功。ディフェンスでは最後の4分12秒間、宇都宮を無得点に抑えた。

 ファイナルスコアは76対60。川崎がビッグラインナップを使ったのは21分5秒間で、4Q終盤のディフェンスが大きな決め手となって得失点差もプラス15。ビッグラインナップが攻防両面で機能したことでの勝利に、佐藤コーチは大きな手応えを感じている。

「選手と共有しているのは激しいプレーが軸であって、そこに加えてニックの強みを生かしたビッグラインナップによる高さのアドバンテージ。そこをどう融合させるかというのが、優勝への道だということで選手に伝えていて、今日はそれがディフェンスでスウィッチをうまく使ったりとか、オフェンスではインサイドをうまく使ったりとか、強みをうまく生かしつつ、試合を通して強度の高いプレーができたことは、非常に手応えを感じていますし、チームが強くなってきたなと素直に思います」

厳しいマークで11点に限定されるも、6アシストと得点機会のクリエイトでしっかり仕事をしたファジーカス (C)JBA
厳しいマークで11点に限定されるも、6アシストと得点機会のクリエイトでしっかり仕事をしたファジーカス (C)JBA

 長年川崎の得点源としてチームを牽引してきたファジーカスは、「2Qで1本も打たなかった」と話したように、宇都宮の厳しいディフェンス対応もあり、37分55秒間のプレーで放ったシュートが8本。しかし、視野の広さを生かして的確なパスを供給し、ゲーム最多となる6アシストを記録していた。ビッグラインナップの良かった点については、次のように振り返る。

「パブロがスモールフォワードでプレーする中でもリバウンドへの理解度が高いし、自分とヒースがゴール下にいるということは7フッター(7フィートは213cm)が2人いるようなもの。ディフェンス面で(腕の)長さと大きさが出るから我々はよりタフになるし、それを生かして多くのリバウンドを奪える。ビッグラインナップは残るBリーグのシーズンにおいて、我々の大きな武器になると思う。今日の試合でそれを証明できたし、これから対戦する相手にとっては大きな問題になるだろう。シーズンを通じてビッグラインナップを試みてきたけど、今日がこれまでのベストだったと思うし、今後もっと良くなっていくはずだ。ビッグラインナップで天皇杯で優勝できたのは自信になったし、Bリーグの試合でも再現できればチャンピオンシップを獲得する大きなチャンスになると思う」

 残り3分の1となったBリーグのレギュラーシーズンでは、どのチームも川崎のビッグラインナップ対策をより入念に準備してくるだろう。ただし、攻防両面でのタフさという点でB1屈指という呼び声のある宇都宮相手に成果が出たことは、川崎にとって大きな意味があった。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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