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アジアカップ予選の開催中止で露呈したFIBAの問題

青木崇Basketball Writer
(写真:アフロスポーツ)

 カタールのドーハで2月17日から開催予定だったFIBA(国際バスケットボール連盟)アジアカップ予選の中止が日本バスケットボール協会(JBA)から発表されたのは、12日の午後9時すぎだった。JBAの副会長も兼任するBリーグの島田慎二チェアマンは16日の会見で、「FIBAから午後9時まで発表しないでほしいという申し伝えがあった」と説明したものの、FIBAから公式ウェブサイトに正式なプレスリリースが出たのは13日。申し出に従うことないまま他国から早々と中止の情報が出たことは、FIBAに対する不満の表れという気がしてならない。

 Bリーグからの資料によれば、FIBAは1月29日に中国を含めた会談でアジアカップ予選への出場を両国に対し強く要望と書かれている。しかし、同じグループのチャイニーズ・タイペイやマレーシアに関する記述が経緯の中には一つもない。少しリサーチしてみると、この2チームの参加は非常に難しかったことがわかった。

提供:B.LEAGUE
提供:B.LEAGUE

 マレーシアは1月13日から都市封鎖と全国的な移動禁止の措置が取られている真っ只中。「ウィンドウ3の出場が加盟国の義務である」とFIBAがいくら強調しても、国の決定に逆らうわけにいかない。マレーシア国内でバスケットボール・アカデミーのコーチを務める友人に話に聞いたところ、協会は政府に出国許可の文書を提出したものの、返答のないまま時間が経過していたという。また、チームの現状を「年明け早々を最後に練習がまったくできていない」と話していたことからすれば、FIBAからペナルティを科されることを覚悟のうえで、11日に代表を派遣しないとマレーシア協会が発表したことに驚きはない。

 チャイニーズ・タイペイも代表候補24人を発表して予選への準備に取り掛かろうとしたものの、ドーハでプレーしてもいいという選手は7人しかいなった。FIBAが規定する最低人数(10人)を揃えられないことに加え、プロリーグのSBLだけでなく学生レベルもシーズン中。チャイニーズ・タイペイは選手たちの健康と安全に対する不安を最大限考慮した結果、予選に参加しないという決定を下している。

 日本とともに予選に参加する予定だった中国に目を向けてみると、国内リーグのCBAが春節で中断している時期と重なっていた。代表候補たちが上海に集結してトレーニングを行っていたものの、今回の中止を受け、次回予選が行われる際にはアンダー18代表の派遣を示唆している。

 中国が本当にアンダー18代表で予選に臨むのであれば、日本も強化の一環としてBリーグ開催に影響を及ぼさない大学生を中心にしたアンダー22代表を派遣してもいいはずだ。ちなみに、20日にケアンズでニュージーランドと対戦するオーストラリアは、トップリーグであるNBLの選手が一人もいないチームで試合を行うことになっている。

「参加は義務、出なければ処罰する」というFIBAの頑なな姿勢に対しては、新型コロナウィルス感染拡大による先行き不透明な状況を理解したうえで、各国協会と真摯に向き合っているのかという疑問符を付けたくなる。日本に対する2023年のワールドカップ開催枠剥奪という脅しは、JBAが過去に資格停止処分を受け、今も監視されている状況をFIBAがアドバンテージとして最大限利用したものと言っていい。しかし、それ以上に気になった問題点がある。

 “Players first(選手第一)”の姿勢がFIBAにあるのか?

 アジアカップ予選中止の発表後に出た大河正明Bリーグ前チェアマンによるツイートは、FIBAが“Players first”を蔑ろにしているという考えがベースだ。筆者も完全同意である。

 FIBAが以前ワールドカップと五輪の出場に向けたシステム改革を行った際、予選をホーム&アウェイで行うことの意義を強調していた。しかし、国内リーグのシーズン中に日程を組み込むやり方に対し、ユーロリーグの選手を中心に反対の声が上がったのは事実(NBAは当然受け入れていない)。アジア地区の予選ではヨーロッパと違い、大半のチームが選手に大きな負荷となる10時間前後の長い飛行機移動に直面する。そういったことを考慮すれば、各国のリーグがオフとなる時期の中で1か月という期間を設定して3つのウィンドウ、合計6試合を行ったほうが“Players first”になるという視点がFIBAになかったのは、本当に残念と言うしかない。

 このような過去を思い出すと、FIBAが開催や中止の決定を下すプロセスにおいて、真剣に各国の状況を考慮しているのか? という疑問がどうしても出てくる。そこで、Bリーグの選手やチームが予選参加に強い懸念を持っていることを記した内容のメールをFIBAアジアの広報に送信してみると、次のような答えが返ってきた。

We were monitoring the situation in Japan very closely, especially with the B.League and concerns over player safety.

我々は日本の状況をとても注意深く観察していました。特にBリーグと選手の安全に対する懸念については…。

The most important thing right now besides the health of players is to make sure that the Qualifiers are finished on time for the FIBA Asia Cup 2021 in Indonesia, in August.

選手たちの健康に加えて今最も重要なことは、8月にインドネシアで行われるFIBAアジアカップ2021に間に合うように予選を終わらせることです。

 FIBAはアジアカップを8月に開催しようとしているが、予定通りにできるか微妙だ。日本とオーストラリアとイランは直前に行われる東京五輪が最優先、中国と韓国とニュージーランドは6月29日からの五輪最終予選に出場するというのが、そう思える理由である。

 フィリピンで出た報道によれば、FIBAはカタールでの開催中止決定後から10日ほどで新たな予選の開催地と日程を発表するという。この6か国に限らず、各国の情勢を理解したうえでスケジュールが組まれなければ、FIBAはアジアの国々や選手たちを軽視している組織と言わざるを得ない。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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