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「ロシターがいなくても勝てる!」過去の苦い経験を生かす絶好の機会を迎えている宇都宮ブレックス

青木崇Basketball Writer
渋谷との2戦目で14点とステップアップしたテーブス海 写真/B.LEAGUE

 1月27日のアルバルク東京戦の前半、宇都宮ブレックスの大黒柱であるライアン・ロシターが右大腿二頭筋筋挫傷で戦列離脱。東地区の首位争いを演じる千葉ジェッツにいい形で連勝していたブレックスだったが、ロシターを欠いた東京戦の後半は試合を完全にコントロールされ、59対83という大敗を喫してしまう。

 故障はゲームの一部だ。しかし、ブレックスと彼らを熱心に応援するファンからしてみれば、ロシターの離脱が大きなダメージとなり、リーグ制覇の夢を砕かれたという苦い経験を2度も味わったことを決して忘れていない。それは、2015年の東芝(現川崎ブレイブサンダース)と対戦したNBLセミファイナルと、2019年の千葉ジェッツと対戦したB1のセミファイナル。いずれもシリーズの途中で起こったものであり、立て直すための準備ができないまま臨んだ試合でブレックスは最後までハードに戦ったものの、勝利という結果を手にすることができなかった。

 ロシターの戦列離脱はブレックスにとって大きな痛手だ。再発しやすい箇所を故障したことからすれば、数週間の欠場は覚悟する必要がある。とはいえ、チャンピオンシップではなく、レギュラーシーズンの中盤だったことが不幸中の幸い。ロシターが欠場している間は、チーム全体を底上げする絶好の機会にしたいところだ。

連動性が下がってしまったオフェンス

 中2日、実質1回の練習という限られた準備期間の中で迎えた先週末のサンロッカーズ渋谷戦は、ロシター不在の中でブレックスがどう戦うかに注目していた。1月30日の1戦目は、12月9日の富山グラウジーズ戦でひざを故障した比江島慎が先発に復帰したものの、渡邉裕規が扁桃腺炎で欠場したことも相重なり、なかなかいい形でオフェンスが展開できないまま時間が経過。そういったシーンが増えていくのを見ていくうちに、NCAAとNBAの両方で優勝した唯一のヘッドコーチとして知られるラリー・ブラウンの言葉が思い浮かんだ。

“We played like a bunch of strangers."

「見知らぬ者の集まりみたいにプレーしていた」

 渋谷の激しいプレッシャー・ディフェンスも影響していたとはいえ、ロシターがいないことによって、この試合でのブレックスは持ち味である活発なボールムーブからいいショットを打てずにいた。それは、3Pが4本しか決められず、試投数とアシスト数がいずれも平均よりも5本以上少ないという数字に終わったことでも明らか。安齋竜三コーチは準備した戦術にもう少し工夫が必要だったと反省したうえで、次のように振り返る。

「今までやっていたものの中で、渋谷さんがやってくるだろうということを想定してやりました。ディフェンスのところではオフェンス・リバウンド以外ある程度選手たちがしっかりやったかなと思いますし、後半はリバウンドのところも全員で頑張ってやったと思います。オフェンスの部分で渋谷さんがアグレッシブなディフェンスなので、そこを打開するのになかなかうまくいく時間が少なかったなと思うので、映像を見て試合前に準備してやりたいなと思います」

安齋竜三コーチはロシター不在でも勝てるチームを作るという強い意欲を持つ 写真/B.LEAGUE
安齋竜三コーチはロシター不在でも勝てるチームを作るという強い意欲を持つ 写真/B.LEAGUE

 比江島にもロシター不在の中で戦った印象について聞いてみると、「ライアンはオフェンスにしてもディフェンスにしても起点となる選手ですし、得点とアシストがチームとして消える中でその分自分が起点になろうと思いました。どうしてもライアンがいる時と今日では、パス回しの流れとかがなかなか出せなかったのが正直なところ。ライアンが出ないと決まってからの練習期間も短かったので、ディフェンスで耐えるしかない状況ではあったと思うんです。映像とか見て反省して、ライアンがいる時のようなバスケができるようにしなければいけないなと…」いう答えが返ってくる。リバウンドを奪った後にボールをプッシュし、速攻やアーリー・オフェンスで得点機会をクリエイトできるロシターの不在は、オフェンスの選択肢が減ってしまうことを示していた。

持ち味のメンタルタフネスとアジャストが功を奏した2戦目の勝利

 翌日の午後2時10分にティップオフとなった2戦目、ブレックスは前日の試合終盤で足を引きずる仕草を見せた比江島が欠場する事態に見舞われる。渋谷もライアン・ケリーの離脱に直面していることもあり、激しいディフェンス合戦によるロースコアで試合は進んだ。

 1Qに渋谷のターンオーバー連発で得た速攻から着実に得点したことでリードを奪ったブレックスは、後半に5度同点に追いつかれたものの、その度に答えを出し続けたことで逆転を許さなかった。67対62のスコアで競り勝てたのは、大黒柱がいなくても40分間心身両面でタフに戦い続けた成果であり、安齋コーチも選手たちを称賛する。

「本当に少ない人数でしたけど、選手たち一人一人がステップアップしてくれて、最後までディフェンスとリバウンドを我慢できた勝利だったと思う。いいゲームができたと思いますし、連敗もあって今日どうなるかというところでいろいろ変わってくると思った。本当に選手の頑張りで乗り越えられたので、このまま引き続き自分たちのバスケットをしっかり体現できるような準備をして、リーグ戦を戦っていきたい」

 渋谷のオフェンスは、チャールズ・ジャクソンとジェームズ・マイケル・マカドゥのインサイドを頼りにせざるを得ない事情があった。ペイント内で38点を奪われたとはいえ、そのエリアにおけるFG成功率が43.2%。3P成功数も3本に限定させることができたのは、ディフェンスの奮闘によるところが大きい。

 ブレックスのオフェンスはFG成功率39.3%で67点、アシストも14本とロシターがいる時に比べると明らかに展開力を欠いていた。しかし、安齋コーチが1戦目よりもインサイドから攻めることを増やしたことは、ジョシュ・スコットを気分よくプレーさせることへとつながっていく。スコットはチーム最多の16点を奪って期待に応えただけでなく、4Q残り1分4秒にリバウンド争いでジャクソンをファウルアウトへと導き、事実上の決勝点となるフリースローを2本ともしっかり決めていた。

インサイドで持ち味を発揮していたジョシュ・スコット 写真/B.LEAGUE
インサイドで持ち味を発揮していたジョシュ・スコット 写真/B.LEAGUE

 また、テーブス海がアグレッシブにゴールへアタックする姿勢を見せ、試合序盤でブレックスが主導権を握るきっかけを作ったこともプラス材料。「昨日もアタックしようとしていたんですけど、前半はパスを探していたというか自分で決め切ることを意識していなかった。後半に自分で決め切るというのを意識していいプレーができたので、今日は最初から自分で攻めようと思いました。渋谷のディフェンスは激しいので、セットプレーをやろうとしてもディナイとかプレッシャーをかけられてプレーが成立しないことも多いので、そういう時は自分の1オン1の力で何とかシュートで終わることを意識していました」と語ったテーブスは、シーズン最多の14点をマークし、先発起用の期待に十分応えた。

ロシター復帰までにブレックスがやっておきたいことは?

 ブレックスは2月中旬までに新潟アルビレックスBB、レバンガ北海道、京都ハンナリーズという下位チームとの対戦が続く。もちろん、決して油断できない相手だが、ホームで4試合戦えることは、ロシター不在の中での戦う経験値と遂行力を上げていくチャンスということで大きな意味を持つ。

 2戦目でゾーンディフェンスを多用してきた渋谷に対し、ブレックスはギャップに入り込んでからの得点機会をクリエイトできずにいた。「ライアンが真ん中に入ってそこからプレーメイクすることが多かった」とテーブスが語ったように、ロシターは冷静な状況判断からパスでチャンスを作り出せることでも貴重な存在。相手がゾーンディフェンスを多用した時など、ロシターのいない状況におけるハーフコート・オフェンスは、遂行レベルを上げなければならない課題になるはずだ。

 しかし、これをクリアできれば、2015年と2019年のセミファイナルのような事態がまた起きたとしても、ゲームプランの準備不足は回避できるだろう。「このままズルズル負けると、他のチームに“ライアンがいないと勝てる”と思われる」という安齋コーチの言葉が象徴するように、オフェンスの遂行に苦しみながらも渋谷との2戦目に勝てたことは、B1王座奪回を目指すブレックスにとって大きな意味があった。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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