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「外国籍選手を守れて当たり前」。野本建吾の存在は秋田の飛躍に欠かせない

青木崇Basketball Writer
信州戦ではホーキンソンとマッチアップした野本(写真提供:B.LEAGUE)

 信州ブレイブウォリアーズとの開幕戦に2連勝した後、秋田ノーザンハピネッツの前田顕蔵コーチは野本建吾についてこう語った。

「今特にこういう状況(外国籍選手が少ない)の中で、彼がサイズという部分で外国籍選手に劣る部分ですけど、フィジカルや機動力というところでチームに勢いを与えているので、そこは非常に高い評価を。チームにとっては非常に貴重な存在だと思っています」

 川崎ブレイブサンダースから秋田に移籍した1年目の2018−19シーズン終盤、野本はペップの愛称で知られるジョゼップ・クラロス・カナルス前コーチ(現ライジングゼファーフクオカ)からスモールフォワードで起用されるようになっていた。その理由は、201cmの身長とディフェンスで対応できる機動力を持っている点。昨シーズン開幕前、野本は新指揮官となった前田コーチに対し、「4番(パワーフォワード)でできる自信がない。3番(スモールフォワード)でやりたい」と要望していた。

 しかし、秋田での1年目は60試合中28試合で出場時間が10分未満。そんな状況だったことからすれば、スモールフォワードに固執するのではなく、ローテーション選手として一貫した出場機会を得られるよう努力するしかなかった。前田コーチが目指しているのは、外国籍選手頼りではなく、全員で一生懸命にディフェンスし、日本人選手が得点して勝てるチームを作ること。5人全員が日本人というラインナップで戦うことに躊躇しないのは、野本の存在によるところが大きい。

指揮官も認める貴重な戦力となった野本(写真提供/B.LEAGUE)
指揮官も認める貴重な戦力となった野本(写真提供/B.LEAGUE)

大きなモチベーションとなっている外国籍選手とのマッチアップ

 日本のバスケットボール界はここ5年で飛躍したが、身長200cmを超える選手の数は依然として少ない。長年日本代表に名を連ねている竹内公輔(宇都宮ブレックス)と譲次(アルバルク東京)は、今も所属チームに欠かせない重要な戦力として活躍中。帰化選手の数が少しずつ増えてきたとはいえ、外国籍選手とマッチアップできる200cmを超える日本人選手の存在は、チーム力を上げるうえで大きな助けになる。

 野本は前田コーチの期待に応え、試合で最大限のパフォーマンスを発揮できるようにハードな練習に取り組んできた。スペースを作るために一生懸命に走り、ディフェンスに全力で戻り、ポジションやリバウンド争いでフィジカルにプレーするといった数字に出ない部分での貢献が、一貫した出場時間を得られるようになった理由。そこに至る過程には、自身のメンタリティに大きな変化があった。

「東地区で2年連続強豪たちと毎回試合をするにあたって意識の違いというのが出てきて、今シーズンは特に『秋田は日本一を目指す』という目標を掲げてやっている。僕自身は外国籍選手とマッチアップすることが多いんですけど、意識の中で守れて当たり前、逆に圧倒しなければいけないという気持を常に持っています。秋田の練習でもKC(カディーム・コールビー)と常にマッチアップをしていて、そうやっていかなければいけないと思うし、ましてや東地区では(ライアン)ロシター選手や(ジェフ)ギブス選手という強くてレベルの高い選手たちと常にやっていかなければいけない。そういう選手たちに勝たないと、秋田は宇都宮に勝てないと思うので、僕自身そういった目標というか、完全に倒しに行くという意識を強く持ってやっていく習慣が、今に至っているという感じですね」

 

ホーキンソンとのポジション争いに勝ってリバウンドを確保(写真提供/B.LEAGUE)
ホーキンソンとのポジション争いに勝ってリバウンドを確保(写真提供/B.LEAGUE)

 信州戦での野本を見ていると、迷いなく思い切りプレーできていて、自信を持っているなという印象を持った。昨シーズンまでは、オフェンスでボールをもらってもアグレッシブにゴールに攻めるシーンがほとんどなく、次の展開につなげる動きが大半。しかし、信州との2試合は身長で優位なミスマッチの状況だけでなく、ジョシュ・ホーキンソン相手でもみずから仕掛けて得点を奪いに行くシーンが何度かあった。

「僕自身は絶対的にどの選手よりも機動力とかディフェンスの面では負けない自信があるので、ホットな外国人選手をストップするのが当たり前の意識でやっています」と語る野本にとって、秋田移籍後の自己最多を更新する11点を記録した第1戦のパフォーマンスは、今シーズンのスタンダードにしたいところ。前田コーチの目指すバスケットボールを体現して勝利を積み重ねるには、野本が得点で貢献することが必要。自身にもその覚悟はある。

「本当にどんなポジションでもちゃんと準備していますし、今年は4アウトでやっているので、どのポジションでもきちんとやっていかなければいけない、できるようにしていかなければならないというのはあります。秋田だけではなく、世界的なポジションレスでやっていけるように、自分自身もいろいろな練習に取り組んでいますし、勝つためにそういうのも必要だと思うので…。自分の中で大事にしているものを試合で出していって、チームが勝てるように、勝たせられるようにどんな貢献でもしていきたいと思っています」

信州の初戦で11点を奪うなど、得点への積極性も増している(写真提供/B.LEAGUE)
信州の初戦で11点を奪うなど、得点への積極性も増している(写真提供/B.LEAGUE)

大きな刺激を受けた古川のリーダーシップ

 大学卒業してからトップリーグでプレーするようになって5年が経過した今、野本は自身の立場が変化していることを認識している。秋田にやってきてからは、チームのためにディフェンスもオフェンスも一生懸命にやるというだけの印象だったが、信州との開幕戦ではみずから積極的にコミュニケーションを図るシーンが見られた。

 心と身体の準備がしっかりできた状態で試合に臨み、攻防両面で積極的なプレーをしていることは、正に自信のレベルが上がった証と言える。リーダーの一人として声を出すことに対し、野本はまったく躊躇がない。このような変貌を遂げたのは、宇都宮ブレックス時代にファイナルMVPに輝くなどB1制覇に大きく貢献し、日本代表としても経験豊富な古川孝敏の存在が大きい。

「優勝するために味方がより良い(状態で)、気持よくプレーさせること、チームに勢いを与えられる、ミスしても『オレたちがいるから安心してプレーしろ』というくらいの安定感。フルさんも言っていたんですけど、練習中常に秋田に来て1年目の頃から『お前たちのミスはオレがカバーするから、思い切りプレーしてこい』と言われたのがすごく心に残っています。自分もこういう選手になりたいと思っていますし、僕が28歳の中堅として若手たちにできることは、彼らにいいプレーをしてもらえる支えになること」

 古川はシュート力を武器に得点面で計算できるだけでなく、ディフェンスでも得点を防ぐために激しくコンタクトしてのファウルをすることも厭わない。ミスしてもすぐに気持を切り替え、次のポゼッションできちんと仕事をすることができる選手。昨シーズン秋田にやってきたベテランの姿を見続けたことは、野本にとって大きな刺激になったのである。

「フルさんを毎日見ていて思うんですけど、今までは自分が納得いかないファウルとかでリズムを狂わされたり、他にもいいプレーとかできなかったりして『なんでだよ』っていうリズムで自分をコントロールできなかったんですけど、今はそういうことよりもちゃんとした軸を持って、存在があるだけでチームにいい影響を与えられる選手、フルさんを見ていてすごいなと思いました。自分もそんな選手になりたいと思って、プレーはもちろんですけど、そういう存在になっていけるようにやっていきたいと思います」

 今後、ハビエル・カーターとアレックス・デイビスの外国籍選手が合流したとしても、野本はチームにポジティブなインパクトをもらたすに違いない。貢献度が高くなればなるほど、秋田は成功のシーズンに前進することを意味する…。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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