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山下泰弘の挑戦は順風満帆から波乱の連続へ。今は島根スサノオマジックのB1残留に全身全霊を注ぐ

青木崇Basketball Writer
2月15日に移籍後初めて古巣の本拠地に戻ってきた山下 写真提供=B.LEAGUE

 Bリーグがスタートする前の2016年春、シリーズ2連敗からの3連勝でNBL最後の王者に輝いたのは、川崎ブレイブサンダースの前身である東芝。代々木第2体育館のコートで喜びを分かち合う選手たちの中に、山下泰弘の姿もあった。控えのガードとして2015-16シーズンに平均11.9分の出場時間を得ていたが、オフになると地元の福岡に本拠地を置くライジングゼファーフクオカへの移籍を決断。当時のチームメイトには、「僕はB3のチームに移籍するけど、最短で(B1)に帰ってきてまた試合がしたい。ファイナルで試合をしましょう」という言葉を残した。

 あれから約3年半が経過した2月15日と16日、島根スサノオマジックの一員となっていた山下は、B1ファイナルでなかったものの、とどろきアリーナで古巣との対決を実現。「とどろきは20代のほとんどを過ごしたので、その体育館で試合ができるのを非常に楽しみにしていました。この2試合チームは負けてしまいましたけど、すごく楽しかったです」と語った33歳のベテランガードは、元チームメイトに対しての有言実行を果たしたのである。

 福岡に戻ってから最初の2年間は46勝6敗、43勝13敗という成績を残し、B3からB2、B2からB1へと昇格するという山下が思い描いたプラン通りに物事が進んだ。個人スタッツはこの時期に平均得点とアシストで自己最多を記録しており、「みんなの前で最短で戻ってくると宣言して、本当にB1へ戻ることができました」と新たなチャレンジに対しての誇りを持つ。しかし、B1の舞台に戻った3年目で事態は一変してしまう。

古巣との一戦後に取材を受ける山下 写真=B.LEAGUE
古巣との一戦後に取材を受ける山下 写真=B.LEAGUE

 開幕から7連敗を喫してB1昇格に貢献した河合竜児コーチが解任され、その後も厳しい戦いの連続で12勝48敗の成績で西地区最下位に終わる。しかし、それ以上に厳しかったのはチームの経営状態。B1ライセンス維持に必要な資金調達ができず、昨年4月9日に“解除条件付きB2ライセンス”という裁定を下されてしまう。オンコートでのパフォーマンスと結果に関係ないところで決まったB2降格は、山下にとってもフラストレーションを感じざるを得なかった。

「東芝を離れるときに相当な覚悟とプライドを持って移籍しました。本当は東芝でずっとやれるのが僕にとってよかったのかなという思いもある中での決断だったので、必ず結果を出そうという気持でいました。昇格するところまでは有言実行としてできたんですけど、その後チーム状況がよくない中、選手だけではどうにもすることができない状況になってしまったので、そこに対するフラストレーションというのはありました。

 本当に覚悟を持って地元福岡に帰って、“福岡を何とか”いう思いでやっている中で、何より申し訳なかったのがたくさんのブースターの皆さんが応援してくれていましたし、スポンサーも支えてくれました。そういった方々には申し訳ない気持でいっぱいです」

 そんな思いを持ちながらシーズンを終えようとしていた時、山下は新たな決断を下す。妻の故郷がある島根への移籍だった。決断を下した当時、島根はB2のチャンピオンシップを戦っていたが、3位決定戦で熊本ヴォルターズを破ってB1昇格を決める。優勝した信州ブレイブウォリアーズ、準優勝の群馬クレインサンダーズがライセンスを持っていなかったという事情があったとはいえ、山下は新天地でもB1でプレーする機会を得たのだ。

「福岡でダメだった分を島根でもう1回チャレンジしたいという中で、B1昇格を決めてくれてチャレンジできることになりました」と話してくれたのだが、島根でも予想し得なかった事態に直面する。Bリーグは1月21日、鈴木裕紀コーチがパワーハラスメントを理由にBリーグから2か月の職務停止、チーム首脳陣にも処分を科すことを発表。2年連続で自身でコントロールできないところで再び苦境に立たされた山下が、「この問題はなかなか選手から語れることが少ないですけど、今現在でも切り替えが難しいところではあります」と話すのも仕方ない。

 しかし、福岡の時と違ってコート上で結果を残せば、B1に残留できる状況。だからこそ、「その中でも僕らはプロですし、川崎までたくさんのブースターが足を運んでくれている素晴らしいチームなので、そこを言い訳にせず、ピンチをチャンスに変えていきたいなと、選手たちの間で話しています」というアプローチが山下にはできるのだ。また、鈴木コーチの代役として指揮することになった人物が、福岡で一緒にB1昇格を果たした河合というのは、山下の思いをより強くさせた。

「縁を感じますし、福岡の時も河合さんにいろいろあって、B1でまだ、1勝もできないまま終わってしまったところがありました。この縁がある中、準備期間のなさや練習ができない厳しい状況でも、河合さんのために個人的には1勝でも多くプレゼントしたいなと思っています」

島根をB1に残留させるためには山下の経験とリーダーシップが欠かせない 写真=B.LEAGUE
島根をB1に残留させるためには山下の経験とリーダーシップが欠かせない 写真=B.LEAGUE

 16日の川崎戦を終えた時点で、島根の成績は11勝28敗。ここ11試合で10敗と苦しんでいる。しかし、残留プレーオフ回避できる順位にいるレバンガ北海道との差はわずか2ゲーム。残り21試合あることからすれば、この状況から這い上がって残留することは十分可能だ。島根はロバート・カーター、ブライアン・クウェリ、ドゥワン・サマーズの外国籍選手が得点面で牽引することが勝つために必要で、山下も「正直メンツだけで見ると物足りないというような評価をされていると思いますけど…」と否定しない。それでも、個人として結果を出していくために今のチームで何ができるかを考えてプレーし、目の前の試合で勝利に貢献することを望んでいる。

 東芝を離れて以来、山下は波瀾万丈のプロ生活を過ごしてきたが、島根で過ごす今こそキャリア最大のチャレンジ。そんな経験ができることをポジティブに捉え、リーダーの一人としてチームのB1残留に向けてハードに戦い続けるつもりだ。

「このピンチで言い訳をして、チームがこうだから勝てませんでしたというのは簡単なんですけど、少しでももがきあがいてB1に残留できるように頑張っていきたいです」

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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