Yahoo!ニュース

NCAAファイナル4進出のミシガン州大が強い理由は伝統のドリルにあり。B1に在籍するOBが証言

青木崇Basketball Writer
リバウンドやルーズボール争いの強さがミシガン州大(白)の伝統(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 アメリカで生活し始めたばかりの1998年の11月から、筆者はミシガン州大の試合を何度も取材してきた。2000年にNCAAトーナメントを制した時のチームは、選手の家族とも交流があったことや、トム・イゾーコーチの名前を活用したIzzoneという学生応援グループの一員に、日本人留学生がいたことでも、今も強く印象に残っている。NBAのサマーリーグで笛を吹いたことがあり、現在FIBAのレフェリー・スーパーバイザーを務める上田篤拓もOBの一人だ。

 イゾーコーチによるリーダーシップの下、ミシガン州大はここ20年間、心身両面で強靭な選手たちを揃えたチームとして、NCAAの強豪としてカレッジ・バスケットボール界で認知されている。この間にNBA選手を数多く輩出しており、ゴールデンステイト・ウォリアーズのドレイモンド・グリーンは、タフなディフェンスとリバウンド力が武器というミシガン州大を象徴する選手だ。今季もビッグテン・カンファレンス・トーナメント制覇でNCAAトーナメント進出を決めると、東地区決勝でNBAドラフトNo.1ピックが濃厚と言われるザイオン・ウィリアムソンを擁する優勝候補のデューク大を68対67で撃破し、通算10回目のNCAAファイナル4進出を決めた。

 今季のチームも例年同様、リバウンドの強さが武器。1試合平均で相手を8.9本上回り、相手より少なかったのは38試合中6試合のみ。15本以上の差をつけた試合が9つもある。ミシガン州大がリバウンドで強さを発揮できるのは、フィジカルの強さとメンタルのタフさによるところが大きい。試合中に弱さを見せるようなことがあれば、イゾーコーチの檄が飛ぶ。心身両面で強靭な選手へと成長し、強豪であり続けるカギとなっているのが、ミシガン州大の伝統となっているリバウンドのドリルだ。

 その名は「War drill(戦争ドリル)」

 ミシガン州大が所属するビッグテンは、アメリカンフットボールでも強豪が揃うカンファレンス。バスケットボールもフィジカルの強さが求められる点では、全米屈指と言える。War drillは選手全員がアメリカンフットボールの防具を身につけ、ヘルメットのフェイスガードを掴むことを除けば、リバウンドを奪うためなら何をしてもOKという激しいもの。押して倒すことなどは序の口で、タックルで突き飛ばすことも当たり前。このドリルをやり抜く心身両面での強靭さがなければ、ミシガン州大の選手として試合に出ることはできないのだ。栃木ブレックスに在籍するアンドリュー・ネイミックはミシガン州大のOBであり、War drillを経験してきた選手。12点、7リバウンド、2アシスト、2スティール、3ブロックをマークした3月24日の横浜ビー・コルセアーズ戦後、War drillについて質問してみると、次のような答えが返ってきた。

「いい思い出よりも、悪い思い出のほうが多いよ(笑)。これはイゾーコーチによるシステムの一部であり、選手たちをよりタフにさせるんだ。顔にエルボーを受けようが、口にパンチが当たろうが、やり続けてリバウンドを奪うという仕事を成し遂げるしかない。War drillのいいところは、メンタルタフネスと苦境を跳ね返す力をチームにもたらすこと。重要な試合に負けた後、翌日にマネジャーがコート中央にフットボールの防具を置いている。選手たちがそれを身につけたら、すぐに激しくやり合うんだよ。高校まで本格的にやっていた選手のタックルは強烈だったけど、防具を身につけてぶつかり合ったのは楽しかったね」

 

 2年間ミシガン州大に在籍した際にネイミックと一緒にプレーしていたモーリス・ジョセフ(前ジョージ・ワシントン大ヘッドコーチ)は、War drillについての思い出をこう振り返る。

「アウェイでライバルのミシガン大に負けた後、バスで学校に戻ってきたのが午前0時。(ホームアリーナの)ブレズリン・センターに行くと、コート上にはフットボールの防具が置かれていた。そこからすぐにWar drillが始まったよ。自分はフットボールをやっていなかったから、その激しさに最初ついていけないところもあったけど、あの時は本当に激しかった。フットボールの経験がなかったポイントガードのドリュー・ナイツェル(182cm)がリバウンドを奪った後、ランニングバックのようにボールを抱えながらFワード(放送禁止用語)を連発しながら突進し、そのままシュートを入れたんだ。それを見たイゾーコーチが”Yeah!”と叫んだ後、ドリルは終わった。時計は午前1時を過ぎていたと思う」

現在栃木ブレックスでプレーするネイミックは、2005年にファイナル4を経験 (C)TOCHIGI BREX
現在栃木ブレックスでプレーするネイミックは、2005年にファイナル4を経験 (C)TOCHIGI BREX

 このエピソードを覚えているか? とネイミックに質問してみると、「そんなことあったね。ナイツェルは高校でフットボールをやっていなかった。彼はボールを奪い取る術を見つけ出し、ディフェンダーを突き飛ばして得点したんだ。イゾーコーチはそれをすごく気に入ったし、チーム全体がすごく盛り上がった。ナイツェルがあんなことやるなんてだれも思っていなかったからね。あれはいいエピソードだったし、いい思い出を甦らせてくれてありがとう。War drillをやり遂げたからこそ、今はいい思い出として話せるし、ジョークとして笑えるよね。タフネスが身につくだけでなく、チームメイトとの一体感も増した」と答えてくれた。

 NCAAトーナメントにおける最高の思い出としては、「2005年に同じ週にデューク大とケンタッキー大を倒してファイナル4に進出したことだね。当時の自分はメインの選手じゃないから、短時間しかプレーできなかった。でも、あれは本当に信じられない経験だったよ。素晴らしいプログラムを立て続けに破ってのファイナル4進出だから」と語ったネイミック。War drillを経験することで逞しくなった後輩たちのファイナル4進出は、ネイミックにとって大きな誇りであるとともに、イゾーコーチによって構築されたミシガン州大の伝統がしっかり継承されている証と言える。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

青木崇の最近の記事