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【滋賀レイクスターズ】チームからファミリーへ。連敗脱出以外にも大きな意味があった栃木戦での1勝

青木崇Basketball Writer
伊藤(#35)の経験は滋賀にとって大きなプラス 写真提供/滋賀レイクスターズ

 11月3日、栃木ブレックスとの対戦が迫っていた滋賀レイクスターズに辛いニュースが飛び込んできた。

 紺野ニズベット翔の母急逝。

 これは試合開始の約3時間前にチームから発表されたが、下のツイートを見た瞬間「今日の滋賀は100%以上の力を出すかもしれない」と感じた。

 そのきっかけを作ったのは、1Qで2本の3Pシュートを決めるなど、15点を奪ったキャプテンの狩野祐介。狩野のシュートが当たったことで滋賀は主導権を握り、得点源であるディオール・フィッシャーとガニ・ラワルが57点を稼いでチームを牽引した。特にラワルは4Qと延長の終盤でビッグショットを連発。4Qにジェフ・ギブスが一度確保しかけたリバウンドを奪い返し、豪快なダンクを叩き込んだシーンは、ショウのために絶対勝つという強い気持を象徴するものだった。

 連敗を止めたいという気持に加え、ショウと彼の家族のためという新たなモチベーションによって生まれた強い一体感は、滋賀が延長の末に93対90のスコアで勝てた理由の一つと言える。バスケットボールというスポーツは、チームとして実力を発揮できなければ試合に勝てない。しかし、感情が勝利に直結する場合もある。アメリカで取材していた時期、感情が大きく影響した試合を何度か現場で見ており、滋賀の勝利は正に当てはまると思えたのだ。

 チームの一体感が増すきっかけは様々。個人的な印象を言わせていただくと、残念なことをきっかけにする場合が多いという印象を持っている。紺野の身内に起きた不幸は本当に悲しい出来事だ。それでも、滋賀が11月3日の試合に勝てたことは連敗脱出という意味に加えて、チームの一体感を強くするために必要な1勝だったのである。この試合で6アシストを記録した司令塔の伊藤大司に話を聞いてみると、次のような答えが返ってきた。

「本当に悲しいことですけど、ブラザーに不幸があった。そのブラザーのために俺たちで頑張ろうということで、ファミリーになれた感じがあります。チームとして一致団結というか、一つになれた気がします」

 伊藤自身も紺野と同じような年齢で、父親を亡くした辛い経験があった。三重県の実家から遠く離れたポートランド大でプレーしていた時に起こった不幸であり、21歳でニュージーランドから滋賀にやってきた紺野の気持をだれよりも理解できる。「親父が亡くなったあとコーチに相談しましたけど、それを知ったチームメイトたちが部屋まで来て、みんなハグをしてくれました。お葬式から戻ったあとはみんなが本当にブラザーとして扱ってくれて、コーチも選手も『じゃあ、もう1回みんなで!』と一致団結し、ファミリーになれた感覚がありました」と自身の経験を語る伊藤は、紺野にとってよき兄貴分になるだけでなく、滋賀がチームとして成長するうえで欠かせない存在なのだ。

 チームメイトがブラザーになり、チームはファミリーとして一つになる。紺野が戻ってきたとき、滋賀は成長への新たな一歩を踏み出さなければならない。そして、伊藤の言葉を体現し続けることが、チャンピオンシップ進出に欠かせない要素になるだろう。

「ブラザーが落ちたら励ます。それをコートの中でも毎試合やらなければならない。それができれば、オーバータイムのタフな試合も勝てるようになる」

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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