Yahoo!ニュース

【FIBAWC予選】タイペイ戦で指揮官の信頼度が高いことを証明するプレーを見せた田中大貴

青木崇Basketball Writer
タイペイ戦は攻防両面で堅実だった田中 Photo by FIBA.com

 Bリーグでの田中大貴は、攻防両面でオールラウンドなプレーをできるシューティングガードとして、確固たる地位を築いたと言っていい。元々の強みだったディフェンスを切り裂くようなドライブからのフィニッシュに加え、ピック&ロールから自身やチームメイトの得点機会をクリエイトできるようになった。また、ディフェンスでも非凡な身体能力を生かし、タフにやり続けられる選手へと成長している。

 ところが、日本代表として出場したワールドカップ予選のウィンドウ1(昨年11月)、ウィンドウ2(今年2月)では、能力を一貫して発揮できずにいた。Bリーグ・チャンピオンシップのセミファイナルでケガした影響で、代表合宿の練習にはほとんど参加できず、韓国との2試合も欠場を強いられる。コンディションとゲーム感覚を取り戻せるかという不安がある中、田中は6月29日のオーストラリア戦にこれまでの4試合同様に先発で出場。久々の実戦だった影響は、25分17秒間のプレーで7本中1本しかシュートを決められず、オフェンスで苦戦を強いられたことでも明白だった。

 しかし、ディフェンスでの貢献度はすばらしかった。オンボールでは身体を張ってのフィジカルな対応を見せ、オフボールの局面でも故障上がりと思えない動きでマッチアップする選手を厳しくチェック。2-3ゾーンでは手足をアクティブに動かすなど、ディフェンスにおける田中のハードワークは、オーストラリアのFGを34.1%に抑え込む一因となっていた。大学時代から試合で何度もマッチアップしてきた比江島慎が、「ディフェンスに関してはあの2人(田中と馬場雄大)のほうがしっかりやれている」と語るのも決して驚かない。

 得点源として活躍するシーンの多い比江島に比べると、田中は代表で一貫したパフォーマンスを発揮できずにいた。2016年の夏には、五輪最終予選のメンバーから落ちるという悔しさを味わっている。「大貴は我々にとってチームの中心選手の一人で、とてもキーになる選手。元々ディフェンスができる」と話すように、フリオ・ラマスコーチは日本代表にとって欠かせない重要な選手としてすごく信頼している。田中が7月2日のチャイニーズ・タイペイ戦で見せたパフォーマンスは、これまでのウィンドウ1と2の4試合、先週のオーストラリア戦と違い、指揮官の期待に十分応えたと言えるものだった。

 1Qこそ1リバウンド、1アシストとあまり目立たなかったが、田中は2Q序盤で2本スティールしたことでリズムをつかむ。代表戦でなかなか入っていなかったアウトサイドからのシュートは、2Q6分40秒に左ウイングから3Pを決めたことで自信を取り戻したように見えた。その後2本のアシストを記録して迎えた残り17秒、ピック&ロールからオープンで打てる状況を自身で作り、ミドルレンジのシュートを決めたシーンは、アルバルク東京で何度も見せたプレーを思い起こさせる。

「オーストラリアの時にタッチがよくなくて、あのレベルの試合で数少ないチャンスを決められるようになりたいですし、相手がタフなディフェンスをしているときこそ、もっとボールをもらって崩したりというのができるようにしたい。今日の試合に関しては勝てたのがうれしいですけど、オーストラリアのレベルの中でもいいプレーができるように、もっと成長しなければならないと思います」

 こう振り返る田中は、チャイニーズ・タイペイ戦の出来に満足していない。とはいえ、持ち味の一つとなったピック&ロールからの仕掛けが増えたのは、5アシストという数字でも明らか。26分34秒間で8点というのは、代表に定着したBリーグトップクラスのシューティングガードとして物足りないかもしれない。しかし、打ったシュートは4本ということからすれば非常に効率良く、ターンオーバーが0本でスティールも3本。貢献度を示すEFFで17という数字は、「キーになる選手」というラマスコーチの言葉を象徴していた。

 ニック・ファジーカスと八村塁の代表入りは、1次予選敗退の危機で迎えたウィンドウ3で2連勝できた最大要因。2人の存在がチーム全体に大きな自信をもたらしたことは、田中も「結果としてオーストラリアに勝って、今回(のタイペイ戦)も勝って結果が出ているので、その分みんなも自信はついていると思います。もっともっと突き詰めていけるし、細かいところも改善できると思います。ただ、これで次に進めるので、それはやる側としてすごくうれしいですし、モチベーションになりますね」と素直に認める。その一方で、ウィンドウ1と2で苦しんだ経験を糧に、2次予選を勝ち抜いてのワールドカップ出場権獲得を目指し、気持がよりポジティブになっているのは確か。ファジーカスと八村を頼りするのではなく、日本代表としてさらなるレベルアップの必要性を改めて認識した田中は、9月の2次予選に向けて新たなチャレンジ、ハードワークの日々を過ごす覚悟ができている。

「ウィンドウ1、2と結果が出ない中でも、ずっといたメンバーは必死に取り組んでましたし、やり続けたことは無駄じゃなかったと思います。2人が入って一歩上のレベルのチームになっているという実感はありますけど、そこだけではなく、他のメンバーがこれから先どう頑張るかが自分は大事だと思います。その中の一人として結果を出せるように、これで(代表戦は)ちょっと空きますけど、しっかりトレーニングをして9月に帰ってきたいと思います」

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

青木崇の最近の記事