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【B1チャンピオンシップ】千葉のアドバンテージは無形の要素で多くのプラス材料をもたらすパーカーの存在

青木崇Basketball Writer
ギャンブル・ディフェンスが嫌といえ、大野コーチのパーカーに対する信頼度は厚い(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

 頂点を争う決勝戦のようなビッグゲームになればなるほど、1プレー1プレーの重みが増す。バスケットボールに関していえば、オフェンスでもディフェンスでも、目の前にある1ポゼッションに最大限集中しなければならない。千葉ジェッツとアルバルク東京の間で争われるB1チャンピオンシップも、決して例外ではない。

 直接対決やシーズンを通じてのスタッツをチェックすると、それぞれの強みや特徴がわかってくる。また、映像でスカウティングすれば、傾向も把握できるものだ。しかし、アーリーカップの決勝を含めるとすでに7度対戦しているだけに、両チームはお互いのことをわかっていると言っていい。では、チャンピオンシップで違いをもたらしそうなものは何か? と問われれば、筆者は数字に出てこない要素と答える。

 アメリカでバスケットボールの中継を見ていると、“intangible”という言葉が出てきたり、耳にすることがある。訳すと「無形の」という意味になるが、バスケットボールではスタッツに出てこない要素ということになる。ビッグゲームになると“intangible”に該当する1プレーが、試合に大きな影響を及ぼしたとしても驚かない。今年のB1チャンピオンシップにおける“intangible”に焦点を当ててみると、マイケル・パーカーの存在が千葉のアドバンテージになるような気がしている。

 来日してから11年目を迎えるパーカーは、bjリーグのライジング福岡や島根スサノオマジック時代にスコアラーとして活躍してきた。しかし、昨季から在籍する千葉では、抜群のバスケットボールセンスを武器にしたオールラウンダーとして存在感を増し、特にディフェンス面で相手からすると嫌な選手になっている。その理由は、プレーを先読みすることや選手の傾向を直感で把握し、相手がやりたいオフェンスを簡単に遂行させないようにするプレーだ。「あまりギャンブルしないように」と大野篤史コーチは口にするものの、パーカーはいい意味でよく手が動き、パスコースを遮断するだけでなく、ボールを弾くことやスティールに結びつけることも非常に多い。

 平均1.9本で今季のスティール王となったパーカーがコート上にいるとき、ボール保持者は常にパスの出し方で注意を払う必要がある。特にポストアップする選手へのエントリー、ドライブからのキックアウトは、スティールやボールを弾かれるディフレクションの餌食になりやすい。ディフェンスの戻りが遅いと見せかけて、パスが出そうな瞬間にギアを上げて完璧なタイミングで遮断するシーンが何度も見られる。スティール1本というスタッツが出たとしても、それに至るプロセスはパーカーにしかない特別なスキル。これこそが“intangible”なのだ。

 パーカー自身に直感やプレーを読むことについて以前聞いた際、「正直なところわからない。できてよかったなと思える部分かな。どうやって練習したかとかいうのはないから、予知する能力だろうね。どうしたらいいのかを一瞬で判断するという直感から起きていると思う」という答えが返ってきた。高校時代までフットボール、野球、陸上、レスリングをやっていたことも、バスケットボール選手としてプラスに働いているとパーカーは認識している。

 相手のプレーを読んだディフェンスだけではない。ちょうどいいタイミングでちょうどいい場所にいることで、千葉にすばらしい結果をもたらすシーンも数多い。オフェンス・リバウンドやルースボール争いで勝つことは、ハードワークからのハッスルプレーがほとんど。しかし、パーカーの場合はin the right place at the right timeという表現がピッタリな、このちょうどいいタイミングでちょうどいい場所にいることが多い。シュートがリムを弾いて相手がディフェンスで止めたと感じた直後、あの場所になぜいるのかと思いたくなるようなオフェンス・リバウンドを奪うことで、自身の得点や千葉にセカンド・チャンスをもたらすこともしばしば見られる。琉球ゴールデンキングスとのセミファイナル第1戦後、大野コーチはこう語っていた。

「僕らはタフリバウンド、タフルースボールと言うんですけど、ボールに対する執着心は本当にすごかったと思います。彼が取れそうもないようなリバウンド、ルースボール、スティール、そういうところで彼が戦ってくれたおかげで、琉球のオフェンス・ポゼッションの回数を増やさせなかったところも勝因の一つ」

 指揮官の言葉どおり、パーカーがハードワークをしていることはまちがいないし、自身も「レギュラーシーズンのことは忘れて、できる限りのことを最大限にやり、よりハードにプレーしなければならない」と語っている。しかし、そういう風に見せないあたりも、“intangible”で違いをもたらすと思える理由の一つ。相手にしてみれば、“嫌だな”と思いたくなるようなプレー、数字に出ない小さなことによる貢献を非常に重要な局面でやり遂げるパーカーの存在は、B1チャンピオンシップで勝敗を分ける要素になりそうな気がしている。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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