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ウィッティントンの一件はBリーグが薬物検査のあり方を見つめ直す絶好の機会

青木崇Basketball Writer
Bリーグ主導の薬物検査が必要なことを示したウィッティントンの一件(写真:アフロスポーツ)

 1月23日にグレゴリー・ウィッティントンが大麻取締法違反の容疑で逮捕されたというニュースは、Bリーグにショックを与えた。レバンガ北海道はニュースが出る前に個人的事情で契約解除と発表したものの、逮捕が理由なのは明白である。

 Bリーグのチームがいい結果を出すには、質の高い外国人選手の獲得が欠かせない。ただし、詳細なバックグラウンド・チェックをできるかといえば、その現状は難しいと言わざるをえない。それでも、獲得しようとする選手の居住地では大麻が合法なのか、非合法なのかをチェックすることは、ジェネラル・マネジャーといった人事権を持つチームの役員がしなければならない仕事と言える。

 アメリカでは2012年のコロラド州とワシントン州を皮切りに、大麻を合法とする州が増加中。ペイサーズやナゲッツなどで16年間プレーしたアル・ハリントンは、将来NBAで医療用大麻が使えるようになることを望んでいる。ウィッティントンの出身地であるメリーランド州は医療目的で使うことに限れば合法。近隣にある首都ワシントンD.C.だと2オンス(約28.35g)までの所持が認められていることからすれば、罪の意識がなかったのかもしれない。しかし、日本では非合法であり、認識が甘いという批判を受けて当然だろう。

 ウィッティントンについては、大学時代に学業成績を理由にチームから追放された過去もある。オフコートで問題を起こした過去のある選手の獲得は、日本だとあまりにもリスクが大きいという気がしている。その一方で、コミュニケーションを綿密に図ったうえで獲得したとしても、コートに出ると人格が一変することが来日後にわかり、問題行動を理由にアルバルク東京からカットされたトロイ・ギレンウォーターのような例もある。

 昨季終了後、ある選手は好条件での残留をオファーされながら、日本に来ることよりも故郷での生活を選んだという話を耳にした。こういった話を聞いて思うことは、外国人選手の獲得がいかに難しい仕事かという点。「ドリュー(ネイミック)を除けば、最近は日本で実績のある外国人選手しか獲得していない」と栃木ブレックスの鎌田眞吾社長が語るように、できる限りリスクを回避しようとするチームもある。

 千葉ジェッツは問題回避の一環として、外国籍選手の一時帰国を認めない代わりに、家族も一緒に住めるように最大限のサポートを行っている。天皇杯の開催期間などのブレイクを利用したシーズン中の一時帰国は、コンディションにも影響するという考えがあるからだ。ウィッティントン逮捕のニュースでは、昨年11月下旬にアメリカから大麻を発送しての密輸した疑いと報じられている。それが事実であれば、故障で離脱した際の一時帰国中に大麻を購入したというシナリオも想像できる。

 レバンガ北海道の横田陽CEOと2月9日のサンロッカーズ渋谷戦前に話をした際、人事担当に対する「指導不足だった」と反省の言葉を口にした。そして、外国人選手に対しては、税金のことよりも検査の徹底と教育を行うことが大事だと強調。Bリーグに対しては現状を伝え、未然に防ぐためのルール変更を提言するという。

 シーズン中にドーピング検査が行われているといえ、日本アンチ・ドーピング機構が日本バスケットボール協会とBリーグの了解を得た状況での実施。Bリーグのバイスチェアマンを兼任する千葉ジェッツの島田慎二代表取締役が、「リーグとして過不足なくやるのか、補助するのかを議論中。クラブとしてドーピング検査ができるか否かは、リスクマネージメントにおける経済格差を生む」と話すように、ウィッティントンの一件を契機に、Bリーグ主導で検査を行う体制を整える時期だと感じる。

 Bリーグの選手契約書(日本語)にある履行義務の中には、協会およびリーグの指定するドーピングテスト、薬物検査の受検が明記されている。薬物検査の受検拒絶や陽性結果が確定した時には、チームによる契約解除ができるものの、NBAのような薬物検査に関する詳細な規定がない。NBAは選手に対し、尿検査を6回、血液検査を3回、シーズン中もオフも関係なく1年を通じて無作為に行っている。世界アンチ・ドーピング機関に認められた研究所での検査は、225種類以上の物質をチェックできるそうだ。

 BリーグはNBAに比べると予算が著しく少ないものの、選手会と合意したうえで薬物検査を年間を通じて複数回受けることを義務付けるなど、より詳細に明文化された規定がほしいところ。選手契約書には、居住地での大麻保持が合法であっても日本は非合法という記載をしてもいいはず。盛り上げるためのマーケティング戦略やエンターテイメントにお金をかけてきたBリーグだが、ウィッティントンの逮捕は運営の根本を見つめ直すいい機会。ドーピングと薬物検査の費用捻出は、最優先事項の一つに値するのでは…。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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